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128話 幕間

 

 兵士たちは上階に登り、罠を見つけ出して多数ある頭の囮となると言ってくれた。

 俺とオズは大蛇が潜む水槽を見下ろせる位置で、大蛇の動きがあるまで待機している。

 上階では剣がぶつかる金属音と、ドタドタと床を強く踏み込む音がしていることもあり、兵士たちが未だ魔物と交戦しているのがわかる。損害があれば、兵士たちには全力を持って撤退しろと伝えておいた。

 上もしゃべる獅子だのが大暴れしていて手をつけられない状況だ。俺たちを置いて逃げて当然。それに元々俺の勝手で行った行動だ。彼らの命が危ない場合は俺は放っておかれても仕方ない。


「あ、体を動かしましたね」

 汚れた水の下に潜んでいるおかげであの巨体でも何一つ姿が見えない。頼りはペイルの自分の半身の位置を探す感覚だよりだ。大蛇の頭の動きを兵士たちが惹きつけてくれたら、俺が一気に潜ってペイルの半身をとる。

「そういえばどんな形か聞いていなかったな」

「あの、湾曲した…麦狩りの鎌みたいな手鎌です。ハルペーっていうんですかね?喉に引っかかりやすいようにって魔術師さんは言っていました。でも私はなんと言っても天馬ですからね。風の力を受けて振るえば、すごい大きな風の刃ができるんですよ!すごいですよね!ね?」

 手鎌?なんだか庶民的な剣だな。もっと両刃の大剣のような見た目かと思っていた。

『うるさい。私はアルヴィが望む形に姿を変えられるし、大きな龍でも灰にしてしまうぐらい強いんだから』

「張り合わなくていい」

 俺からすればお互いが素晴らしい力を持っている。競い合うのではなく手を組んで立ち向かう、それが一番いい。

 ペイルの呪いを解く方法はきっとレイレイが考えてくれる。彼女は呪いや薬に関してはこの地でも最も頼りになる人物。古のエルフの呪術であろうと、いつもの調子でなんとかしてくれる。きっと。


「猟犬、私がいつまで持つかもよく考えて動くのだぞ。確かに私は悪魔の端くれ、人よりかは遥かに頑丈だが、いずれ耐えれなくなる時が来るからな」

 オズは俺に降りかかる泥のように重く、心に響く憎しみのような感情を引き受けている。オズ自身はなんともないし、悪魔には好物だと言っていたが、人と違う神威のような感情は腹にたまりやすく、気をつけなければ飲まれてしまうとも言った。

 俺が感じていた苦しみを感じているのだとすれば酷な事をさせている。

「分かってる」


 上階の音が少しずつ落ち着いているように感じる。

「そろそろか」

「水中をよく見てぇ……感じますよ。体をもぞもぞ動かしてますねぇ」

『全く見えないけどね。あなたが頼りなのよ?間違って口の中とかに誘ったら容赦しないからね』

「は、はい!!」

「圧をかけるな。ペイル肩の力を抜け。しくじってもなんとかしてみよう。オズが持つ限りな」

 肩の力を抜く、それは自分も同じだ。また飛び込むんだ、リラックスして、体をこわばらせ無いように力を抜かないと。


 ゆっくりと肩を回し深い呼吸をする。息を吐くとぬるい炎が吐き出される。

 明かりに照らされ水面に映った自分の顔が、恐ろしい化け物に見えた。きっとオズが感情の一端を引き受けてくれなければ、鏡の自分にすら強い怒りを感じて暴れまわっただろうか。

 俺の故郷を消した禁断の兵器。俺は漠然とした怒りを持っていたが、今の自分にそれを怒る資格も文句を言う権利も無いように思ってしまう。

「泣いてるんですか?…」

『アルヴィは感情が昂った後は落ち込む性なのよね。もう。見た目は怪物かもしれないけれど、魔物とは根本が違うでしょう?その姿を見てあなたを怪物だと言うのなら、たとえ神々だって、焼き尽くして地獄の泉に叩き込んであげるから』

 ニオは優しい口調であやすように話しかけ、ペイルも声を出してうんうんと頷いている。

 ため息をついたオズが肩に手を置いて話しかける。

「北の狂戦士はまやかしを見せるキノコに頼り、心の昂りを慰めると言う。ここは同じく北の大地。同じような茸は山の向こうで取れるはず。頼ってみてはどうだ?」

「それはレイにも言われたんだ。だがな…」

「心の弱さは誰しも持っている。それを隠して耐えるのは美徳かもしれんが、私は悪魔なのでね。楽になれるのならばそれで良いではないか。私は考えを理解はできても実践しようとは思わないね」

「薬に頼って恐怖心を無くすのは早死にする。そう爺さんに教えられててな」

 前線の兵士は眠らないように強壮剤を与えられていた。それでだんだんおかしくなっていった兵士もいた。

 そう言う連中はやけっぱちで命を軽々投げ捨てていった。

「まあ好きにしろ。もうじき事が動き始める。運動して気を紛らわせるといい」

 数刻、呼吸を整え、思考をすっきりさせるために目を瞑って無心で佇む。


「来たか…」

 床板が割れる音が鈍く響いた。

 水面が大きく揺れる。あの大きな頭の一つが罠に反応して、踏んだ兵士を飲み込むために飛び出した。

 続けて音が響く。

「もう少し」

 水面にいつでも飛び込める。

 先の話では、頭は引きつけて五つ。残り四つは掻い潜る。それに関しては全く問題ない。

 横を泳いでる魚より攻撃してくる対象を先に狙う。頭がいくつあっても、思考の統率は取られている。わざわざこっちを狙いにくるのは目があった頭だけと考えていい。現に、地面を叩き、揺れるような音が響いている。

 衛兵は頭を釣り出して、縄で一斉に縛り上げると言っていた。上手くいっているといいが。

『あと一回。聞こえたら飛び込もう。大丈夫、まだまだやれるよ。魔術師はいい場所にお家を建てたね』

「場所は私が示します!」

「気をつけろ。帰ってくる手段はないからな。その柄の刀身を取ったら容赦なく殺せ」

「はい。私が半身をくっつけちゃいますので、剣になったら一気に振り抜いて下さいね」

「言っとくが、その場で無理なんて言ってもどうしようもないからな」

「信じて下さい!何度か折れた時もあったけど、自分で元通りに戻せたんですよぉ…」

「最後に自信を無くすな。もう飛び込むからな」

 最後の一回攻撃の音が響いた。さて大蛇の水槽に飛び込むとしよう。


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