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123話 お酒はほどほどに


「ふぅ…」

 大蛇は扉に頭を突っ込んでこちらに舌を伸ばしている。太い首が扉にはまっているおかげで水が堰き止められている。

『もう。体がドロドロになっちゃったじゃない』

 扉に頭がつっかえるように顎の下にかんぬきをはめ直す。出口がより細くなり、抜け出すことは困難だろう。頭がつっかえていることで大蛇が暴れて壁が壊れることも阻止できるはずだ。

 しかしここは…かなり広いぞ。大量の水が流れ込んでも足元ぐらいしか浸かっていない。

 少し周りを歩いてみる。蜘蛛の巣が貼っていて、カビ臭い。掃除は長いことされていなさそうだ。でも何度も人が出入りしている痕跡が残っている。

 

「蔵みたいだな」

 樽を叩いてみる。まだ中身が残っている。

 栓を抜いてみると中から、酒気が漂う。

「蒸留酒かな?」

 一舐めすると、舌が熱くなる。

「カッ…きついなこれは」

『これ飲ませちゃおうよ!』

 蛇の頭を見つめる。おあつらえむきに口を開けて待っているな。よし。

「いいね。酔わせていいようにしてやるってわけだな」

『いやよ!いやよ領主様。そんなところを触っちゃいやよ』

 ニオが楽しそうに俗な小話を始める。

「どこで覚えたんだ?…」

『ふふっ。いやよっ。教えられないわ……』

 樽を転がして、蛇の口元にまで持っていく。口の隙間から舌を伸ばし、転がした樽に這わせる。

 近づく獲物の匂いに唾液が出てきたのかな?それとも酒の匂い?酒を飲むと食欲が増すとレームは言っていた。俺にはその感覚はわからないが、この大蛇はそういう性癖があるのかもしれないな。

 お望み通り樽の栓を抜いて酒を下顎にこぼしてやる。

『ごくごく飲んでるよ。そんなに好きなのかな?すごいすごい』

 多分だがこの樽の中身は錬金術用の蒸留酒だ。そのアルコール度数は高く、普通に飲める酒ではない。

 それを樽ごと飲み込んでしまった。これほどの量のきつい酒、普通の人間やエルフならば意識を失い死んでしまうだろう。ドワーフは……多分大丈夫そうだな。

『もう一個!もう一個!』

 樽を運んでは口に押し込める。

 メキメキと音をたて樽を食み、ジョロジョロと酒を口に染み込ませている。

「もっと飲ませてやる」

 もう一つを口に運ぶ。浴びるように飲んでるな。よほど酒の味を気に入ったかな?しかし舌が伸びきって、かなり酔いが回ってきているように見える。こうぐったりした姿は、巨体な怪物ながらも可愛げがある。動物に物を手から食べさせると可愛く思える感覚だな。

 意外と……触ると気持ちいいな…

『デレデレしてないでこいつをどうするか考えてよ。私の尻尾ならいつでも触らせてあげるから』

 いや…

『何?失礼なこと言ったらもう助けてあげないもん』

 壁の向こうがどうなってるかわからないが、つっかえてる首は動くことはないと思うが。こいつをどうするかは考えものだな…放っておいてもいいんだが。

『うわっ!もう!』

 寝ながらゲロを吐きやがった。汚いな…もう放っておいて行くか?

『酔わせたんだから介抱しないと』

「面倒な…」


「待って!お願い助けて…」

 頭を一つ蹴ってやって、出口を探そうとした矢先。どこからか誰か喋った声が聞こえた。

「ニオ?」

『何も言ってないよ…』

「は?誰かいるのか?」

 周りを見渡す。いや……どこにも人の気配はない。

「聞こえているの!?龍人様!お願い助けて!」

 大声が広い場所に響く。

「ど、どこにいるんだ!?」

「足元!私龍人様を見上げています」

 いや寝ゲロしかないぞ…まさか食われた奴の怨霊ってことか…

「あの怪物に食われたんだよな?」

「そうです。私はここ!ここにいます!」

 何を言ってるんだ?この鉄の棒か?これなのか?

「あっ持ち上げられた。そうです正解です!」

「はぁ!?まさか…この棒?いや…どういうことだ!?」

 錆び付いていて原型がないが、剣の柄のようにも見える。だが喋ってるぞ!?

「あの!一回落ち着いてください。深呼吸して」

 状況を整理するために言葉に従い、深く息を吐く。


「ふぅ……いったいどういうことなんだ?」

「色々と事情があって…元々私はペガサスだったんです。けど体がその…大きな剣になってしまって」

「剣か…」

 なんだかよくわからないが、この声の主はペガサスという翼を持つ馬だったようだ。事情をよく聞こう。

「ある里に骨齧りという龍が住み着いたんです。その龍は生贄をよこせば里の守り神となり、生贄を渡さないと魔物を招くと……」

 さっきまでの優しい声が、声が悲しそうにかすむ。

「その龍の力を恐れた里の人々が動物を生贄に捧げました。でも龍は毎月のように生贄を欲して……すぐに私の順番がきたんです。飼い主様はなんとか一矢報いるために私に龍を殺すという毒蟲を飲ませて、龍に飲み込まれた時に身が剣となり、龍の喉元に突き刺さるように呪いをかけたんです。それが功を奏して骨齧りは死に至りました。でも私はずっと剣のまま。解いて欲しいと願っても誰にも声が届かなくて…」

「ずっとその姿だったのか」

「そうなんです。死の間際、骨齧りは毒を癒すために飛翔して池に向かい、その道中で息絶えてしまった。なので私は助かることもなく、剣としてずっと生かされていて。多くの者らに武器として振るわれて、最後にあの大蛇に飲み込まれてしまい、体までも壊れてしまって……龍と融和したお方!私の体が大蛇の尾に刺さっています。お願いです取り戻してください。取り戻してくれたら必ずあなたの力になると約束しますから」

 経緯は理解できた。しかし龍を殺してしまう虫の力?それは本当なんだろうか。

「龍すら殺す虫の力ってのはまだ残っているのか?」

「はいもちろんでございます。龍を殺した毒は剣の身に今も残っています。あの大蛇には尾に刺さったので効果は薄かったようですが、心臓を貫けばきっと息の根を止めることもできます」

 態度は誠実そのもので、彼女の言葉は本当のことを言っているように思える。それに彼女を助けることはきっとこれからも大きな力になる気がしている。

「分かった。やってみよう」

「ありがとう!感謝します」

 唐突な出来事だったが、あの大蛇を倒す覚悟が決まった。


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