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116話 悪魔の僕


「猟犬」

 顔を上げる。

「見事、隠れし者を討ったな」

 顔がヒョウの人型…声は聞き覚えがある…

「オズ、なに…しに」

 言葉がうまく喋れない。だが、奴の姿は人間ではない。悪魔か?

「お前は優れた猟犬であることを、この私にも証明した」

 傷に黒いオーラのような霧が重くのしかかる。

「安心しろ。傷を治してやる」

 霧から避けた俺の腕をオズは掴む。

「私は貴様の味方だ、そして敵対者に興味がある。だが牙を失った私は、こうやって呪いを引き受け与えることしか出来ない。これも傷が治りにくくなる呪いを、この身で反転させて使っている」

 口を開くが牙が一切ない。俺の腕を掴む手にも爪がない。

「何者なんだ?その姿は?…」

「そうだ。真実を暴く。真実を隠し、その真実を知る者に狂気を与える。そのために私は使役された」

「お前、魔王の手下か…」

 レームの話で聞いたことがある。ヒョウの顔、細い体。そんな見た目の悪魔がいたことを。

「そうだ。主を失い、勇士に力を封じ込められ、私はもはや老いた猫と変わらない。だが主の犬が、主の目的を叶えるために動くのなら、私もそれに殉ずる」

「その割に随分遅かったな…」

「私は人々の言葉が次第に理解できなくなる制約をかけられた。だがお前の言葉は理解できる。祝福か呪いかは知らないが、誰が術を与えたかはすぐに分かった」

「どこかで俺の声を聞いたってことか?」

「そうなる」

「会話できるのか?」

「いや。言葉を理解できないだけで、発することはできる。状況を推察して、発言を予想する。知力を奪われなかった、それが幸いだ。だが推察の力はスキルとして形になってきた」

「だから俺のあだ名まで…」

「お前が戦場を求めていることも推察している。休息をうまく取れていないだろう?回復力が衰えている。若い体には似合わないほどに劣化しているな」

「カウンセラーみたいな真似するな。俺は病人じゃない」

「重症のようだ。戦場に長く居すぎた、そのせいで戦場以外にいることが息苦しい…」

「黙れ」

 こいつの目。心を見透かされるみたいだ。気味が悪い。悪魔はみんなこうなのか?…

「そうか。まあ、それはお前の近しい者がやるべきだろう。さあ…傷は治ったぞ」

 腕にできた縄のような傷は消えている。だがオズは同じ部分を押さえている。

「お前、まさか傷を引き受けたのか?」

「心配することはない。魔族は痛みに強い。特に私のような悪魔はな。まあ、予想外に姿を表すのが早かった。目的よりも、私怨を晴らすことを優先するとは思っていなかった」

「奴に目星がついてたんだな?」

「そうだ。なぜなら奴は姿を元に戻していない」

「なんで言わなかったんだよ…」

「確証がなかったからだ。重要な内容は確実なこと以外は喋らない」

「そうかよ…」


「な!貴様!!!」

「まずい…」

 レームが杖に炎を溜めている。殺意全開だぞ。

「そなた、早う離れい!」

「やめろ!」

 オズの前に立つ。

「何をしておる!どかんか!」

「ヤブンハール。どうやら歳を取っても変わらず猪突なようだな」

「貴様、何をやっておるか!こう言ってもわからんであろうがの!」

「そう怒るな。私はもはや枯れた老猫、何も出来ぬ」

 オズは挑発するように舌を出す。

「老猫とて、その噛みつきは痛かろうて」

 レームが杖をオズの胸に突きつける。

「耄碌しているのか?貴様らが私の牙も爪も奪ったではないか」

 言い争いが始まりそうな雰囲気だ。

「お互い落ち着くんだ、ここで喧嘩するな。それとヤブンハールって呼ばれてるんだな」

「ああ。彼奴は状況に応じて名前を変える。自らの名に誇りも持てない半端者…」

「お主、やはり舌を抜いておくべきじゃったな。ここは龍脈に近い、加減はできんぞ」

 杖に炎が宿る。

「落ち着けって。こいつは今回は俺を助けてくれた。見逃してやってくれ」

「助ける?お主、魔術を使えるようになったのか?ならもう一度…」

「いいや。魔術は使えない。だが痛みの感情と傷を引き受けた。呪術ぐらいは許してくれよ。弱者の術じゃないか」

「貴様、やはり呪術を学んだか。腐れ悪魔め」

「そう怒るな。私はただ使役されていただけ。もう足は洗った。それよりもっと先のことを話すべきではないか?ヤブンハール?」

「そうじゃな。倒れたゲオルグに、魔術の罠に縛られたアンドレアス。何が起きたか話してもらおうかの」

「わかった……」

 何が起こったか、それを二人に簡潔に話した。


「ふむ。ニオとやらも、もう少し加減して撃ってもらわんとな。肝心な場面で撃てないでは困るのはアルヴィじゃぞ」

『はーい」

 ニオは気の抜けた返事だ。あんまり反省してないな…

「そして。ゲオルグはもう助からん。わしが行かせてしまったのが間違いじゃったな。よほど心配しておったから、良いと言ったらすぐに走り去ってしもうた」

 ゲオルグは後続してきたギルドの連中に外に連れ出されていった。そして遣わされた魔術師たちがアンドレアスの事を話すや否や、連れて行ってしまった。

「アンドレアス。奴はどうなることやらじゃな。まああの魔術師どもは拾った手柄に喜んでおろう。どうなるかはわしからも探りを入れておくからな。お主は体を休めい」

「オズ、あんた大丈夫か?」

「大丈夫だとも。腕の傷はもう治った」

「奴は悪魔じゃ。人の常識で考えてはいかん、畜生と考えるんじゃ」

「また済ました顔で恐ろしいことを言っているのだろう?全く、転生者にあらぬことを吹き込んではいけない。平等な視点で…」

「貴様がそれを言うか?」

 もう放っておこう。しかし、魔術師に奴を預けておいてよかったんだろうか。手の届く範囲ならとどめをさせるが、もし遠くに連れて行かれて逃げられたりしたら…

 


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