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106話 猫の目を持つ男

 蟷螂人間、使徒の件から、もう早いことに半月も経った。

 俺たちはいつも通り、ギルドの仕事をやったり、レームやマルシアの研究の話を聞いたりして過ごしてきた。

 あの件の調べから、神父の来歴もなんとなく分かった。

 もともと、移民でここに居着いてから数十年経っていたと言うことで、本人は巡礼をして、辿り着いたと言っていたそうだ。だから、いろんな地方の宗教にも知識があったんだろう。

 カンゴと言う名前は偽名の疑いがあるとのこと。苗字もこの地の名前をとっていたことからも、偽名であると見ていいと思う。

 聖職者には、敵対的な宗教家の暗殺みたいな汚れ仕事をやらせる者もいる。もしかしたらそうなのかもな。真実を知る方法はもう無いが。

 だが、ここでの生活は真っ当で、善良な人だった。

 彼が受けていた相談内容は口外できないが、深い悩みを相談されることも多々あったと。その度に神父は心を痛めて、その人のために半刻祈りを捧げていた。かなり優しい男だったみたいだ。

 

 マルシア達は灰となった体を調べてくれた。

 体表の甲殻は蟷螂とほとんど変わらない組織で覆われていたということ。完璧じゃ無いが、ほとんど体が蟷螂になっていたようだ。

 体内の消化器官に当たる部分に寄生虫の袋のようなものがあって、そこに寄生虫を飼っていた状況らしい。人食いとか言われていたが、残留物からも確かに、消化されていない肉が出ててきた。

 聖職者故に肉を正規の方法で買えないという決まりのせいで、仕方なく人肉を食べていたかもしれない。寄生虫を養うために、肉を食わないとだめだったんだろう。

 それでその寄生虫を操る能力は今までの使徒のように、力を受け取って、目覚めた新しい能力だと。まあ、いつも通りのやり方。だが対象を人間にしてるってのは、ヴェルフの時といい、悪意ある存在が裏にいる気がする。

 その黒幕はラタトスク?それとも別の誰かか?


「ふん…」

「腕を組んで…何を考えてる?まあなんとなく分かるんだが。ラタトスクの居所だろう?なら向こうから現れるんじゃないか?前だってわざわざ向こうから現れたんだから」

「一回返り討ちにあってわざわざ来るか?」

「そういう輩は何回も来るぞ。多分」

「思い当たる節が?」

「嫌な奴は、自分に自信があって、反省できない奴だ。あの長みたいに」

 ルルの考えてる人物が頭に浮かぶ。奴の墓を世話する奴がいなくなったな。

「ラタトスクも同じか?」

「餌の少ない雪山に生まれた蜘蛛。ご主人様を殺された下級吸血鬼、人々に居場所を奪われた蠍。人の嘆きを聞いてきて鬱屈としていた神父。それを怪物を変えた。全てが繋がっているとしたら、まさに悪魔のささやき、それに翻弄されたと言えるじゃないか?」


 確かに、神父をよく知る人たちの話では、この頃、暗い表情を見せる回数がかなり多くなっていたとか。

「うーん。そうか…ならどんな選考理由なんだろうな。悪い感情ならみんな多少持ってると思うんだが。生き物の成長は不足から始まると言うからな」

「不足を補わせる?」

「確かに動物達にとっての不足は死活問題だ。蜘蛛は餌がない。蠍は住処がない。でも人間や魔族があの力を得ることは、願望を叶えるための力になってると思わないか?全てが繋がっていたら、少し違和感があると思うんだよな」

「ただ適当に目についた奴を選んでるだけじゃないかな」

「うーん。分からん」

「どうやって、接触してるのかも気になるところだ。家に突然来たりするのかな?」

「実際の場面を見たことないからな。ヴェルフはどうなったかその場については曖昧って言ってたし」

 どんな感じなんだろうな。あの悪魔みたいに夢みたいな場所で話しかけてくるのか?というか、ラタトスクも似たような場所に俺を閉じ込めてたよな…

「あのー。他の方もいらっしゃるので、掲示板の前で二人して突っ立つのはやめてもらえますか?」

 受付に怒られてしまった。

「すまない…」


「今日も変わらず、時間のかかる護衛依頼ばかりだ。今日は昼をこえたあたりから雨が降りそうだ。雨具を持っていかないと」

 まあ、護衛依頼は割りが良かったり悪かったりで、雨が降る日にやりたい仕事では無いな。

「もう帰るか。鶏小屋の手伝いでもしてやろう」

「ふふっ。そうしよう。あの姉妹達も学び舎に行って静かになっていたところだし」


「待て…」

「ん?」

 後ろに黒い服を着た、青い顔をした不健康そうな男が立っている。

「猟犬。貴様の働き良かったぞ。だが…全てが終わったわけじゃ無い」

「猟犬?…俺が?」

「貴様は我が主の配下だろう」

「我が主って誰のことだ?」

「自分には名前を呼ぶことも相応しく無い。ただ魔なる王とだけ」

 なんだ?あいつのファンか?…

「なんで俺がそうだって思うんだ?」

「回りくどいな。貴様は選ばれた猟犬。それを私は知っているということだ。誤魔化す必要はない。これを言いふらすつもりなど毛頭無い」

「じゃあ、なんの用があるんだ?」

「忘れていないか?蜂の巣箱」

「……教会の地下墓の」

「そうだ。そして古の地下墓に現れた魔なる大樹」

「はぁ…?」

「すぐに調べに行け。つながりを見つけろ」

 よく分からないが、どうやらこの男は人間では無いようだ。怪しく輝く目は人とは違う。猫のように黄色く、縦長の瞳孔を持っている。

「一応名前は聞いとくよ」

「私は…オズ」

 なぜか自信なさそうに小さな声で名前を言う。

「そうか。依頼ってことでいいな」

「そうだ。餌はここに置いていこう」

 そう言って受付に、帰ってきたら奴らに渡せと、袋を置いて出ていってしまった。

 事情はよく分からないが、調べるだけならいいだろう。遺跡に行ってみるか。


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