表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/145

114話 逃げ場などない

 

 長く暗い道、わざわざ横穴に入るわけもなく、ただ出口に向けて天井、壁を、縦横無尽に動き回り、逃げ続けている。その姿は確かにカメラに写っている。まあ、見えないだけでどこにいくかなんて予想できるんだが。

「お前、見えてるぞ。俺はお前を捕捉してる」

 威嚇射撃を行うと、反撃するように、長い鞭のような舌がこちらの腕を切り裂かんと伸びる。

 射撃で牽制すると、舌を引っ込める。

 こちらを向く顔はカエルみたいだ。いやカメレオン?まあなんでもいい。

『なんで?なんで見えてる?神からも隠れられるって』

「お前がこの世に存在してる限り、それは無理だな」

『ふざけるな。お前はこれを返して欲しいんだろ?』

 リボルバーをチラつかせる。

 確かに爺さんの拳銃だ。大事だが、今は違う。

「おい、誰にその力を貰った?」

『勘違いしないでくださいよ。これは選ばれた者の力です。使徒がなんだの関係ないんですよ!』

 舌が伸びるが、水晶の力で弾き返す。周りに反動が伝わり、アンドレアスの姿勢が大きく崩れる。

 ニオ。こいつは使徒じゃないのか?

『察知できないから、わからない。何が見えてるの?』

 本当に言ってるのか?

『どこにいるの?天井?壁?見えないけど』

 

『油断しすぎ』

 後ろに回られた。でもそんなわけがない。

 足元に貼っておいた罠にアンドレアスは捕らえられた。手足を魔力の鎖でぐるぐる巻きにされて、身動きが取れない。

「お前、コソ泥もやってたのか?」

『してないよ。だって僕は捕まってませんから』

 余裕なのか、舌を出して挑発する。その長い舌を手で掴む。

「お前がなんなのかは知らない。でも人の物は盗んじゃダメって教わらなかったか?」

『知ってますよ?でも、手に入らない物は盗むしかないじゃないですか。この指輪もね』

 舌に俺の手に嵌めていた罠の指輪が、巻き取られている。

『バーカ!!』

 足元の罠が解除された。アンドレアスは束縛をすり抜け、尻尾を支えに蹴りを繰り出してくる。

 反撃に、衝撃波の魔術を至近距離で放つ。両者壁に向けて吹き飛ばされる。


 背中に鈍い痛みが走る。

 後ろの柱にぶつかった。

 立ち上がろうとするが、下半身が痺れて、上手く立ち上がれない。

 鎮痛剤を注射しないと。いや、奴は動きだした。邪魔される。

 興奮剤。こっちだ。


 こちらの思惑通り、手に持ったを舌で絡め取られる。

『また珍しい物ですか?全部もらいますよ』

 押し込むと針がでる。それを確認したようだ。使い方を知らないようだが、構造に気が付いたなら話は早い。

『なんです?針?それと液体?』

 針を押し出したことで、先端から内容物が漏れ出る。

「返せ。それを使えば俺は!」

『なるほど!これを体に』

 あれはかなり効く。三種類の成分を混ぜた薬は、兵士の精神を麻痺させる。俺も一度だけ、荒れた土地で、孤立して、精神が持たなくなった時に使ったことがあるが、数ヶ月ずっと心も体も異常をきたしていた。

 注射すれば、集中力を持たせて、三日間眠ることなく動き回れるなんて謳っていたが、その薬は兵士の間では狂い薬と呼ばれていた。

 俺のいた前線ではないが、薬を使った者同士で、戦闘が発生して、二部隊が壊滅したと聞いた。そんな薬だ、使った時点で、向こうは終わりだ。


『なんだこれ!?頭が痛い!視界がぐらぐらする…』

 初期症状だ。あの後、心臓が飛び上がるぐらい痛くなる。

『ああ!くそっ!!』

 怒りが込み上げてきたのか?強い力で壁を殴り始めた。

 こちらも光学迷彩を起動する。

『あいつ!どこ行きやがった!!!?』

 アンドレアスは怒りに任せて、腕を振り回す。

 力の制御が狂っているのか、壁にぶつけた腕が枝が折れるように、へし折れる。

 その痛みで、余計に怒りが強くなったようだ。

 感知されないように身を隠す。


『見えた。うん、使徒だよ。力に飲まれてるみたいだけど。制御不能みたいだね』

 発狂した異常者のように、体を自分で痛めつけている。言葉もうめき声しかあげなくなった。

 使徒化の影響で元々、闘争本能が刺激されている。その上で薬だ。まともな思考力はもう持っていないだろう。

『あいつ、今まで使徒の中で一番弱いよ。簡単に捕獲できるかもね』

 本気で言ってるのか?捕獲してどうする?

『調べるの。やりたがってたでしょ?』

 いや…出来るなら…

 アンドレアスは変わらず狂乱して、体を自分で壁にぶつけ、叩きつけて、自分で流した血を飛び散らせる。

 酔っ払いを宥めるのは難しいぞ。しかも薬物中毒者は尚更だ。治安維持任務の時にその恐ろしさは身に染みて理解した。

『じゃあ。痺れさせたら?』

 近づくのは難しい。

 最善の選択じゃなかった。鎮痛剤を使わせると、戦闘のダメージが軽減さえれると判断したが、こっちもこっちで、手がつけられなくなった。

『今更言っても遅いよ。あのお薬はいつ効果が切れるの?』

 三日後かな?

『捕獲だね』

 捕獲にこだわる理由がわかったぞ。次の一発が撃てないんだろ?

『ち、違うから!』

 図星だな。奴を倒す方法がなくなった以上、捕獲しかないのか。でも捕獲してどうする?でも奴は使徒だ。人間の体と変わらないが、強さは段違いだぞ。

 攻撃を回避しながら罠を張り巡らせる。動きが止まったところに蜘蛛の牙で突き刺す。あとは宝玉で生命力を吸収し続ける。

 あとは俺がそのプラン通りに動けるかだな…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