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137話 毒と呪い


 貴様を呪おうぞ!この身を毒で犯す。ならばその数千倍の毒で貴様を殺してやろう!


「ねえ。アルヴィに変な夢をずっと見せないで。しかも死ぬ瞬間ばかり見せて、頭がおかしくなっちゃうわ」

「ち、違います!これは私が倒した龍の呪詛の力ですね…これをどうにかするには、鞘を作ってもらわないと」

「さっそくわがままなんて。なんて生意気なの」

「ち、違いますよ!ただ、私を助けてくれたアルヴィさんのためにもって」

「やっぱり。永遠を断ち切るのに必要なのは私の力。あなたなんて必要ない。あなたのはただの毒。世の全てを溶かして壊す毒。そんな物で殺されても、死者は報われることもない。永遠に毒の苦しみを味わって悪い夢の中で死ぬ。あの鼠はアルヴィに悪い夢を見せた。けど真実は違う。殺された者はただ凍てついた寝床で静かに眠るの。そして終わりの時にまた還る」

「じゃ、じゃあ。私のことを封印しますか?私はそれでもいいんです。もう過去の姿には戻れないし」

「わからない。アルヴィが望まないかもしれないし……」

「どっちなんですか?」

「うるさい!というかあなたね……」



「ああ…変な夢を見た…」

 目覚めが悪い。頭がもやもやしている。ずっとドロドロの皮膚?に骨が剥き出しになった四足の龍が恨み節をぶつくさと吐き出していた。そのせいでこっちも気が悪い。

「おはよ!」

「大丈夫ですか?うなされてるみたいで」

 結局昨日は双子に散々に世話されて、学園で覚えたらしい魔術で寝かしつけられた。

「アルヴィ」

 突然目の前にニオが人の姿で現れる。でもなぜか俯いていて、何か不機嫌そうだ。 

「わ!突然出てこないでよ…」

「鞘。作らないとって。ペイルが」

「なんでそんな不貞腐れてるんだ?」

「知らない。でも作らないとって」

「ペイルと喧嘩したんだな?」

「してないわ。だって馬となんて喧嘩できないもの」

 そうは言っているが、まあなんとなくどんなふうに喧嘩するかは分かる気がする。

「まあ、なんとなく分かったよ。それで…」

「だから、鞘を作るの。じゃないと剣に取り憑いた呪いが漏れ出て、持ち主にも悪い影響があるって」

「鍛冶屋に頼めばいいのか?」

「そ、そのですね。魔術師のローブに編み込まれるような、魔力を通した黄金糸。それにコカトリスの毒液と蒸留酒を混ぜて染み込ませるんです。それを…」

 手鎌から声がするのはまだ慣れないな。

「待って!黄金糸って腕に巻くぐらいの長さでも、すごく高いんだから。糸巻き一つ分なんて目が飛び出ちゃう値段なんだよ?」

「だから言えなくて…」

「まあ褒賞金は残ってる。剣だの槍だのを買わないおかげで大して金に手をつけてないし。でもコカトリスの毒液はどこで買えばいいんだろうな」

 あの悪魔にもらった能力のおかげで出費が少ない。多少高い物でも買えるだろう。

『コカトリスの毒液はとってすぐに密封された瓶に収めないとダメなんです。前の前の前の持ち主の人はそれに失敗して左指が溶けて使い物にならなくなったんです。それで売られてしまって』

「コカトリスか。この辺にはいないって聞いたな。だとすると交易所で見つけるしかない」

「見つかるのかなぁ?レイお姉さんに聞いてみたら?」

「だな。錬金術で使いそうだ」


 下の階は朝の準備をしているようだ。昨日はあんなことがあったが、いつもと変わらない。

「なあ、コカトリスの毒液ってあるか?」

「おはようもなしに、もう。コカトリスの毒液ね。えーと、仕入れていたかしら…」

「アル殿、遅いぞ。卵は?」

「一つでいい。二人は?」

『ふたつ!」

「アルヴィさん、お体は?」

 ライラーが服を手渡してくれる。

「元気だよ。夜中に洗濯なんかさせて悪かったな。感謝するよ」

「うふっ…あなたの頼みならなんでもしてあげますからね」

「あったわ!これでいい?」

 渡されたのは水で満たされた瓶の中に小さな瓶が収められた物。


「これか…足りるか?」

「ムリそうです…」

「わかった。その鎌ね…呪いの残滓が断片的な憎しみの感情として武器に宿ってる。そのせいであなたも苦しめられ始めたってところかしら」

『なんでわかるんですか?』

「それはあなたの呪い。人に憎しみを覚えてるでしょう?でもあなたの背に乗って憎しみを晴らしてくれる人がいないから、諦めてる」

「そんなこと!ないです……」

「あなたは毒を御しきれないんじゃない。ただ毒が乾くと身が錆びるから、身を保つために猛毒を欲している。アルちゃん。あなたその剣は捨てるべきよ。私がそれを処分してあげるから」

「やめてください…」

「そりゃ、人に好き放題されてきたんだから恨み辛みがあっても仕方ないだろ。でもこいつが元に戻るならその手助けくらいしてやりたい。俺の危機を救ってくれたことだしな」

「アルヴィさん…」

「そう。あなたがいいならそれで良し。毒は私が手に入れておく。いったん預けておいてくれるかしら。かかった呪いも調べてあげるから」

「アルヴィさん。私はあなたを傷つけたくない。あなたは私と似てるから」


「おーい。何してる?早く食べよう。剣が錆びる前に、卵が乾くぞ」

「悪いルル。なあペイル。お前が何を考えてるとかはまだまだわからない。なんせ昨日の今日だからな。でもお前は俺を助けてくれたって意味では信頼してる」

『時間がかかるでしょうね。あの時は助かりたいっていう利害の一致があったから本気を出してくれたみたいだけど…私は信頼しないわ』

 ニオは相変わらず突っかかる。でもそういう関係だとしても、ニオとペイルは意外と馬が合う気がする。

『アルヴィ、この子を信じすぎないことね。アルヴィが無条件で信頼していいのは私だけだから』

「分かったよ。ほら飯食って、吸血鬼の件がどうなったか聞きに行こうぜ」

 


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