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122話 不利な戦場

 

 いつの間にか首が増えた?切ったらもう一本生えてきやがったのか?

 驚くこちらをよそに、向こうは遠慮もなく全ての頭で一斉に噛み付いてくる。


 首の下に向けて回避し、巻き上がる汚濁に紛れ込み、大蛇の死角に転がっていた牛の死骸に潜り込む。

「ニオ。どうすればいい?奴は使徒か?」

『じゃないと思う。それと頭は切っちゃダメ。断面から再生してるよ。あんな一瞬で再生しちゃうなんて』

「熱線で焼き切ったぞ。それでもなのか?」

 焼き切っても再生するか。ハイドラ討伐は過去一度同伴したことがあるが、ルルは燃やした矢と油で傷を塞がらないようにして。他の同行者も、当然のように剣にヤニを塗りつけて火をつけて斬りつけた。同じハイドラの仲間だとすれば、同じように傷を焼けば塞がって再生できないんじゃないのか?


 しかしここは魔術師の実験場。焼かれても再生する。そういう品種改良みたいな真似をしていてもおかしくはない。だがあの巨体はハイドラというよりも、海蛇龍(リヴァイアサン)に近い。顔も蛇よりも海蛇龍に似ている。


 海蛇龍は水棲の魔物。炎ではなく、雷に弱いと聞くが、それを再現する方法がバッテリーを呼び出して放電させること。しかし俺も無事ではないだろう。

 もう一つの手段は水を抜いてしまうこと。海蛇龍は水中でなければ息が続かない。

 過去、ある神は、行き交う漁船を襲う海蛇龍を、陸に釣り上げて始末したと聞く。

 ここの水を抜いてみるのも手か。だが水栓のような物があればいいが、この濁った水中で探すのは困難だ。


『わからない。もう一回やってみる?それとも…』

 骨の隙間から蛇を見る。頭が至る方向をキョロキョロと向いて、舌を出し入れしながら俺を探し回っている。巨大な生物に獲物として狙われる、カエルがどんな気持ちか今ならわかる気がする。

「……」

 ゆっくり周りを見回るなんて真似は奴は許されないだろう。見つかればすぐさま丸ごと飲み込もうとしてくるはずだ。

『どうするの?』

 まとめて首を焼き切る?いや、倍に増えたら…

  

 悩んでいる内に、こちらに向いていた巨体が、水を大きく揺らしながら向きを変える。

『ねぇあっち。あそこ!扉があるよ』

 巨体の動きに合わせて濁らせていたゴミが舞い上がり、その奥に錆びついた鉄扉が覗く。

『行こうよ。逃げ道になるかも』

 ここは巨大生物用の牢獄のような場所が水没してしまったような感じなのか?しかし、入り口があの扉なのだとすれば、小さい時に閉じ込めて、ここで成長させているのかもしれない。

「行くか……」 

 少し覚悟がいる。距離はすぐ近くに見えているが、泳ぐと距離があるように感じるはずだ。なんとか泳いでたどり着く。そして扉の前で攻撃を引きつける。こんな慣れない場所でそんなこと出来るか?

『大丈夫。飲み込まれてもまた腹をぶち破ればいいじゃない』

 クソ。当たり前みたいにいいやがる。

「分かった。やるぞ」


 牛の死骸から体を出した瞬間に、大蛇が振り向き感知される。

 口が開き、頭が波状攻撃を仕掛けてくる。

 ワニのように必死に尻尾を動かし、攻撃が襲いかかる以上の速度で逃げる。

 扉の前に達す。だが水中で鉄の扉を開けるには、この体であろうと不可能。ここで凌ぎ、奴に扉ごとぶち壊してもらうとしよう。


 大蛇は暴れ回り、水の濁りは最高潮に達している。攻撃を感知するには視覚以外に頼る他ない。

 一度目。鼻に傷が入った頭が攻撃してくる。

 二度目。左目が小さい頭。

 いつも以上に体が軽く、易々と激しい攻撃を回避できる。いつもなら反撃をするところだが、また首が増えたら面倒だからそれは抑えよう。

 三度目。舌を前に突き出し、こちらを一度目で捉えてから、口を大きく開いて攻撃をしてくる。

 顎が体に触れて、体の鱗によって蛇の口が傷つく。するといっそう攻撃が激しさを増す。

 痛みで暴れているわけではなく、血の匂いを感じると、早く食べたいと体が動くようだ。だがこの状況では都合がいい。

 蛇の頭が何度か鉄の扉にぶつかる。濁りが増して見えにくいが扉がひしゃげてきているように見える。後一押しだ。

『勢いよく開いたら吸い込まれちゃうかも。汚い水だから嫌だよ』

「わかってる。でもまたついて首がつっかえたりしたら面倒だ。ちょうどすっぽり嵌りそだしな」

 扉を背中に正面に立つ。

『もう!しっかり鼻を塞いでね』

 自分の体など丸呑みできそうな大きさの頭が、鞭のように壁に叩きつけられる。

 伏せるように回避すると、留め金が壊れる音が鈍く響く。

 鼻を塞ぐ余裕などなく。鉄の扉が外れて、一気に水がが水のない部屋に向けて流れ込む。逆らえる流れではなく、流れるままに水のない部屋に吸い込まれていく。


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