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29話 街へ帰還/新しい街

夕方に出発した馬車は翌日の昼に街に到着し、衛兵の詰所前で停まる。

「着いたぜ、じゃあ旦那はそいつを頼んだ。お嬢さんの方はどうする?」

「私は教会に行ってみる。アル殿、終わったらギルドで待っててくれ」

「んじゃあ俺はこの積荷をなんとかするよ」

「おい、行くぞ」

「ああ」

腕を縛った男を連れて入り口に近づくと、立っていた衛兵が寄ってきて声をかけられる。

「どうしたんだ?」

「野盗の一人だ。俺達を襲ってきて、捕まえた」

「ああ、間違いねぇ。俺は盗賊だ」

「やけに素直な盗賊だな。まあいい、話はこっちで聞く。ついてこい。あなたも事情を説明してもらえるかな?」

「わかった」


事情聴取を終えて、詰所を後にする。

「はあ…こういうのは疲れるな…」

何があったか、どういう状況だったかを根掘り葉掘り聞かれた。こういうのは本当に疲れる。昨日の夜も結局警戒していたせいでロクに寝れなかったから早く寝たい。

はあ…ルルの方は教会だったか、うまくやってるといいが。




「ここだぜ、お嬢さん?」

「ああ、助かった」

ケビンと言うよく喋る御者に教会まで連れてきてもらった。こいつは昨日の夜もずっとしゃべり続け、寝ようとしていた全員が苛立っていたのを覚えている。

「んじゃあ、またな」


「誰かいるか?…」

教会の扉を開けて中に入る、祈りを捧げている者が数人、そして優しげな表情で本を読む神父が一人。その男に近づく。

「どうされましたかな?」

こちらに視線を向けて、手に持った木箱に気付き、姿勢を正す。

「埋葬ですか?しかし、埋葬は特別な儀式、今日はもうできません」

「わかってる。だから預かってくれ、そして勝手に埋葬してやってほしい」

「ん?よろしいのですかな?」

神父が困った顔でこちらを見る。だがそれ以上言うこともない。村の未来を考えている私達を冷遇し、我欲を満たすことしか能の無い男、そしてそれにあやかろうと媚びる者達には十分過ぎる手向けだ。

「ああ、そいつは正直言ってもう関係のない者だ。一応の礼儀の為にしているだけのことだから」

「そうでしたか。深い理由は聞きません、それにあなたの瞳は思い悩んでいる様子もない。ですが何か悩むことがあるのならばここに来てお話しください」

「フッ、私は神の教徒じゃないぞ?」

「それは関係ないですよ、ここは誰でも訪れてよい場所ですから。それにここにいらっしゃる方達も一つの神の信徒と言うわけではないのです」

ここはひとつの神を信じる者が集まる教会では無いようだ。大きい街となると様々な宗教がありそれを信じる人がいる、ここはその神への祈りを捧げる為に開かれた静かな教会、なかなかいい場所に連れて来てもらったな。

「なら、また気が向いたらここに来るよ」

「ええ、いつでもお待ちしております」

木箱を引き渡して名前を教えて教会を後にし、アル殿と待ち合わせたギルドに向かう。


アル殿、謎の多い方だ、でももう少し信頼を勝ち取れば自分の話をしてくれるだろう。彼も私とよく似た経験を持っているようだしな… 昔の私はそれをとても悩んだ、少しでも助けられるのなら幸いだ。

しかし謎が多い、どうして不死身である(ドラゴン)の使徒を殺せるのか、それに見たことのない武器ばかりを持っているし、それに見たことのない防具にあの不気味に光る仮面だ。

人柄自体は私の兄に似ている、雰囲気や立ち振る舞いもよく似ているな。特にあの真剣そうな気配を漂わせて話しかけてみるとただぼーっとしているだけのところとか。腕がいいのに誇らないところとか。だからこそ仲良くやれる、そんな気がしているんだが。

