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132話 射手の意地

 暗い階段を一人登った。不気味さが一層増していたし、実際に見て見ぬふりをしたが、非道の証がそのまま放置されていた。

 エルフが空な目で天井を見つめたまま体を硬直させて捨て置かれていた。彼女は明らかにハイエルフだった、それも何千年も生きている。神に近い存在を拘束して、あんなふうに石像みたいにしてしまうなんて罰当たりだし、どうやって石像に変えたのかもわからない。かのハイエルフだぞ、人間程度が扱える魔術なんて眠っていても効かないと言うのに。

 魔術師とはやはり…私たちエルフの奥底にある、人間への恐怖はここからきているのかもしれない。

「位置はここだな…」

 木窓を開ける。弓が届き、反撃を食らわない場所。アル殿が言ってくれた三階の露台。いい場所だ。風も吹き込んで少し落ち着く場所で、ここから放てばその流れにちょうど乗るはずだ。

 しかも目立たないように外套を渡してくれた。

「これを押せばいいんだったな……おお、すごいぞ…」

 外套で覆われた場所が周囲の色と同じになってしまった。これで彼は姿をくらませていたんだな。これを頭まで覆っておこう。

「風に乗って匂いがばれると面倒だからな」

 匂い消しも振りまく。レイレイは私に香水を付けたがるが、狩人はこっちの方がいい。

 せっかくだ、鷲目のスクロールも使うか。これで視野を絞ることができるようになる。結構高かったんだが、みんなの命と比べるまでもない。


 射撃姿勢についたちょうどその時、アル殿を襲おうとする大獅子の姿が見えた。

「アル殿避けるんだ!」

 咄嗟に意味もなく声が出る。ひらりと距離をとった彼を見届けた。でもやはり動きが悪いように見える。

 いや、人の心配をしている暇なんて無いんだ、集中して出来るだけ素早く終わらせること、それが全員の生還につながる。集中、集中…

 矢筒から矢を取り、番る。

「火の精よ…」

 言霊が精を呼び寄せ、矢に火花が集まり鏃に炎が宿る。私はハーディ国王に頂いた魔道具のおかげで一射で二度の攻撃を行える。それは有効な攻撃になるはず。

「はっ…」

 矢を放つ。空気を裂く音がいつも以上に鋭く感じる。集中できているからだろうか。いやまた余計なことを考えた。

 弓の狙いは良かったが、致命的な場所には当たらなかったか。それも何か障壁のようなものにあたったように見えた。

「本当に当たったのか?」

 巨体はアル殿の大きな回避に驚き、後退りしただけで、こちらの攻撃をなんとも思っていないようなそぶりで、周囲の獲物を睨みつけている。

 こちらをアル殿見て、手を横に二度降った。

「どう言うことだ?そのままやれというわけか?」


 

「くるぞ!!回避しろ!」

 低い唸り声をあげて、体制を低くしたまま、一人を壁際に追い詰める。

 兵士が悲痛な声で叫ぶ。

「ああそんな…」

 頭から…

「化け物が!そいつから離れろぉおお!!」

 兵士の一人が木の棒で打ち据える。しかし、一度叩いただけでその棒はへし折れる。

 獅子が見据えた瞬間に、兵士の体はふわりと宙に浮き上がり、その体を空中に縛りつけるように四肢が魔力の糸で吊り上げられ、お返しにと真横に引き裂かれる。

「アルヴィさまぁ…やっぱり逃げたほうが…」

「今更なにを…」

『あなたが馬ならいい生き餌になったんでしょうけど。それか立派な剣じゃなくて骨の棍棒だったら振り回せたのに』

「ひどい!でもこのままじゃ…」

 ここで助けを呼びに行っても、結局は鎧も脱いで棒切れ振り回して戦うハメになる。結果犠牲になる数が増えるだけだ。

「いや…」

 何か足止めできる方法を探せ。手持ちの銃器は無効化される。

「あの露台を…」

 真下に誘導して、上から落とせば動きが止まるか。どうやって壊すかだ。露台だけを壊して落とすのは難しい。

「危ない!避けてください!」

 ペイルの声に驚いたと同時に、背中に鈍い痛みが走る。

 クソ。攻撃が見えなかった。背中を鞭で打たれたような痛みだ。水晶のおかげか随分と軽減されたが、ボディプレートは付けていないせいで相当な傷を負った。

『アルヴィ。動いちゃダメ』

「し、死んだふりですよ。私たちで動きをよーくみてますから。合図したら一気に風で吹き飛んでください」

「…分かった……」

 獅子の行動は俺からは見えない。でも二人は感知している。なんとか体勢を立て直す隙ができればいいんだが。しかしルルは焦っているのか、放った矢は床に当たっただけで、獅子は見向きもしていない。



 アル殿の背後から奇襲するように風の魔術が襲った。咄嗟に矢を放ってしまった。

「そんな…」

 彼の背中が…剥き出しになった背中には大きな傷。血が悍ましいほど流れている。

「う、嘘。そんな…」

 ピクリとも動かない。まさか、また私の前で死んでしまったのか。

「はぁ…はぁ…おい…ゴホッ…」

 背後に肩で息をしたオズが音もなく現れる。

「お前…何しに来たんだ」

「はぁ…貴様、あの敵の耐性についての検討がついた。雷で攻撃しろ」

「そんな場合じゃない。あれを」

「まさか。なんだあのやられ方は。背中を切られたのか」

「奴は背後から魔術で奇襲したんだ。魔物め、魔術を使うなんて」

「ふむ…あやつ、思考も蓄えた技も丸ごと残っているというわけか。しかし案ずるな、猟犬め生きているぞ。なかなかに芸達者ではないか」

「死んだ振りなのか?」

「そうだ。そしてこの隙は、実に良い。阿呆が舌なめずりをして獲物を痛ぶるぞ。猟犬は見事狩人の囮を務めてみせたわけだ。さあ弓を射るのだ。雷だぞ、奴は雷が効く。火と土の精はだめだ」

「ああ。やってみせる」

 彼が意図して行ったかどうかは別にいい。この機会を逃す前に仕留めて見せる。



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