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141話 墓穴送り

「クッソ…体が変な感じだ。おい…」

 どこだここ?都…な訳がない。暗く、凄まじい悪臭が充満している。環境センサーが黄色信号を出し、ガスマスクの着用を勧めている。

 ガスマスクのフィルターを取り替えようと手を伸ばすと、冷たい何かに触れる。それは手を押しのけて動き出す。

「アルカード!?そこにいるのか?」

 触った感覚はあるが、なぜか姿が見えない。

「失礼。どうにも彼の術と、私の血肉は相性が悪いみたいだ。少し見苦しいところを見せますが…」

 アルカードは肉体を一時的に魔物の姿に変える。そして全身を覆うように血がまとわりついて、人の姿を形成する。

「こうしないと、姿を戻せません。そしてどうやら私とあなただけのようですね。魔術との相性が悪かったんでしょうか…?何か強い違和感を感じましたよね?」

 魔力適正のせいで移動だけはできたが、門を出る時に変な場所に飛ばされたんだろう。

「ああクソ、確かに変な感じが今もしてる。身体中がむずむずする。あんたも適性がない口か?」

「確かに私は炎の精霊以外に嫌われていますね。複合的な大魔術は魔術の適正に左右される、失念していました。そうだこの活力ポーションをどうぞ」

 赤い液体で満たされた小瓶を手渡される。見たことない色だ。レイレイの作るポーションとは色が違う。

 口にすると、瞬く間に体が熱くなり、活力が湧き出してくるようだ。

「翼竜の血です。効くでしょう」

「すごいな。喉から内臓まで全部熱い」

「ではここがどこかを探るとしましょう。とりあえずわかるのは、この場所は凄まじい悪臭に包まれているということです」

「下水道ってところか。なら都の地下かもな。どこかから地上に出れるはずだ」

 こんな入り組んだ下水道は大都市のものだろう。きっと移動自体は成功したんだと思う。レームはその辺は計算の内だろう。

 地形スキャナーで前方を探知する。迷路のように入り組んでいる。だが行くべき道は見えてくる。

「こっちだな」

「探索のスキルをつかわれたんですか?ダンジョン探索もなされているんですね」

「いや。ダンジョンは…当分いいかな」

 あのでかい木の魔物を思い出す。攻略された後のダンジョンに行ったことがあるが、ただの観光でしかなかった。

「地形を探れるスキルを習得すれば、ダンジョン探索に引っ張りだこになれるし、かわいい女冒険者にもちやほやされるとディオンは練習していました。彼の集中力ではどうやっても習得できなかったようですが」

「女冒険者ねぇ。うちのあたりはくたびれたのが多いからな」

 貿易の護衛、道路の安全確保。これがブレードックのギルドの大体の仕事を占めている。そのせいか若いのはあまりおらず、全盛期を過ぎた枯れた傭兵が多い。

「ダンジョンも探索済みが多いしな」

「あなたの実力なら、もっと大きな街でもやっていけるはずですよ。いや、私もあなたも優先する役割がありましたね。ん?なにか感じ取りましたか?」

「ああ。鱗が熱を持ってる。近くに龍がいるな」

「この臭いのせいでよくわかりませんね。早いとこ抜け出しましょう」

 進むべき場所を探りながら先を急ぐ。足を滑らせたりすれば最悪だ。深くぬかるんだ石畳を踏み締めて進む。溝鼠、泥まみれの野良犬、汚い猫、コウモリ。歩けば不快な生物に出くわす巣窟だが、魔物の姿は無い。これが街の地下であることを感じさせる。


「これは…なんでしょう。何かが通り抜けたようです」

 不自然に崩れた壁。外から何かがこじ開けたようだ。大きさは犬よりも大きい。

「クソ。あのでかい蛇といい、こういう場所は変な巨大生物の宝庫なのか?」

 ある場所を境に、センサーは異物を探知し続けている。それが生き物なのか、ただの下水のゴミなのかはわからないが。付近を動いているようにも、ただ流れにそっているだけのようにも思える。

 ただ一つ言えるのはこのセンサーは室内対人用で、壁一枚先の人間大の生物なら探知できるということだ。

「どうやら縄張りを踏んでしまったようです。構えて」

 壁を通り抜ける大型犬ほどの大きさの鼠。

「アルカード!!」

 壁に空いた穴に引き摺り込もうとアルカードの服の裾を噛む。

 滑らかな動作でアルカードがメイスを頭に叩きつける。

「背後に気をつけて!」

 大鼠が腰に向かって背後から迫る。足を振り抜いて蹴り飛ばす。

「さっさと行こう。走るぞ」

 こんなところで時間を取られる意味はない。


「急いで準備したんだ。苦労を察してもう少し遊んで欲しいんだがね」

 太い針が体を掠めるが、体に近づいた針を弾き飛ばす。

「かわいそうに。殺された上で貴様の命を救わなければならないとは。まあ仕方ない。私はただ、救いを与えるだけだ」

 見覚えのある鼠面。

「お前。ラタトスクだな」

 何しに出てきた?タイミング最悪だな。いや学長と繋がっているのか?

「なんの用だといいたげだな。答えてやろう。私の従僕、サラマンダーをこの街に放つ。街が燃えて失われることを期待しよう。」

「動物の願いを叶えるとか言ってたが…街を襲うために用意した怪物か?学長に頼まれたか?」

「あれは龍の秘技を欲しがるただの死体漁り。だが私は機を逃さない。この地には不条理なまでの強さを持つ者がいる。もちろん貴様など歯牙にも掛けないが、これからはもっと多くの人類に虐げられた者を龍にする。私は動く時を待っていた」

 ラタトスクは腕を素早く振り攻撃を繰り出す。回避して拳銃で攻撃する。

「近辺全域が混乱してるうちに動くってわけか」

「防戦とは辛かろうな。散々に狩り尽くされ、壊された街を直さねばならん。私はサラマンダーを失おうと、また新しい龍を作り出せばいい」

「わかりませんが、加勢します」

 アルカードは背中の大剣で鋭い突きを放つ。ラタトスクの足がバッサリと切り落とされる。

「しかし、変わらず仲間には恵まれているようだな。まあいい。鼠たちよ。侵入者を殺しなさい」

 ラタトスクは足を再生させ、魔法陣から四方八方に鼠を召喚してくる。

「ここで私に殺された方がいいんじゃないか。今は生き延びても後で苦しんで死ぬことになるからな」

「クソ。あいつはいい、さっさと出るぞ」

 鼠が服に飛びついてくる。服は分厚い繊維で噛み切られることはないだろうが、隙間に入られたら噛まれる。

 群がる鼠を払い除けて出口に走る。

「奴は何者です?」

「今はいい!早く出るぞ!」

「ここが墓穴だよ。この世界に紛れ込んだ貴様にはふさわしい場所だ」

 ラタトスクの追撃を躱す。この角を曲がれば出口だ。明かりが見えてきた。

「危ない!」

 壁を突き破ってきた、何か大きな塊が体にぶつかる。

「大丈夫ですか?」

「嘘だろ!?全然平気だ」

 攻撃を喰らった感覚があったが、それが嘘だったように受け流して回避していた。スキルが体に馴染んでるんだな。スキルは使い慣れれば効力が増す。

 振り返ると大きな鼠は勢い余って、壁にぶつかり気絶している様子だ。

「階段を登れ!」

 あの階段を登れば地上に出られる。


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