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126話 檻に閉じ込められた猟犬

 下階に足早に向かう。道中衛兵がこの実験棟に突入してきた。おかげで援軍を迎えて、数十人の規模になった。まさに渡りに船と言える。道中の敵を協力して撃退していく。下の階に降りるほど敵の数が増えていく。

醜い見た目の魔物が実験の影響かより醜い風体となり、見境もなく襲いかかってくる。

 ゴブリン、オークは体から海の生物のような腕が生えていたし、悪臭を漂わせたリビングデッドは別の生物の死骸と縫い合わされたような見た目をしていた。こんなものをここで作っていたとは気味が悪い。肉を食うために解体することはあっても、こんな醜悪な生物を作るために死体をいじくりまわして、つぎはぎする魔術師の趣味はとうてい理解できない。

「どうやらワイト共は魔力切れで動けなくなってきたか」

「水栓はどこだ。早く探すんだ!」

 衛兵たちに大声で呼びかける。

 何かがぶつかるような、擦れるような音が聞こえる。アル殿が戦っている音だとすると、退治している相手はかなりの巨体。早く助けを出さないと。

「扉を開くたびに中から魔物が現れ、苦戦しています!」

 いくつ開けた?まだ四部屋か、この消耗は良くない。

 冷静に建物の構造を考えるんだ。あの穴が空いていた場所は、一度開けた部屋だった。その場所は明らかに誰かが鎖で繋がれていたようだった。アル殿はそこに繋がれていたはずだ。そして水中の怪物に突き上げるように噛みつかれて、引きづり込まれたように考えている。

 水を引き込むなら北から?水路となりそうなのは、私たちが入ってきた、脱出経路と言っていた場所しかなかった。しかしあんなところから水を入れるなんてできない。

 魔術で水を作り出したと考えるのが妥当か?そうなってくると水栓なんて存在しないなんてこともあるんじゃないか?でも魔術で作られた水も酒も飲んでも意味がないと言われている。なぜなら時間がたてば消えてなくなるからだ。だからどういう仕組みなのかがわからない。

「水栓は存在しない?だとするともう出られないなんてことはないか?」

「おい。突っ立っている場合ではないぞ!早く…」

 オズと戦闘を歩いていた衛兵たちの足元に大きな魔法陣がかすかに浮かんだ。

「横に避けろ!」

 炎の魔法陣は下方に向けて床を焼き切るように円を描き一瞬にして穴が開く。

 真ん中に立っていた衛兵が助けてくれと叫ぶ間すらなく、あっという間に穴に飲み込まれてしまった。

「何と。侵入阻止まであるとは、入念なことだ」

「無事か?」

「一人呑まれたな。あの装備では這い上がってこれんだろうな」

 他人事のように…

 慌てた兵士たちが空いた穴を覗き大声で呼ぶが反応がない。ただ水面の下で何かが蠢く音だけが鈍く聞こえてくる。

「しかし私は確信したぞ。これは魔術師が入念に準備していた罠であって、巨大生物を飼っている水槽。だからこそこの底にある水槽には出口なんて存在しないのではないか?」

「ならどうやって水を?」

「凍らせた水。ほら覚えがあるだろう?よそに運ぶために山から水を凍らせて運ぶ様を。この地の風物詩にもなっているであろう。それに北の山の湧き水は貴重な品。魔術師が多くを仕入れることに違和感がない」

 出口がない?なら水中にいる魔物に食われるしかないのか。

「まず我々は同じ階層に辿り着くことが重要だ。出口を作らずに建物を作ることができるとは思えない。どうせ底の底に重い扉でも用意しているんだろう。盗賊よりもゴーレムに頼るべきだったか」

「分かった。まずはこの下に降りる方法を探そう」

 アル殿。耐えていてくれ。すぐに行くから。



 数刻後。

「出口は見当たらないか…」

 部屋を歩き回り、置かれた樽を叩いて隠し扉なんかがないか探し回っているが、出口らしいものは空気の通り道となっている鉄格子の小さな窓だけだ。でもあんな場所鼠でもない限り通れない。

 この部屋は突き当たりの角部屋なんだろうか。

「ごめんなさい…」

 ペイルと名乗った剣の柄は、か細い声で謝罪する。

『龍の力が戻ったらすぐにあんな壁、ぶち破ってやれるのに』

 頭に冷静さが戻って来て、俺の体も人間の体に戻ってしまった。ニオも心なしか元気がなさそうで眠たそうな喋り方になっている。

 身につけていた装備は取り外されてしまっていて、爆薬の類は手元にない。無理に逃げることもできなさそうだ。

「外がどうなっているのかも気になるところだな。それに装備が奪われたまま持っていかれたらかなり困る」

「私も刀身さえあれば、こんな壁…あれ?」

 コツコツコツと鉄の靴が床を蹴る音が、空気穴から聞こえる。

「おい!ここにいる!」

 明かりと足の影が見えた。

「アル殿!!」

「猟犬、お似合いの檻だな」

「そんなこと言ってる場合じゃない。よく見てくれ」

 扉に詰まった大蛇の頭を指さすと、二人は姿を見て納得したように頷く。

「アル殿、装備を見つけたぞ。投げ入れるからな」

「猟犬、ここは地下だ、抜け出すには天井に穴を開けるしかない。爆薬とやらで壁を破壊できるようだな。すぐにやってもらうぞ」

「いや。あいつを倒す」

「何を言い出す?今は放っておけ。そこは正真正銘逃げ場のない檻だ。逃げることを考えろ」

「待ってお願いします!体と離れ離れになったら、本当に元に戻れないかもしれませんよ!そんなことになったら…」

「ほかの誰かがいるのか?」

「こいつが喋ってる」

 剣の柄を掲げる。二人は顔を見合わせて、何を言ってるんだと言いたそうな表情でこちらを見ている。

「剣の精霊でもそこにいるのか?精霊なんぞ放っておけ。どうせ生きてるのか死んでるのかもわからない曖昧な存在だ」

「ち、違います!私、呪いで剣に姿を変えられてしまったんです!」

「アル殿、倒す倒さないの前に、そこを出ないといけないんだ。これを見てくれ。衛兵が地図を持って来て分かった。地下には蔵があるだけだ、かなり大きい蔵と酒を保管している蔵。今の場所は大きい方の蔵を通らないと入れないようになっているだろう?」

 ルルが投げ入れた地図をよく見る。ルルの言う通りみたいだな。じゃあこの上は…


 大きな音が鳴り響く。

「まずい。酔いが覚め始めたか」

 大蛇が扉から頭を抜こうと暴れ始める。このまま引き抜かれたら壁が崩れる。水で満ちることはないが逃げ場もなく戦う事になる。

「約束してくれたじゃないですか…お願い」

「分かってる。ルルこれを上の階に置いて来てくれ。終わったら合図を」

 信号が合致していることを確認して、プラスチック爆弾を手渡す。

「分かった。置いてくる」

 ルルが足速に駆けていくのが見えた。衛兵たちは巨大な怪物が暴れる姿を見て恐々としている。

「大蛇野郎、いいぞもう一杯付き合ってやる」

 

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