表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/145

101話 火急の知らせ

 教会?あの怪しげな祭壇があった場所、あそこは教会につながる地下墓地だという話だった。だが、教会の姿はまだ見ていなかった。

 ルルは行ったことがあり、神父と話したこともあると言っていた。だが俺はどんな人物なのかを知らない。でも優しい話口調の、人の良さそうな人だったと。俺の知る人々は言っていた。

 でもその人物が、今や街を騒がす殺人鬼だ。これは神父にとって本意なのか、誰かしらに利用されて、ああなってしまったのかはわからない。

 それを知ることが大事だと思う。ヴェルフのように、力を奪うことが出来れば元に戻るかもしれない。でも手遅れになっていたら殺害も考える必要が出てくる。

 そうなったら、あの二人は浮かばれない。なぜ殺されたのかもわからないままになってしまう。だが野放しにすることが最も危険だ。次々と被害者が増えていくことは目に見えている。


「教会に火の手が上がっておる。どうやら戻ってきたようじゃ」

 やっぱり戻っていたか。手負いの状態で夜間を歩いて別の街に行けば、必ず道中襲われる。

 戻ってくることを予想していたが、身を潜めることも無く暴れ出すとはな。正気とは思えない。だが今までの事を考えれば、正気を失っていくのが使徒というものなのかもしれない。


「一緒に行くよ!」

 ナディアが肩を回して、戦う気概を見せる。だが連れて行くわけにはいかない。

「ナディア、帰ろう。アルヴィさん、気をつけてね」

 ナディアが着いてこようとしたのを、シャーディアが静止する。

「悪い。家まで帰れるよな」

「埋め合わせしてもらうんだから」

 ナディアは少し不機嫌そうになったが、手を握ってそう呟いた。小さい手から心配が伝わってきた。

「分かった。気をつけて帰るんだぞ」

「私が送ります。生徒を危険に晒せないから」

 イザベラなら安心だ。

「頼んだ」


 教会に急いで行かないと。武器をまとめて、装備する。

「待って!アルヴィ君」

 研究室から光る何かを掲げて、ドタドタと走ってくる。

「マルシア?」

「水晶を一応使えるようにしておいたから、持っていって。まだ試してないけど、多分水晶から爆発が起きると思うよ」

 蠍の使徒が持っていた水晶、そこに魔力石をくっつけただけの物を投げ渡される。

「爆発?それは大丈夫なのか?」

「うん。君の魔力で動くんだから、君を傷つけたりはできないよ」

「爆発って響きは物騒だな」

「うーん。まだどういう動作をするか確認できてないから。本当にどうしようもない時に使って」

「早うゆくぞ!大事になってしまうぞ」

 レームが宙に浮き上がり、廊下を滑空していく。それをルルと追いかける。マルシアと、イザベラの見送る声が聞こえた。

 

 学園を出ると、南東に黒煙が上がっているのが見える。

「いつ頃から火が?」

「ちょうど昼過ぎじゃ。飯を食べて、散歩がてら、昨日のことを思い起こしておったら。火の手が上がっておった」


 近づけば近づくほど、煙の匂いが強くなり、人の悲鳴が強くなっていく。火の勢いが強いのか?

 走る足が速くなる。

 逃げる人の姿が多くなる。もう目の前に近づいた、金属がぶつかるような音がしている。戦っている。

 通りには騎兵が数十騎行き交い、人を追い立てて逃げさせている。逃げる人々の数は数千に及ぶだろう。

 目の前に教会が迫る。煙を吸わないようにルルとレームが布を口元に巻く。辺りの温度が増していることを感じる。


 屋根に火がついた教会から、傷ついた兵士が大量に運び出されてくる。深傷を負っているのは明らかで、前夜の攻撃よりも苛烈なことが分かる。

「屋内で戦っている」

 レンガで作られた教会だが、屋根が木造で、梁に火が移って燃えている。煙は屋内には立ち込めていないようだ。中でまだ兵士が戦っている音がする。


「あんたら、近づくな!」

 負傷している兵士に教会に近づくことを止められる。体には深い傷が見てとれる。

「どうなってる?」

「居住区に変な虫が大量に発生してる。そのせいで人が乱れるように動き回ってる、大混乱だ」

「虫?あの人を操るっていう寄生虫か?」

「衛兵長が気をつけろって言ってた虫だ」

「なぜ火の手が?」

「それはわからない。多分燭台の火とかじゃないか」

「教会の中はどうなってる?」

「怪物と衛兵長たちが戦ってる。俺たちは手も足も出せなかった」

 やはり、ボルドたちが中で戦っている。このまま見てるわけには行かないぞ。

「わしが火の手を食い止めておく。どうせ狭い場所で人が大勢居っては、役に立たぬからな」

 レームが宙に浮き、屋根の火に近づく。

「おい!近づいちゃだめだ!」

「気をつけてあたるのじゃぞ」

 レームは杖を掲げ、火を巻き取るように吸い込んでいる。あそこは任せておいてもよさそうだ。

 教会内は、金属がぶつかる音が響いている。まだ戦いは激しく続いている。助けに入らないと。

 銃を構えて、煤けた扉に踏み込む。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