「魔女の家か…」

何かある気がしてならない。魔女という者は怪しい噂しか聞いたことがない、誇張されたものもあるだろうが、火の無いところに煙は立たないと言うからな… アル殿はどうにもこちらのことをあまり知らないらしい、その無知に漬け込んで利用しようとしているかもしれない。その時は私はその魔女と敵対する事になるだろう。いや、考えすぎだな。悪い魔女ならあの出来のいい薬を持たせてくれるなんてしないだろうからな。

そんな考え事をしているうちにギルドに到着する。

「こっちが早かったみたいだ」

当然か、もっと色々と聞かれると思ったが名前以外は何も聞かれなかった。この街は人通りも多い、立ち入った話はしないものなんだろう。でも少し冷たい気がしてしまうな…


ギルドの扉を開けると前来た時と同じ席で下世話な話をしながら酒を飲む男三人組、そして私を品定めするような目で見て来る。前とまったく同じだな…

「よう、ダークエルフの嬢ちゃん。こっちに来な!」

はあ…話しかけられた…前に来た時もいやらしい目つきで見られたからな…

「人を待ってる」

「そんならここで座って待ってりゃいいだろ?」

こいつらめんどくさいな…

「諦めてくれ。お前達と酒を飲むつもりはない」

「黙ってここに座れや。亜人種が」

やはりそうだ亜人種を売春婦と勘違いした前時代的な男だ。こういう輩とは関わらないほうがいい。

そのまま立ち去ろうとしたら、酒臭い体格のいい男が前に割り込む。

「どこいくんだ?待ち人がいんだろ?」

「そこをどけ」

「おい、お前。俺のこと舐めてんのか?」

「面倒だな。水でも飲んでこい」

「てめえ、あのイラつく野郎と同じこと言いやがったな!!」

今にも殴りかかって来そうな勢いで声を荒げる。その時ギルドの受付のエルフの女がこっちに来て止めに入る。

「はいはい、もうやめてくださいね」

「クソ!」

「それと、査定の事ですけど。あなたいつになったら成果報告にいらっしゃるんですか?あなた達もですよ?鋼鉄(スチール)になったからといって何もしないで言い訳ではないのですよ?」

