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130話 一難去るも


「これがお前の力か…」

 振り下ろした剣が重たく感じる。光が抜けて、ただの金属の塊になったからか?それとも…目の前の光景のせいなのか?

「お、おかしいような…?こんな事になるなんて……」

 ペイルもどうやら困惑している。


 全ての首を失った大蛇の輪郭は光に吸い込まれていくように消滅していく。

 ニオとは違う。灰になり崩れ去るようではない、まるで光となって天に昇華されていくように見える。

「今までとは違うよな。毒殺ってわけじゃなさそうだが」

「そうです!だって私、本当の剣になってますよね!嬉しいけど、なんでこんなことになったんですかね?」

「まさか、俺が考えてた剣の見た目になったとか?」

「それは…どうなんですかね?ね?」

『何か作用したのかもね。そんなことはいいから早く水から出ましょう。せっかく綺麗になったんだし、楽しく泳げそう』

「なんでそんな関心なさそうなんですかぁ!」

『もしかしたらアルヴィの願いに作用するというのはあるかもってこと。私がそうであるようにね。あなた、本当は名高い名馬だったりするのかしら』

「うーん。たしかにハイエルフの人たちにも駿馬だって言われてた気がしますけど。有名だったとかはないかなぁ」

『名前が有名である必要はないわ。ただその体内にある強い魔力、生命力が必要なの。私の母体のようにね。それか…後の世で信仰を得たとか』

「それは……でも!私は骨齧りという名高い龍を倒しました。それでそのことが語り継がれていたりしたら…」

 ハイエルフの中で語り継がれていたとすれば、そうとう長い時が経っている。それは概念のようになり剣の性質となっているのかも。

「なるほど。信仰は語り継ぐことで生まれる。か」

『うん。龍を倒す武器として認められたりしていたら、ってこと。アルヴィは龍を倒すという使命を得てこの世界に現れてる。その龍殺しの戦士は私と合一になることで、それは或る存在となるの』

 龍に死を与える龍と、この世界に龍を殺す使命を持って現れた俺と、龍を毒殺した剣が全部一緒くたになってるのか。まあその場にいる人は俺一人だからな。まとめられても仕方ない。

「同じ性質が惹きあっているってことか?」

『そうじゃないのってこと。でも私達にとって、あの大蛇が倒されたってことが重要。剣がどうのなんてどうでもいいじゃない』

 ニオはやはり突き放すような態度だ。きっと自分の仕事がなくなりそうで焦ってるんだな。

「ついでに水が綺麗になったのはどういう理屈か気になるが、それもあとでいいか」

 こっちももう集中力なんてない。惰性で姿を保ってるだけだ。さっさと水から上がってしまいたい。


 

 空いた穴を松明で照らしてくれたおかげですぐに戻って来れた。衛兵が濡れた体を引き上げてくれて。皆がねぎらいの言葉をくれた。

「アル殿!無事倒せたようだな。すごい光だったぞ」

 ルルが駆け寄る。相当動き回ったのか革鎧が埃まみれになっている。

「そっちに被害はなかったか?」

「問題なし。衛兵が起点を利かせてね。ワイトの死骸を投げ込んだんだ。あとは攻撃を避け回るだけだったからな、まあ余裕だ。悪い匂いと汚れはついたけどね」

「でも上階の事態は悪化しているみたいだな」

 音すら聞こえなくなっている。もう戦闘が終わっていたならもっと衛兵の表情は和らいでいるはずだ。きっと良くないことになってる。

「はい。我々に届く知らせが滞っています。上階はどうなっていることか」

 部屋の入り口を見張っている衛兵は落ち着かない様子でこちらを呼び寄せる。何かが来たのか?


「随分静かになってるようだしね。全く…」

 肩を回しながらとぼとぼとオズが現れる。呪いのせいか、いつもよりひとまわり細くなってる気がする。いや…

「ふっ…」

「笑うんじゃない。毛がある者の常だよ。派手に立ちまわってくれたおかげで飛沫でびしょ濡れだ」

「重たくないか?これで拭いておけ」

 ルルが布を投げる。すると一目散に顔を拭き出した。こういうところは猫っぽいんだな。

「慣れているよ。さあ、脱出を急ごうじゃないか。現状はどうなっている?」

「はい。アルヴィ様の活躍で下から襲いかかる罠は無力になりました。ですが上階はどうなっているかが全くわかりません。ですが兵力を消耗しなかった。戦況を切り開くには十分だと考えます」

「そうだな…」

 十四人、オズを抜けば十三人。魔物数匹には遅れを取らない。

「懸念はわかります。ただの魔物では知らせが来ないなんてことはありません。何か恐ろしい何かが、あの大蛇の他にもいるということです」

「しゃべる獅子だのと言ってたよな。検討はつくか?」

「まさか検討なんて!喋る獅子なんて聞いたこともありません。キマイラの一種としか言いようがない。何をしてくるかも全く。君!姿を見たそうだな。どんなだったか話してくれ」


 細身のいかにも足の早そうな風体の男が、脂汗を滲ませて口を開く。

「は、はい。私は遠くから姿を見ただけですが。牛のような立派な体に頭は獅子。奴は石畳の上に横たわるように構え、頭をあげて何かをつぶやくと、仲間の兵士が武器と鎧を脱ぎ捨てて…その後は……。あの時何が起こったのかさっぱりわからない」

「キマイラの仲間か。それに魔術も使えるようだな」

 でも装備を解除させる魔術?そんな魔術聞いたこともない。

「鉄を拒む魔術。私を使っていた元の持ち主もその術を使う魔術師に負けたんです。だからぁ…あのですね」

「その喋る獅子がそいつじゃないかって?でももうなんでもありえる気がしてきたぞ」

 魔術師が弄られてライオンになってしまいました、か……まさかあの蛇も元々人間だったなんて言わないでくれよ?…

 しかも、金属を外すとはね。困った怪物だ。これでは武器は使えそうにもない。

「まさかそんな魔術を…それは相当な熟練者だな。しかも特に戦士や刺客に狙われていた悪名高い魔術師。してこの場にはまさに戦士しかいない。我々にとって致命的であるぞ。裸で獅子と殴りあいというわけにはいかんだろう?」

「私がいる。アル殿、私の武器を見ろ。弓はイチイの木と動物の皮を合わせた物。弦は動物の腸を紐にした物。そして鏃は研いだ石を使っている。服も帯留め以外は全て動物の皮。それに魔術も使える。最もな適任は私以外いないだろう?」

「そうだな。攻撃の主体はルルに任せよう。俺たちは…」

「鎧も剣も捨てて注意を引くとしますか。今日は陽動の役目ばかりですね。でも酒の席での語種が増える。そのために鎧も武器も捨てて戦いましょうぞ」

 衛兵はまるで誉を得たかのように乗り気だ。でも…クソ。こんなこと二度とないし、二度としたくない。

「いいじゃないか。獅子狩りは戦う者の誉。トドメはいつもアル殿だからな。今回は譲ってもらうとしよう!そして奴の肉を皆で食らおうじゃないか!」

『おう!!』

 衛兵は一斉に腕を上げる。うちの恐怖をかき消すように鼓舞しあっている。なら俺も恐怖は捨てて立ち向かうとしよう。



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