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139話 吸血鬼を狩るには


 その後、吸血鬼の追討部隊と合流する。しかし陣頭は荒れ模様で、ギルド所属であろう兵士たちが報酬の支払いで揉めているようだった。ボルドはその対応に追われているようで話すことすらできなかった。

「全く…ギルドの連中というのはいつも変わらないな。目先の報酬に釣られる」

 オズは呆れ返っている。

「この様子では先が思いやられるぞ。アル殿どうする?」

 ボルドは困っているし。他の兵士もごたごたに巻き込まれている。救護隊に先に治療しろと押し掛ける者もいて、この状況ではな…


「失礼。あなたは…」

 突然、後ろから気配もなく話しかけられる。

「おお!びっくりした…お前…」

「私はアルカード。あなたはクドラク討伐をなされたお人でしたよね。覚えておいでですか?」

「ああ。突然後ろに立ってるもんだからびっくりしたぜ。久しぶりだな」

「ふふっ…なんと…覚えておいでか。いや、失礼した。見知った後ろ姿で話しかけてしまった」

「そう言えば三人いたよな、金色の鎧のディオン、それと僧侶のアシュヴィンだったか。二人は?」

「私はドラクルの目覚めに際し飛んで参った。二人には行先は伝えたが時間はかかるだろう。それよりもあなたも追っておられたとは」

 アルカードの鍔広の帽子から、青白い綺麗な顔が覗く。


「待て…」

「どうされた?」

「ドラクルと瓜二つだ…」

 目の前に迫られたから、ドラクルの顔は目に焼き付けた。本当に全く同じだ。右目と左目の開き具合まできっかり。

「ああ。お気づきか。私は、あのドラクルの同一個体だ」

「はぁ?同一個体?」

「吸血鬼の人間の姿というのは魔物の仮初の姿。それゆえに、真似た人の姿というのは同じになってしまう」

「それとどう関係がある?」

「ええ、それは。彼はその長い長い生の結果、精神が壊れてしまった。思考が分裂し始め、それは別の人格として独立しはじめてしまった。悪虐に罪の意識を感じることが彼を苦しめ、私も同じように悪虐に心を痛めた。結果、私は彼の肉体からの分裂を望み、それを彼は承諾して、心臓以外の肉体を奪いとることに成功したのです」

 魔物の精神に善性を持った精神が生まれて、それに苦しむか…人とは真逆だ。魔物の精神は想像しかできないが、最終的に人も魔物と変わらないほど悪虐になれる。なら善性が生まれた魔物はどんな善良な人よりも良い魔物になれるのか?


「ですが私は心臓を持ちませんでした。吸血鬼の生命力を持った肉体があっても、すぐに死んでもおかしくなかった。ですがその時、ちょうどその場に居合わせた、生贄の人間の方に心臓を与えられたのです。そしてその方と契りを結んだ。吸血鬼を討つべしと。もう同じような人を出さないようにと」

 アルカードは言葉を紡ぐほどに涙ぐんでいく。

「そうか…」

「すみません…必要以上に話しすぎましたね…」

「いいんだ。でも…オズ」

「猟犬。わかっているとも。此度の彼奴は常では無い」

「ここにくる前からそのような気がしていました。そしてあなた方が何を為されているのかも存じている。ここで再度出会ったということは運命といえましょう。どうでしょう?私もあなた方の仲間に加えていただけないか?」

「大歓迎だよ。こっちはいつも戦いに困っててね」

「ヴェルフ殿はあなたの胆力を褒めておられた。きっと戦いに困れど、竦む方ではないのでしょう?吸血鬼狩りに一番必要なのは恐れないことです。いや!失礼した…あなた方のことをよく知らずに偉そうに…」