三人とも表情を一瞬曇らせたが、開き直って罵倒を始める。

「てめえらがましな仕事をよこしてから文句言いやがれ!!!」

「その通りだ!ロクでもねえ護衛の依頼ばかりじゃねえか!」

「あの、こう言う発言は次の査定に響きますよ?もう手遅れな気もしますけどね?」

エルフの受付嬢は笑顔だったがとても恐ろしい威圧のように感じた。座っていた二人は黙り込み顔を背ける。だが私を止めに来た男は相当気が立っているみたいだ。

「脅してるつもりか?」

「いえいえ、警告です。もう三回も査定をされてないじゃないですか。次の査定を逃したらもう後がないですよ?」

「クソッ…」

笑顔でその恐ろしい気配を発する。前にいた男も言い返せないと思ったのか席に戻る。

「はあ…もう… あの大丈夫ですか?」

「問題ないよ。迷惑をかけて申し訳ない」

「いえいえ。もしかしてお待ちなのはアルヴィさんですか?」

なぜわかった、そう思ったが前回来た時も受付をしてくれていたな。

「そうだ。彼が倒してくれたから報告に来ているんだ」

「そうでしたか!じゃあ手続きをこっちでやっておきますね」

いそいそとカウンターに戻って書類を確認している。


あの後、待っていたら彼がギルドの扉を開けてこちらに気付き小走りでやって来る。

「悪い、待たせたな」

きっと、衛兵に事情を説明させられたんだろう。

「気にしないでいい」

「そっちはうまくいったのか?」

「特に問い詰められなかった。こういうことはよくあるんだろうな、あっちも慣れているように感じた」

「そうか、問題なくてよかったよ。こっちは色々と聞かれて時間がかかった」

「そうだと思っていた、さあ報告に行こう」

「そうだな」


「カモフ村に出た使徒の件だが、完了した」

「はい!さっき聞きましたよ!これで二匹目ですね、これは本物だって証明になりますよ!」

「ああ、もう少し広まると情報も集めやすくて助かるからな」

まだ等級も低いと言っていたな、まだ信用もないんだろう。でもあの不死を殺してくれた、それは村の者達も見ていたからな、本物で間違い無いだろう。

「討伐の確認はもう必要ないですね。脅威度の高い相手だと言うことは確認されたので報酬も上がったはずですよ!えーっと、あれ?金貨90枚?」

「どうした?」

「その…この街との繋がりが薄いので思ったより報酬金は上がりませんでしたね…」

「まあ前よりも多いし、俺はそれでいい。それに次に来るのがもっと増えればいいな」

「そうですね!もっといい依頼がくれば大金も夢じゃ無いですよね!」

報酬を受け取りギルドを後にする。アル殿が魔女の家に案内してくれるそうだ。


「アル殿、その期待の額じゃなかったか?」

「別にいい。まだ前の金も使い切ってないしな」

「あまり金に執着ないのか?」

「ああ。生きていくのに必要かどうか怪しいからな。あの村に居れば知ってるだろ?」

「ハハッ、その通りだ」

「まああって困るものでもないし貰える分は全部貰う」

私の聞いていた街の人とは少し違うな。街にいるやつはみんな金を欲しがってると聞いていた。偏見だったみたいだ。

「しかしアル殿は文明がなくなっても生きていけそうだな」

「ああ、俺がいた世界はいつもその瀬戸際だったからな、そうなった時に生きれるように教えてもらった」

「そんなに危ない場所が?」

「一瞬で街丸ごと消し飛ぶ爆弾がいくつもあった。実際主要都市って言われてた場所はそれのせいで地図にない場所になったからな」

「そんな危ない物がある国なんて聞いたことがないぞ」

「言ってなかったか?俺は別の世界から来たって」

「どう言う意味だ!?別の世界!?」

「こっちと繋がりのない場所から来たってことだ。不思議がってた武器もそこから持ち込んだ物でこっちには多分無い物だ」

そんな事が起こるのか?いや事実、転生者がいるというのは聞いたこともある。でも転生者と言うのは特別な武器や能力を持った者と聞いていた。でもそれはとてつもない才能や真似もできない魔術、とてつもない力を持った武器だそうだが…

「アル殿も特別な力を?」

「それがな…ほら。こうやって弾を作れるんだ」

握った手を開くと、手のひらに先の尖った鉄の弾と言うものがあった。

「だがこれをやると集中するから結構疲れるんだよな、戦闘中とかは使えないしな。一回やって見たら火薬の量が間違ってたのか弾が詰まって銃身が裂けて怪我したからな。準備にしか使えない能力だよ。大したことないだろ?」

