110話 墓荒らし
「墓石を開けたら、研究者が焼き殺された話をしたよな?」
二人と顔を突き合わせる。
「ええ。聞いたけど」
「何をするつもりだ?」
「罰当たりな策だが、墓をこじ開けられれば、龍脈を枯らせないかと思って」
「墓石を全部開けたら、罠が発動して、その発動にマナが大量に消費されて、辺りの龍脈の流れが止まるかもってことね。もしかしたら出来るかもね。どうにかして、おねむなニオちゃんに目を覚ましてもらわないと」
「どうやって開けるんだ?」
「爆破か?…」
「そうね。ならあの女王ちゃんにも協力してもらいましょう。怪物が壊したなら文句言われないはずだわ」
自信ありげだ。なにか考えがあるんだろうか。
「狂乱の呪いをかけてあげる。その間に色々とやっていきましょう」
「まず左側の部屋に誘導する。中は広さはあるから、距離を取りながら、墓に攻撃を当てさせよう」
『あら?逃げるのかしら?巣の中を逃げ回ったって、無駄よ!』
走って巣に滑り入る。天井にもびっしり居やがる。
この気色悪い芋虫どもも、まとめて焼き殺してもらおう。
『何!?何これ!?』
レイレイが呪いをかける。
女王蜂の体が赤いオーラを纏い、発狂の叫び声をあげて、暴れ回る。
『いや!いや!いやぁ!!』
自分の子供を踏み潰し、鋭い爪で殺し回り、墓石にも攻撃が何度も当たっている。
俺たちは部屋の攻撃の届かない場所で狂乱を見届ける。
「残酷かしら?」
「いや…あいつは怪物だ」
だが、なかなかにひどい光景だ。自分の手で、自分の子供であろう幼虫を踏み潰し、切り刻んでいる。
「よしっ、これで一つ!」
攻撃が墓を破壊する。
中から光が漏れて、火炎が墓荒らしの体を焼き尽くす。熱線の射線は、墓を覗く奴に向かってる。姿勢を低くしておけば食らうことはない。
「移動するぞ」
女王蜂は体を焼かれ悶える。
その傍、ぐちゃぐちゃになった芋虫をかき分けて、別の部屋に滑り込む。
『嫌だ!嫌だ!嫌!!!』
発狂して、入り口の壁を破壊しながら突っ込んでくる。
一瞬にして、室内がめちゃくちゃに…恐ろしい力だ。細い手足からあそこまでの力が…
ブンブンと翅がはためく、それだけで天井に張り付いていた六角形の巣穴が壊れて、中からミンチになった幼虫が落ちてくる。
的にならないように身をかがめる。
一撃が、目の前を通り過ぎ、壁に穴を開ける。
転がって回避して、出口に向かう。
「仕方ない」
梱包爆弾を投げ込んで室内を爆破する。
墓荒らしへの罠が発動し、その熱線が、かがめていた頭の上を通り過ぎた。爆薬と、熱線を浴びたはずなのにまだ暴れ続けている。
狂乱の呪いも恐ろしいが、やはり使徒の耐久力は異常だ。梱包爆弾だぞ、もろに食らえばバラバラになってる。
「なんだか、本当に魔力が枯れてきてる気がする。ならあと少しよ」
仕方ない。ニオに目覚めてもらわないと、奴に死んでもらうことはできないんだ。
『ふぅ…ふぅ…』
「呪いが切れたわね…思ったより抵抗が強いのわね」
「もう一度出来るか?かなりしんどそうだ。無理なら…」
「そんなこと言ってられないわ。とっても大事な二人だもの。助けてあげないと。でも呪いは、かける側もしんどいの。介抱してくれるって約束してね?」
「ああ。もちろんだ」
「どこ触ってもいいからね」
「馬鹿」
「やるわよーっ!」
レイレイは勢いよく、女王蜂に向かって杖を振るう。
『ふざけるなぁ!ふざけるな!殺してやる!!!』
「じゃあ、もっと応援してあげるわ、よっ!!」
レイレイは、杖を向け、呪詛の言葉を吐く。反動のせいか、レイレイの身体中に黒い紋様が現れる。
「二度目は大変なのよね。お返しがきちゃった…」
「ありがとう。これで奴を仕留められる。ニオ、聞いてるか?さっさと目を覚ましてくれ」
鱗が少しずつ熱を取り戻している、大丈夫だ。ニオは必ず目を覚ます。
「アル殿。手伝うぞ」
レイレイの肩を担いで、別の横穴に入る。
『ああっ!頭が痛い!!何!?なんだっていうの!?私はただ…子供達と一緒に、永遠に生きたかっただけなのに!』
狂乱して、なりふり構わず追いかけ回してくる。
『ふざけるな。ふざけるな!お前らの都合で、私たちは居場所を失った!』
「だがお前も、お前の都合で人を殺した」
『だまれぇええええ!!!』
毒針の一撃、それがレイレイの体を狙って飛んでくる。
「危ない!」
レイレイを抱きしめて、風を巻き起こす。
『お前が悪い!お前が悪い!!』
「違う。俺とお前は生物として、どちらが生き残るかを命懸けで戦って、今証明している」
きっとニオが目覚めないのなら、俺はこの場で死ぬことになるだろう。でもここで死ぬわけには行かない。
『調子に乗るな!!!』
大丈夫、攻撃は回避すればいい。どうにかして、あの墓を壊させるんだ。
墓で眠ってる奴には申し訳ないが、今回ばかりは大目に見てくれ。気持ち悪い芋虫どもの胎盤に沈むより、壊された後、綺麗に直してもらう方がまだマシなはずだ。
「派手に壊してるな」
墓に梱包爆弾をくっつける。
レイレイが動けない今、こちらから動かないと遅れをとる。前回の蟷螂の使徒の件で、自分なりに理解した。後手が被害を被る。当たり前のことを再確認した。
信号を送って爆破する。
「ニオ!頼む!」
『ふあーぁ』
「あくびしてる場合か!」
『あれ?使徒がいるじゃない。しかもぼろぼろになってる』
「お前さんが寝てる間にな!」
鱗は黒煙を上げて、大型拳銃に姿を変える。
重たい引き金だ…
暗い洞穴に轟音が響き渡る。
『死ぬの?いや。まだ子供が育ってないのに…役立たず共!早く私を助けなさい!!早く!早くしなさい!』「のたうち回るな。もう終わりだ」
踏みつけると、女王蜂の体がぼろぼろと崩れる。
崩れる体を目と触覚で感じ取って、静かに息を引き取った。
「これか」
久しぶりに自分で使徒の落とし物を拾った気がする。
鋭く先端が尖っている。これは毒針か?ずっしりと重たく、手の平に収まらない大きさだ。握るとドロドロと液体が溢れる。
「今回はしっかり戦えたな。被害は…無い……まあ、私たちは無事だ」
「ああ、よかった。でも知りたいことは知れなかった。あの女王が使徒の力を与えていたとは思えない」
「まあ、戦っているうちに、答えもわかるだろう。今日は撤収しよう」
「そうだな」
ラタトスク、まだどこかで生きてるのか?それとも別の誰かか。答えはまだわからない。