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111話 救出


「アルヴィさん!!!」

 聞き覚えのある若い声だ。振り向くとあの少年がこちらに向かって走っていた。

「アンドレアス!無事だったか」

「もうずっとこのままかと思ってましたよ。ほんとに人使い荒くて…」

「体は問題ないか?」

「一応食事はできてましたから。でもすごい違和感です。ずっとあんな感じで天井とか歩いたり、生活したりしてましたから。あ、他の人も元に戻ってますよ。あの人が助けてくれて」

 あの女王蜂にこき使われていた、羽のない大きな蜂たち、あれらは全て元の人の姿に戻ったみたいだ。

 使徒化してなかったんだろうか。どういう原理かもわからない。


 そして、あいつは…俺にここを調べるように言った。猫見たいな目をした、名前はオズだったか。

「猟犬。見事だ。倒せるとまでは考えていなかった」

 相変わらず高圧的な態度は変わらない。だが、前の時よりもいっそう弱々しく見える。

「あんた。付いてきてたのか。なら一緒に来ればよかったのに」

「それは出来ない。私は戦う力を封じられている。なんの役にも立たない」

「隷属の証を刻まれたのね。かわいそうに」

 猫のような目でレイレイを睨みつけた。どうやら気に障ったみたいだな。レイレイは怖くなったのか、後ろに隠れてしまった。

「猟犬、お前の想像通り、隠者は存在する。だが姿を見せない。気を張り、それを解くな。光るその目、鼻、耳、感覚全てを信じろ。(モスマン)と呼ばれた貴様になら容易いだろう?」

「待て、なぜそれを知ってる!?」

 オズはレイレイを一眼見た後、そそくさとその場を後にしていった。

 あいつ、なぜ俺が敵兵から呼ばれていた名前を知っている?どこでそれを知ったんだ?

「モスマン?なんだそれは?」

「俺が目ん玉光らせて、外套を羽織って影に隠れてた時に敵兵に見つかってな。俺は上手く逃げられたんだが、傍受してた通信内でモスマンを見つけたって大騒ぎしてたんだ、それから仲間内でもそう呼ばれてた。モスマンは、まあ…幽霊みたいなもんだ。でもなぜあいつがそれを知ってるんだろうか」

「さて?」

「あなたの世界で、知り合いだったのかしら?」

「覚えはないなぁ」

「悪魔の仲間だろ。そういう繋がりで知ったんじゃないか?なにか物知り顔だったしな」

「まあ、まずは目先のことを調べよう」


 蜂に帰られていた人々を集めると、ざっと四、五十人はいた。かなりの数だ。これを探そうともせずに、行方不明として処理される、この世界は異常と言わざるを得ないな。

 助けた人たちと、出口に移動しながら気になったことを聞いてみる。


「誰に蜂にされたか覚えてるか?」

「えっと…なんか顔が渦みたいになってて、顔が見えない人でした。黒いローブを羽織ってて、壁をすり抜けたりしてる人で。その人が何も言わずに、こう!手をかざしたら、体がぐちゃぐちゃになって、気がついたら繭?に入れられて。目が覚めたらあんな風になってたんです」

「蛹から蝶へ、みたいなことか」

「そこからずっと、あの大きい樹から樹液だとか樹皮を集めさせられてて。挙げ句の果てに、人を襲えって言われるから、拒否したら羽を引きちぎられて。思い出すだけで痛いですよ。あれ?痛かったかな?痛くなかった気もしますね」

「痛覚が無い?」

「多分そうです。足とか千切られたけど、また繭に入れられたら元通りだったし」

「不完全な使徒…」

「なんだか実験してる見たいね。こうやって、人が寄り付かない場所でこそこそして。繭ってあれでしょう?中身は蜂の巣と変わらないけれど。初歩的な変容術の実験みたい。条件を揃えるっていうのかしら。カエルを創りだすために、条件のいい池とか川を探すみたいなね。そこには邪魔されずに行えるってことも条件に入ってくる」

「ここも?」

「そんな感じがするのよね。温度も良くて、魔物の巣になりやすいってこともあって、人も群れない魔物も寄ってこない。それと、この上にある、あの樹…わざと作ったのかしら。樹液を集めてたって言ったわよね?」

「そうです。樹液を口いっぱいに溜めて帰ってくる、それを巣穴に吐いたり、あの女王に口で渡したり。思い出すだけで気持ち悪い…」

「あとは蟷螂の使徒ね。あの女王様が誘惑したっていうなら、それも繋がってるってことでしょう?誰か考えてる人がいそうね。それに女王蜂の正体も人って可能性もあるかもね」

「絶対ブサイクですよ!あんな奴!」

 相当頭にきてるな。仕方ないか。


 ここにいた使徒を倒し、解決はしてみせた。一歩前進したと言えるだろう。だが糸を引いてる奴の正体はまだ分かっていない。

 それとこの毒針。これはどんな力を持っているんだろうか?戦いの流れを変える物だといいが。

「ねぇ?私役に立てたかしら?」

「今日の手柄はレイだぞ。感謝する」

「だったら私よかったわ。魔女として役に立てて。ルルちゃん、褒められちゃったわ!」

「ああ。なら、ここを荒らした話はアル殿にしてもらうとしよう!」

「賛成!」

 二人は肩を組んで出口に走っていってしまった。


「お、おい!」

 あいつら……まあ、無事に済んでよかったということにしようか。

「親方…怒るだろうな…」

「すまん…派手に壊して」

 世界遺産をぶち壊したみたいなことだろ?今になって怖くなってきたぞ…

「あ!違うんです。遺跡が壊れたことじゃなくて、こんなことになってたってことです。もしかしたら、家に送り返されちゃうかも…嫌だなぁ」

「俺も話に行くよ」

「お願いします!」

 さあ、女王蜂の使徒討伐よりも嫌な仕事に向かうとしようか…気が重いぜ…



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