25話 ささやかな勝利
「すごいな、完全に灰になってる。あの巨体を燃やし尽くすなんて…」
「骨も残ってないか、これがどれだけ凄い力か実感するな…」
雨に濡れて湿った灰の中から残骸を見つける。それは鈍く輝く昆虫の目玉のような、握りこぶしほどの大きさの赤い宝石。
「この石はなんだ?」
手に取った瞬間に理解する、これが奴を狂わせた原因だ…
「魔力を吸収されてる」
「なに?」
「ルル、気をつけろよ」
ルルがその石を手に取り、驚いていている。
「これは、吸魔の呪いだ。これを飲み込んでいたのか?」
「そういうことだと思う。これでずっと魔力を吸われていたから苛立っていたのかもな」
レイレイに渡された細かい刺繍が施された布に包み、カバンにしまう。この布は呪いを退ける布だそうでこの宝石の力を無効にできる。
「これが戦利品だ、気持ち悪い宝石だがな…」
「そうだな。あやふやになっていたが、報酬の件を首長に話に行こうか」
「忘れてた方が良かったな」
「そうかも フフッ、ハハハハ」
冗談で済ませたが、この状態の村から大金を踏んだくるのも気が引けるんだよな…
「アルヴィ殿!よくやってくださった!」
「まあ、とどめを刺しただけだ」
「それが出来ることが貴重なのです! 村の者たちも無事に戻り、祝杯を上げたい所ですがそんな余裕もないのが残念です…」
「精気を吸われた奴らはどうだ?」
「まだ戻りません」
「そうか… この石に精気を吸われてるかもしれないんだ、もしかしたら返せるかもしれない」
「そうですか、試してみる価値はありそうですね」
「よし、どうなるかな」
無表情な廃人の男に宝石を握らせてみる。すると意識を取り戻して目に光が戻る。
「おお!すごい!」
「ああ、やっぱり…」
「ああ、私は……」
「喋らなくていい。これでまた魔力は回復し始めるだろ?」
「ええ、そのはずです」
そこにいた人達に魔力を取り戻させていく。
意識が戻ったことでその家族達が涙を流して喜んでいた。
「これで全員だな?」
「ええ。本当にありがとうございます」
「ああ。どうも」
「それでですね。報酬の話を…」
「まあ、腹が減ったんだ」
「そうですね。それが終わってから話しましょう」
「アル殿がマスクを外した…」
周囲の者達が俺の顔を凝視する。相変わらずこの感じは嫌だな、変に期待されてるみたいだ…
そこに集まる者とエールで乾杯し、ささやかな祝杯が始まる。
「アルヴィ殿、しかし、どうして魔力を蘇らせれると気づかれたのですか?」
「俺の推察なんだが『バット』は常に飢えてる、こっちの言葉を使うと魔力が足りない状態だな。それを吸い取る元気だけをこの石が供給してるって仕組みだ。いやらしい搾取体制みたいだ…」
「それで魔力を全てを失った人からも吸収できるように魔力を注いだんですね…」
「たぶんな。吸血鬼なら精気を吸い取る力もあるだろ?それを悪用したんだろうな」
「悪趣味な…」
「迷惑な奴もいたんだ。どんな奴がやってるんだか」
「ウロボロス、あの龍の仕業だと聞いていますが、聞く話によるととても巨大だと。そんな奴がこの辺りに来たのならすぐに気付くはずですが…」
「知り合いの学者達はその手下がやってるって言ってたな。この辺で見かけない変な奴が来たか?」
「いえ。老公が許可した行商人以外はこの村を訪れないので」
「そうか…誰がやってるか分かればいいんだが。俺のやってる事は結局火消し作業だからな」
「アル殿〜 そんな話、いいではないですか!みんな喜んでるんですよ?」
顔の赤いルルが隣に来て、エールを注ぎ始める。
「酔ってるな?」
「酔ってないです!」
「はあ…」
「ルルはとても酒の類には弱くて… ルル、水にしておけと言ったではないですか」
「だって…みんな飲んでるじゃないか!」
「まあ、仕方ないか なあ、お前らはどう言う関係なんだ?まるで保護者みたいだが」
「ルルの父ミルとは友人でした、ですが30年ほど前に狩りで命を落としてしまい、それから気にかけているのです」
「ああ、時間の感覚の違いには慣れないな…」
「ハハッ、そうですね。ルル、あまり騒がないで」
「勝手に話すな!私はな…両親に兄も失ったんだ。でもそれをやった奴にはもう復讐を果たしたからな!寂しくなんかないし!」
この世界じゃよくある事らしい。危険な生き物が外にいて壁の内側だけが安全な世界だ、俺がいた世界よりも危険な場所だな。
「ああ、俺も両親は死んでしまったからな」
「そうか、そうか、お前も私と同じか…」
「ルルは復讐の為に時間を費やして来た。だから、分かり合える人が現れてよかった。これでミルも安心できるだろう」
「おい、その話はやめろ」
「ん?」
「こっちを見るな!」
「姉さんは言い寄る男をすぐ張り倒しちまうからな、アルヴィの兄さんも気をつけなよ」
「余計なことを言うなよ?アル殿はそんな人じゃない」
「アル殿ねぇ〜仲良いんすね〜」
「殴るぞ?」
そう言ってルルとからかった連中が喧嘩を始め、周りがそれを煽り始める。
こっちに来た時は陰鬱とした雰囲気だったが元気を取り戻したようで何よりだ。
「ここから復興するのは大変だな」
「ええ、ですが外からの文化というのも取り入れてみようと思っております」
「なら金がいるな」
「そうなりますね…」
「俺は後払いでもいいぞ。一応ギルドから討伐報酬は貰えるしな」
「そんな…」
「アル殿!なら私が働いて返すというのはどうだ?」
「どういう意味だ?」
「それは私兵として私があなたに仕えるということだ」
「…いいのか?この村を離れて」
「正直に言ってこの村は退屈だ。それに勇敢に戦える奴は私以外にもいるみたいだしな?」
「ルルはいつも村の外に興味を持っていた。もうこの村に縛る者もいないし、いいかもしれないですね」
確かに背中を守ってくれる仲間は欲しいな、クロエもボルドも色々と忙しいみたいだしな…
「じゃあ、頼むよ。よろしくな」
「うん、よろしく頼む」
こうして、ダークエルフの弓使いルルを私兵として迎えることになった。そして翌日になり、ルルの引越しの手伝いをして昼に帰路に着く。
共に戦ったダークエルフ達と昨日まで元気がなかった者達が集まり、送迎される。
「じゃあ帰る。達者でな」
「アルヴィ殿、またいらしてください、次はもっといい宴を用意しましょう。 ルル、忘れ物はないか?気をつけてな」
「ああ、大丈夫」
「よし、行くぜ旦那ら」
「それじゃあな!」
「ありがとうございました!」
村の人達が手を振って別れの挨拶をし、自分達も手を振り返して挨拶を返す。
「じゃあな」
「また帰って来るから」
「ああ、二人ともお気を付けて」
走り出した馬車から振り向くと、ボロボロに破壊された村の復旧作業を人々が作業を始めている様子が見えた。
「元通りにするには時間がかかりそうだな」
「まあ、生き残りはいる、大丈夫だ」
「そうだな」