 握手を交わすと、アルカードは表情を隠すよう帽子で顔を隠す。あんまり人に近づかれるのが得意じゃないのか?最初の頃のニオみたいだ。

「いや、吸血鬼に関しては素人だ。色々と教えてくれ」



 その後、事情の説明と、ドラクルという人物像をある程度理解できた。内面の部分はわからないが、人との関わり方というのが大体わかった。

 人間を見下しているが、その見下す感情は人が家畜にむける感情に近しい。俺が交渉したところで豚がしゃべったようなものだそうだ。相手にされないか、苛立たせて殺されるだけ。

 交渉するには強さを示すしかない。ボコボコにして言い聞かせる。わかりやすい結論だ。

 だが対策なしで渡り合える相手ではない。今の状態で戦っても、数万人の戦士がいても勝てないぐらい実力差があると言われた。


「私の王冠を被せることができれば、ひと時だけの隙を生み出せるかもな」

 オズが手に指輪を載せる。するとそれは大きさを変えて、血走った目玉のような宝玉がいくつもはまった禍々しい王冠に変わる。

「ドラクルは魔力に対する抵抗力が極めて高い。拘束力の高い魔道具だとしても、作れる隙はほんの一瞬でしょう」

 アルカードが躊躇いもなく持ち上げて、自分の頭に被せる。

「うっ……」

 冠の目玉が怪しげにぐるぐると周囲を見回す。アルカードは意識が遠のいたのか頭を押さえる。

「おい…」

「待て」

 オズに静止される。

「これは?」

 オズが指を一つ差す。するとアルカードは指を同じように一つ伸ばす。だがたったそれだけで意識が戻ってしまったようだ。

「この程度か…私のとびきりの魔道具なのだが。吸血鬼というのはどうにも我が強いようだな…」

「精神を掌握するにはもっと必要ですね」

「オズ、最初からそのつもりだったな?」

 ルルが疑いの目を向ける。

「だがそうはならないようだ。だからこうして困っている」

「はぁ…彼と出会えたのは天の恵みだな。ぶっつけ本番でやってたら殺されてたところだ。アル殿、私に考えがある」

「教えてくれ」

「単純なことだが、吸血鬼にはわかりきった弱点があるだろ?それを突くんだ。銀の鏃に水かねを塗りつけて、炎を宿す。アル殿の得物も同じようなことができると聞いたぞ。その武器は弓矢よりも致命的な傷を作る、当たれば致命傷のはずだ」

 ああ…カルカノを改造してるのを見てたのか。あれに魔力を通しやすい針金を通して、魔力を流し込んで銃弾に属性の付与を行う。ルルの戦い方を参考に考えた方法だが、ルルに頼んでみると弾丸に属性を付与できた。

「その…その武器はどういった武器なのですか?吸血鬼は斬りつけるよりも殴りつけて戦うのが常。弓を投げるよりも、石を投げつける方が効きます」

「まあ、鉄の鏃が肉体を貫通して内臓をぐちゃぐちゃにするって言えばいいかな」

「彼はクドラクのように獣のような毛皮に覆われていない分、効力がありそうですね…」

「属性付与のスクロールを使うか。あと銀を弾に仕込めばいいな」

 ショットガンなら銀だろうが水銀だろうがなんでも詰め込んで撃てる。生身の人間なら食らえば致命傷は間違いない。


「でもな逃げる相手に撃つわけじゃない。向こうは向かってくるんだ。戦い慣れてるのはアルカードだけなんだぞ」

「私も再生能力はありますが、吸血鬼ではないので…ああ……ディオンがいてくれればよかったんですが、私が先走って来てしまった。やはり私は一人では何もできない…」

「あんたに自信をなくされたら、こっちも自信をなくす。でもなぁ」

 ドラクルは肉体を霧散させて近づいてきた。クドラクの時とは勝手が違うのは想像につく。

 戦闘がどうなるかを考えると悪い風にしか考えられない。

「仕方ない。ドラクルを追いながら考えようではないか。どこに行ったかはわかるだろう?私はいまだ交渉の余地があると考えているしな」

 まあ都の方だろうな。ここで座って考えていても意味ないな。

「そうだな。まずは行ってみるしかないか」



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