代償が疲れると言うことは魔力消費だけで物を作れるのか…錬金術の極地にあるという、無から何かを生み出す術に近いかもしれない… 

「でもその能力は魔法に近いものだ。やはり神に授けられたのか?」

「神じゃなくて悪魔にな」

「悪魔!?」

「大きい声で言うな。こう言うのは言いふらすなって言われたんだ」

「すまない… 悪魔ってどう言う意味だ?…」

「そこまで小声じゃなくていい。まあ言葉の通りだ。悪魔の魔王に(ドラゴン)の使徒を倒してこいって言われた」

「魔王?まさか名前を呼ぶと呪われるってやつか?」

「多分な。一昔前までいたっていう怖い顔したやつだ」

嘘は言ってないんだろう。かの魔王は死霊術に長けていたそうだ、ありえない話じゃない。だが死者が辿り着く場所は神が支配しているはず…どうして…

「まあ詳しいことは俺自身わかってない」

「のんき過ぎないか?」

「考えてもわからないからな」

そう言って兜の位置を直していた。

「もし悪いことに利用されていたら、という風に考えないのか?」

「だったらあの村は助からなかった」

「そ!そうだな…」

全く…今は良くてもいつか悪い事が起きるかもしれないのに…


「ここだ」

彼が指差した場所は四階建の建物、一階が看板も無い店で上に住んでいるらしい。

中に入ると薬と薬の素材が置いてあり、そこに髪が肩まで伸びた美しい女性がカウンターに座っていた。

「ただいま」

「あら!おかえりなさい!思ったよりも手間取ったのかしらね?」

「ああ、予期せぬ事が起きたな」

「フフッ、無事に帰って来て嬉しいわ。それであなたがルルちゃんね?彼の私兵になったのよね、私はレイレイ。よろしくね?」

立ち上がって私の手を握る。どうしてそこまで知ってるんだ、そう思っているのがわかったように自分は未来視の魔女だと言った。その後アル殿は疲れたからと言ってそのまま部屋に戻ってしまい、レイレイ様が部屋の用意をもうしてそうなのでそこで休ませてもらう。


「未来視の魔女か…」

そんな魔術を使えるなんて…アル殿はあまり魔術に関することを理解していないようだが、未来視なんて高等の魔術だ、現存する魔術書があるかすら怪しい。聞いた事があるのは王族の宮廷魔術師に未来を視る、そんな事ができる人がいたと言う事だ。でもその国は彼を呼び出したという魔王に滅ぼされたはずだ。

コンコンとノックの音が聞こえて、扉の外から開けてという声が聞こえる。


「お邪魔したかしら?」

「いや、大丈夫」

「ねえ、ごめんなさいね。勝手に予知して。彼の帰りが思っていたより遅いから気になってしまったの。こういうのは気味悪がる人もいるものね」

申し訳なさそうに頭を下げられる。

「それはいいんだ、でも私はあなたを疑っている。その…」

「いいのよ、私は魔女だもの。彼みたいに特に疑いもしない人ばかりじゃ無いものね」

その表情は少し悲しそうだった。申し訳ないことを言ってしまったな。

「たしかに彼を利用はしているわ。でもそんな悪いことをさせようとはしてないしするつもりもないの」

「ああ、私は私兵になったんだ、主人が信じる者を信じないと言うのはよくないと思う。だが彼が心配だ、私の兄のように利用されて死地に追いやられるなんて事が起きて欲しくない」

「素直に言ってくれて嬉しいわ。でもそれに関しては私も同じよ?未来を視てあげてるもの。帰ってこれない未来なら私は全力で彼を止めるから」

その目は真剣な眼差しだった。そうか…

「よくないな、なんでも疑ってしまうのは。だがどうしてそんなに肩入れする?」

「それはね、面白そうだからよ?あなたは?」

「面白そう?いや…否定はできないな。昔聞いた勇者の話のような未来があるかもしれない、そう私も思っているな…」

「でしょ?まあ本人は深く考えてないみたいだけれど」

「確かに。戦っている時はとても真剣だが、それ以外は結構抜けてるよな」

「ね!ぼーっとしてるというか、考えないようにしてるのかもね。夜ね、彼が帰りたいって呟いていたのよ。もしかしたら深く考えると辛いのかも」

「そうなのか…」

確かにな…慣れない地で生きていくのは辛いよな。

「はあ…考えてもなかった」

「暗い顔しないの!主人を支えるのが私兵でしょ?」

「そうだな… ちゃんと考えていくよ」

「そうね。それじゃあ私はいくわ。疲れたでしょ?ゆっくり休んでね」

彼を特別な存在と思っていたが、同じように生きている人だ。対等に彼は扱ってくれているのに私は勝手な期待をしていた。どう接していくかちゃんと考えよう…



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