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115話 集中

 

 よし、考えは纏まった。でもその通りに動けるとは限らない。準備は最悪の状態を考慮して…

 そう思った矢先だ。隠れている横穴から、走る足音が聞こえる。

 不味いな、ゲオルグ。追いついてきたのか。

 

「アンドレアス!!」

 ゲオルグが狂乱するアンドレアスに駆け寄る。

 まずい。今は絶対に近づいてはいけない。

 近づくな。その言葉を発するよりも先に、アンドレアスがゲオルグの名前を呼ぶ声に反応を示す。

 体を壁に打ち付けていたのをやめて、明らかな殺意を剥き出しにして、折れた腕をゲオルグにむけて振り下ろす。

「ガハッ…」

 姿勢を崩したゲオルグの体に何度も何度も折れた腕、長い舌で攻撃を行う。

「やめろ!!」

 近づくこともできないほどの気迫に気圧される。

『不味いね。こっちもバレちゃったみたい』

 激しく動いたことで光学迷彩が解除された。

 視線がこちらに向いた。


「もうこうなればな。かかってこい!」

 魔術を準備して。それと足元に罠を貼る。

 奇声を発して、ゲオルグの頭を掴んで、こちらに投げつけてくる。

 重たい体を受け止めて、それを右側の壁に受け流す。

 同時に衝撃波の魔術を銃弾に込めて、正面に向けて放つ。

 

 砕けるような音が聞こえた。

 衝撃波で砕けて、脆くなっていた骨格に致命的なダメージを与えたようだ。

『だんだん威力強くなってきてるね』

 みたいだ。スキルは慣れれば慣れるだけ威力をあげられる。

 ソードオフに改造したショットガンは、銃身が短い分、弾丸が銃身をほとんど通り抜けないから、銃口から散弾と同時に衝撃波が放たれるようになってきた。これは慣れてきた証だろう。

 衝撃波を上乗せできれば、威力は格段に上昇する。たとえ至近距離にしか威力がない銃でも、スキルが乗ると、かなりの破壊力を示すようだ。

 バラバラに砕けた骨格は体の歪みとなって、見てもわかる状態。

 だがまだ油断できない。奴の舌がある。腕も胸も骨が砕けて、頭から血を流していても、舌はまだ健在だ。

 

 一瞬の睨み合い。間合いを互いに確かめた。


 空気を切り裂く音と同時に、目の前に鞭のような舌が飛びついてくる。

 回避が間に合わない。無理やり衝撃波で弾き返すが、発生に少し遅れる特性で、勢いを殺しきれず、右腕の肉が舌で鞭打たれる。

「クソ!!!」

 痛い!

 腕が裂けるような痛みが走る。頭が真っ白になる。とにかく痛い。枝鞭で叩かれる比じゃない。

『アルヴィ。しっかりして、痛みに負けちゃだめ』

「クソ!クソ!クソ!!!」

 地面を叩き、叫ぶことで気を紛らわせる。もう一度食らったら動けなくなる。気を確かに持つんだ。

 回避で無理やり距離を取る。

 弾はもう一発ある。

 右手では無理か。ひどい有様だ、当たった舌の形で、皮膚が一撃で引き剥がされてやがる。クソ痛い。ジンジンと熱を持って痛みが襲ってくる。

 左手で銃を構える。

「ああ!畜生!」

 腕に力が入らない。狙いは適当でいいんだ、撃て。とにかく撃て。

 無理やり引き金を引く。

 強い反動に腕が後方に投げ出される。


 両腕が痺れているが、どうにかして動きを止めるんだ。蜘蛛の牙を両手で握り、衝撃波でひっくりがえったアンドレアスの腹に突き立てる。

 腹に鋭い牙が突き刺さる。麻痺の毒が全身を回り、身が痙攣して、のしかかった俺の体を押しのける。数秒間の痙攣の後、全身が脱力したように力が抜ける。そのせいか糞尿が漏れ出たようだ。


「クソ。もう終わりだ」

 指輪に魔力を込めて、罠を作り出す。脱力したアンドレアスの体を魔力の鎖が縛り上げる。

 龍脈に近いおかげか、いつも以上に魔術を使いやすかった。


『すごいよ、アルヴィ。倒せたね』

 はぁ…

 これで動けないんだよな?

『うん。あとは煮るなり焼くなりだね。しかも見て』

 ああ。人間の姿に戻ってやがる。

『殺さなくて良かったよね?』

「みたいだな…ゲオルグ、生きてるか?」

 血溜まりにうつ伏せで倒れるゲオルグ。大きな背中には鞭で打たれた傷、裂けた肉から骨がのぞいている、一撃で骨にまで達したのか。躊躇なく一撃を加えさせると、こういうことになるんだな…

「おい…聞こえるか?」

 呼吸がない。

 これは…蘇生を試すことはできない。

 仰向けに体を抱き起こすと、胸が十字に切り裂かれるような傷。腹が真横に…こんな状態ではもう生き返らせることはできない。

 目を大きく開き、歯を食いしばって死んだ。痛みに耐えようとしていたんだ。

 手のひらで瞼を下ろす。俺の手についた血のせいでゲオルグの顔が赤く染まる。

『おじいちゃん。なんできちゃったんだろう』

「心配だったんだろう。駆け寄る姿を見ただろ?アンドレアスに対して父親のような感情を持っていたんだろうな…』

『アルヴィは悪くないよ』

「そうかな…」

 急に腕の痛みが強くなる。耐え難いほどに。

『しっかりして!ほら、チュウシャ?早くそれを使って』

「ああ…」

 血溜まりに倒れる。だめだ。痛みが強すぎる。もう腕が上がらない。集中力が無くなった。アドレナリンが切れたんだろうか。体に全く力が入らなくなった。



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