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103話 蟷螂の遊猟

「鎧が…」

 兵士の一人が呟く。

 構えられていた盾は、真横に横断され。それを持っていた兵士のプレートアーマーは、ぱっくりと大口を開けたように切り裂かれている。鎖帷子を着ていなければ、体が切り裂かれていただろう。恐ろしい切れ味だ。


「ボルド!無事か?」

「無事です!」

 蟷螂男は壁を駆け上がる。その炎が渦巻く天井を目指している。

「ルル!逃すな!」

 進行方向に向けて、一斉に牽制射撃を行う。

 視線がこちらに向いた。そのぎょろぎょろと輝く目には憎しみが映る。

 間に入るようにボルドが前に立つ。

「ダメだ!」

 ボルドは盾を失い、鎧も壊れている。次の一撃には耐えられない。

 重たい体を押し除ける。

「何を!」

 斬撃は頭を掠める。攻撃は外れた。その腕は俺の背中を通った。

 後ろ足で蹴りを入れる。そこに衝撃を乗せようとしたが、ルルが後ろに立っている。巻き込んでしまう。

 振り向くと、ルルは蟷螂人間と、組み合い腕を捕らえて、語りかける。


「神父。正気を本当に失ったか?私がこの町で、初めに感謝したのはあなただ。それがどうして?」

 ダメだあんなに近づいたら。

「手を離せ!」

 腕の鎌は、捕らえていたルルの腕の間をするりとを抜けた。しまった…力を緩めさせてしまった。

 だが、失敗はすぐに取り返す。

 弾は必ず当たる。あの距離だ。俺はできる。

 ルルに振りかざされた腕は、ルルの体の隙間を縫って飛来した弾丸に阻まれる。

 背後からボルドが壊れた盾を構えて体当たりする。

 距離が離された。それを喜ぶように傷ついた鎌を舐める。


 こちらの行動を意に返さず、ただ近付く者に鎌を振り回す。なんとしてでも距離を取り、逃げたい。ただの動物のような意識が働いているように感じ取れる。だがその内には殺人鬼の得体のしれなさのようなものがあり、それが不気味さを増している。ただの動物と化したのか、それとも奴は意識を持ってこちらを弄んでいるのか?掴みどころの無さが恐ろしい。


「この!」

 ルルが至近距離で矢を放つ。胸のど真ん中に突き刺さる。

「雷の精霊よ!」

 矢に繋がっていた糸を通して、雷が流れる。それすらも何も効かなかったかのように、糸を切り天井に飛び上がる。

 到底人の体で耐えられるものじゃない。体が異常に頑丈になっている。腕を切り落とされたせいで、余計に頑丈になったのかもな。


「雷は効かないのか?虫は雷を嫌うはずだが」

「それは雨が降った時の話だ」

 虫は雷でいなくなるという、エルフのことわざだ。雷は妖精が起こしてるとな。森で暮らすエルフにとって虫は面倒な相手だから仕方ないが。奴は虫っぽいだけで虫かどうかも怪しい。

「なら何がいい?」

「火はどうです?生き物はみな火に弱い」

 ボルドの言葉はもっともだ。銃弾が効かないならもう、できることは全部試してみるしかない。

 レールガンやら、レーザーライフルでもあればいいんだが。あの手の武器は通常歩兵じゃないと配備されない。ああいった最新式の銃器は、整備に手間がかかる。長い作戦時間を耐える兵士には向かない武器だからな…

 威力だけなら色々とあるが、大口径のライフルで動き回る相手を立射で当てるのは無理だ。

 無反動砲は、撃ったら脆くなってる建物ごと潰されそうだ。

 もう俺にできるのは効いてるのかどうかもわからない銃弾を当てることだけだ。有効な攻撃を探らないと。


「試してくれ」

「よし!炎の精霊よ」

 ルルが火を纏わせた矢を放つ。

 斬撃が掠っただけなのに、火が消えた。斬撃が真空を作っていて、それにかすった瞬間燃えることができなくなってるのか?それとも燃えていた天井に近い場所は酸素が薄くなってるのか?

「だめか…」

 ルルは落胆する。隙を埋めるために射撃を加える。

「火を嫌ってるだけかもしれません。我らも同じように。穂先に火を」

 槍の先端に布を巻き、松脂を塗って火をつける。

 カサカサと天井を動きまわり、梁を蹴って、こちらに攻撃を繰り出している。

 狙いが、俺とルルに絞られているから、兵士たちは動きやすいようだ。

 兵士たちが火のついた槍を纏って突き出すたびに、驚いた猫みたいに飛び上がって、後退していく。その時に見えない速さで、槍が真っ二つに切断されていく。その度に兵士は置かれた槍を拾う。

「衛兵長。槍の替わりがもうありません」

「折れた槍で戦うまでだ」


 戦っている時間は長くなっているが、向こうは傷を負っていても消耗する様子はない。

 だが、街の悲鳴は段々と聞こえなくなってきた。レームや、協力するギルドの勇士たちの活躍で、状況が良くなっているんだろう。そうなれば、こちら側に援護も多くなるはずだ。


『ピィーーーーー』

 蟷螂人間が口笛を吹いた。そのあと、口からドロドロと虫を吐き出す。

「おいおい。エイリアンかよ…」

 体内にあの寄生虫を飼ってたのか?

「あの虫は…皆、火を投げつけろ。あの虫はばら撒かせてはならん!」

 兵士が火のついた槍や、松脂が詰まった壺を投げつけた。

 

 蟷螂人間は壁面を上りながら、ケタケタと笑うような動作をした。

 すると天井の梁まで上り、そこから、寄生虫が固まった団子みたいな吐瀉物を撒き散らし始める。

 その塊が、足元に貼った指輪の罠に引っかかり、それは魔力に飲まれて、拘束されて動きが止まる。

「待てよ…」

 


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