119話 待機
「そうでしたか。事態は聞いていましたが、そんなことになっていたとは」
ボルド、衛兵達に洗いざらい、今起きていることを全て話した。
「ふん…看過できませんな。魔術師ギルド…自由を許した結果がこれですか。見過ごすわけにはいきませんね」
ボルドは厳しい表情で、話の内容を反復する。
「しかし衛兵長。蟷螂の件からこの地の兵員が減りました。鎮圧に乗り出すのなら陛下から軍を貸してもらうしかありません」
「ええ。文書をすぐに書く、伝令に届けさせろ」
「助けてくれるのか?」
「もちろん。使徒に逃げ出されたら街に害が及ぶかもしれない、魔術師の悪用にも注意をしなければいけない。それに蟷螂の使徒、あの件から地続きなのだとしたら、見過ごすわけにはいかない」
翌日には伝令が文書を都に届け、そのまま数百人の兵士が駆け足で集結することになった。
司令官として派遣された将官は王からの文を持って、それには強制的な検地を許すと書かれ、そこに判がしっかりと押されていた。始まってから四日目の出来事だった。
密偵は探りを入れていたようだが、魔術師の出入りが極端に減ったと言っていた。それと実験棟の明かりは終始ついていて、昼夜を問わずに中で何かをやっていると。中で何をやってるかはじきにわかる。
「意外と話ができるようだな。驚いた」
「あんたが俗世から離れ過ぎてたんだよ」
「魔術師に首を突っ込むとは。魔王に欺かれてから反省したのか」
「暗殺ギルドの連中も信用してなかったが、仕事が早いじゃないか」
「アルヴィ殿。やはり暗殺ギルドから……何を言われたかは分かりませんが、奴らは違法な物品販売などで金を儲ける面も有しています。それに路上で私刑を行う危険集団でもある。彼ら暗殺ギルドは皇帝の法に従わない、だが自らの仲間は助けて欲しい。それは虫が良い話ですよ。だが自らの復讐のため、その理由を述べられるのなら、殺人も許すという法に準じ、陛下は黙認なされている」
目には目を歯には歯を。家族などの近しい存在を殺されたのなら、報復として本人を殺す、本人の家族を殺すのは許されるという法がある。
死体をさらに傷つけるなどの過剰な報復行為は許されないが、これはある意味街で突然暴行をふるわれても、反撃をしてもいいということにもつながっている。
「色々あるみたいだな」
「ええ。一面だけですべてを語ることは出来ない。魔術師ギルドも全てが悪というわけでもない。魔術の発展に力を尽くす。それは我々の生活を発展させている。哀れなゴーレム、あれも魔術師ギルドから寄贈されました」
ゴミ処理ゴーレムのことか。確かにあれがなきゃ人がやらないといけない。それは相当しんどいな。
「衛兵長。兵員は集結しました。宮廷術師も揃っています、魔術による干渉はありません。検地を始めます」
「さて。鬼が出るか蛇が出るか」
「猟犬。貴様の小龍はどう見ている?」
『うるさい猫男」
「うるさいだと」
「ふむ…」
『わかんないし。というか、何この猫男。私が悪いみたいな目で』
「分かったぞ。私が倒さなかったことに不満を持っている、それに不満なんだな?」
『うるさい。無理なものは無理なの。というか魔術師に捕まるなんて考えてなかったもん』
「まあいいだろ。正面は衛兵に任せる、経路は確認済みだ。俺らは中に入るぞ」
「見えている出入り口は兵士で抑えました。アルヴィ殿の言う通り、北門だけは残しています。逃げるとすればそこからでしょう。テレポートゲートが開いた場合は宮廷魔術師が検知するはずです」
最初に構造をドローンで偵察した。その結果、実験棟の出入り口の場所を確認することができた。
中には地下を通り、蔵を地下から抜けて、施設の外に出る場所。そこは建物の北門のすぐそば。そのまま通りに出られれば街の北口から逃げ出される。しかし今、兵士が北口に集まって検問をしている。うまく抜け出すのは難しいだろうが、まだわからない。
「行こうか」
俺はこの時はまだ理解していなかった。魔術師ギルドの危険性を。