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99話 研究室

「泣くな。こんな日なんだ、仕方ないって」

「だってぇ…せっかく色々街を歩けると思ったのに…」

 昨晩の事件のせいで、学園は閉まっていて入れない。誰かくるまで待っていたが、誰もこない。レームのところに行っても、もう学園に行ったってのでどうしようもなく。腹も減ったから、他の店に行こうと思っても、どの店も閉まっていて閑散としている。行商も通るが、早足で通り抜けるばかりで、ここに止まる馬車がひとつもない。

「学園に戻るか。マルシアに話せば開けてもらえると思うんだが」

「でも誰も来ないもん」

「もう、あんまりわがまま言わないの」

「私が忍び込んでこようか?」

「俺も考えたが、後からめんどくさい」

「待つしかないか…」

 待つこと数分。


「あれ?」

 学園の前門に見覚えのある人がいるぞ。

「お!イザベラ!」

「あ!アルヴィ!帰ってたんだね。久しぶりな気がするな。ここで何してるの?」

「この二人が、ここに入ることになってな。見学がてら来たんだが…」

「今日はお休みなの。昨日の夜大事件があったでしょ?危ないからって。開けるからちょっと待ってね」


「ねぇ。すごい綺麗な人だね。先生なの?」

「私はイザベラ、ゴーレムの研究をしてて。講演も一応やってるから。興味あったらいつでも来てね。でも最初は基礎からだよね」

「私たち、実戦魔術の授業を受けることが決まってて」

「あれ?他のところに通ってたの?」

「お父さんが術師だったから。私たちも一応」

「へぇ。期待の新人ってことね。二人も実践魔術なら便利に使えるんじゃない?」

「風属性意外適正無しって言われたからな」

「呪われた血脈というのは厄介なもので、付与、符呪意外は全くだ」

 俺は風属性以外の魔術は使えないらしいし、ルルは色んな魔力元素に適性がある。でも魔力の付与は得意だが、魔力の放出は苦手らしい。

「アルヴィは飲み込み早いし、ルルさんはさすがエルフって感じって、レーム先生は言ってたけど」

「便利な術は覚えたいがな。スキルもあるし、そっちの方が俺に合ってる気がする」

「私も同じくだ」

「二人とも実戦派だからね。魔術は覚えなきゃだし、使うにも考えないといけないから、武闘派の人とかも苦手って言うし」

「考えることが増えるからな」

「手ぐせで出来るようになるといいんだけど」

「そっちの調子はどうなんだ?」

「うーん。日にちが進むごとに悪くなってる気がして」

「ゴーレムの件か?」

「そう。父の研究は日々進んでる。でもそれが正しい研究に思えなくて」

「いつ戦争が起こるかわからないって、本当なのか?」

「ええ。確かにここは平和。だけど現皇帝が死んだらってことを考えると」

「野心家の息子がいたな。ルドウィークだったか。東国のドワーフとのいざこざで虐殺を指示して、中央に更迭されたって聞いてたが」

 ルルは明らかに嫌悪感を示している。

「野心家よ?継承権を無くしてるって声もあるけど、そんなことで満足するわけがない。それに兵士の心をつかんでいるのはあの男、軍権がある以上恐ろしいことに変わりはないからね」

「この辺り一帯を治めてるフレデリック美王も親族だよな」

 芸術家の保護をしていて、自分も芸術家で、楽公って呼ばれてる美王の弟も都にいる。

「この南山付近は、兵士の数は少ないし、食料も少ない。でも要害になっていて、攻めるなんて不可能なぐらいの高い山脈に囲まれてる。竜騎兵ですら越えられない、けどゴーレムは違う。疲れを知らないから山だって登るし、馬や牛以上にたくさんの物を運ぶ、攻められたらどうなることか」

「山脈はマナに溢れてるから、ゴーレムもよく働くな」

「完成したら、そんな使われ方をすると思うとね。気が乗らないっていうか。本当は、発展に役立てて欲しいんだけど」

 俺の世界でも、ロボット三原則だかの話もあったが、操る人間側次第で、どんな使い方もできた。まあ穴だらけだったし妥当な結末だった。こっちでも人が変わらない限り同じだろう。

「はい、マルシア先生のところ。昨日の夜からずっとここにいるみたいで、ご飯ぐらい食べてって言っといてね。二人には私が案内しようか?」

「よろしくお願いしまーす」

「アルヴィさんも、終わったら来てくださいね?」

「わかった」


「マルシア?」

 相変わらず獣臭い部屋だ。

「やあ!いいところに来たね!」

 昨日の夜と全く変わらない、元気いっぱいだ。

「元気だな」

「元気そのものだよ。君の水晶のことはまだだけど、まずはこの虫を見てくれたまえ」

「昨日のベッドの下から見つかったやつか」

「この子は音に反応するんだよ!口笛を吹くだろ?」

 ピクリとも動かなかった、ガラスの上に乗った虫が、音が鳴った瞬間にうねり出す。

「だいぶ弱ってるから、この程度だけど。きっとこの虫はそれ以上のことが出来るはずだ」

「こいつには何が出来るんだ?」

「命令を中継するんだよ、この子。この子がなぜ僕の音に反応して動いたかは、僕の魔力を与えたからだ」

「俺の魔力を与えたら、こいつは俺の言うことを聞くのか」

「そうなるね。そしてこの子は命令を中継する。ネズミを使って見たんだけど、体内に潜り込んだら、僕が言った通りにネズミが動いたんだよ」

「兵士を操ってたのもこいつか」

「そう。兵士の体に穴が空いていたことも確認できたから。原因はこの子で間違いない」

「あの二人も…」

「うん、そういうことになるね。そしてこの子は逃げようとしていた」

「透明になれるのはなんでだ?」

「水に濡れると透明になるってことはわかったけど、どういう原理かはわからないね。でもこれほど魔力が流しやすい生き物なんていないから。透明になる術を与えて、それに条件をつけて使わせるようにしていたとかかなぁ?自信はないけど…」

 魔力を生物に流せるのは、強い呪いか、一級の術師が練りに練った魔力か、単純な構造でできた生物って言われている。それはゴーレムとか、スケルトンとかの生き物と言っていいのか怪しい生物がほとんどだ。

 でも体が小さくて、単純な構造の生物ならありえるのか?…でも音に反応するってことは、音が聞こえる器官を持ってる…その構造だけでも複雑な物になるんじゃないか?…

「そのことは知らせたのか?」

「うん。少し前、ボルド君が来てたからね」

「今後の動きとかも話してたか?」

「衛兵を哨戒と、調査に分けて動いてるって。もう民衆に被害は出さないって言ってたよ。有効な武器とかもわかったみたいだし、安心だね」

「あとは、奴がどう動いてるかだな」

「君はどう思ってるの?」

「俺はあの祭壇、あれを破壊すれば怒って戻ってくるんじゃないかな」

「うーん。確かに合理的だけど…」

「墓場を壊すのは良くないか」

「まあ、君に出番があったらボルド君が話すだろうし。今日は休んでおきなよ」

「ああ、マルシアもな」

「僕は、蠍の使徒が落としたという水晶を調べなきゃだから。これから色々調べていくよ!」

「そうか…飯ぐらいは食えよ…」

 マルシアの研究室を後にする。



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