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5.9人の円卓


 レイルがパーティを離れ新たな宿に着いたその頃、Sランクパーティ深淵の炎竜はメンバー全員で円卓を囲んでいた。

 いつもならこの時間には10人が揃って食事をとるのだが、今日は1席余っている。


「あれ、レイルはまだなのか?」


 空席の疑問を真っ先に口に出したのは、深淵の炎竜の副団長であるネイト。二刀流で戦うという珍しい戦闘スタイルの魔法剣士である。

 そして、この実力者揃いのパーティの中で最も強い人間でもあった。


「さあ、彼は仕事に関しては勤勉ですから、まだ雑務が終わってなくて部屋にこもっているのではありませんか?」


 落ち着き払ってネイトにそう言うローブを着た男は、魔法使いのセルテール。主に後方からの砲撃支援をする遠距離攻撃系の魔法使いだ。


「なんだよ! アイツがチームワークが大事とか言って可能な限りメンバー全員で飯を食おうって言ったのによ!」


 机に足を乗っけて憤慨する態度の悪いこの男は、前衛担当のガット。あらゆる道具を使わず、魔法を応用した武術で戦うという、これまた珍しい戦闘スタイルの戦士だ。


「まあまあ! 私たちのためにレイルも頑張ってくれてるんだよ、もうちょっと待ってあげよう?」

「ま、アイルがそう言うなら、し、仕方ねえな……」

「ありがとう、ガット!」


 短気なガットをなだめて笑顔を振りまくのは、魔法使いのアイル。

 彼女はセルテールとは違い、回復魔法や強化魔法などの非攻撃の支援に特化した魔法使いだ。

 ビューティーのサイラ、プリティーのアイルと巷の一部で人気を二分しているパーティのアイドルである。


「あはは! ガットってばアイルに照れちゃってる!」

「う、うるせえぞクソガキ! しばき回してやろうか!」

「できるもんならやってみな! お尻ぺんぺん!」


 怒りっぽいガットをからかって面白がっているのは、このパーティ最年少のカウトラ。

 まだ幼い少年だが魔法の腕は既に一級品であり、神童と称され潜在能力はパーティで1番だと目されている。


「このやろっ、ガキだからって俺が手を出さないと思って調子に……ておい! マイヤてめえ俺の服にヨダレかけんな!」


 口からヨダレを垂らしてガットの服にかかってしまっている彼女は、料理人のマイヤ。

 彼女は非戦闘員であり、パーティの中で唯一まったくもって戦闘力がないが、それでも料理の腕だけは一級品だった。


「ご、ごめんなさい! 料理を見てたらついヨダレが出てしまう癖なんです!」

「料理って、お前が作ったんだろうが……まさか! お前調理中にヨダレ垂らしてねえだろうな!」

「大丈夫です! 私の体は食べたものから出来ていますから、私から出た唾液も食べ物みたいなものです!」

「その理論だと、う○こも食べ物になるだろうが!」

「…………」


 その賑やかな様子をただ無表情で見つめているのは、このパーティで一際体の大きい盾使いのボウドウ。

 ガットと同じく前衛だが、彼は盾しか持たず攻撃をしない、完全防御特化の戦士だ。


「あはは! ガットがう○こって言った! う○こう○こ!」

「おいクソガキいい加減にマジでブン殴るぞ!」


 そして、いつもならば意外にもこういう喧騒に積極的に参加するサイラは、いつ話を切り出すか気を伺ってソワソワしている。


「おい! お前ら全員黙れ!」


 団長であるドオグの怒鳴り声で騒がしかった食卓がシーンと静まり返る。


「飯はもう食っていいぞ」

「え? でもレイルがまだ……」

「ああ、そいつなら今日お前らがいない間に追放したよ」


 食卓がまたシーンと静まり返った。しかし、それはさっきの静けさとは明らかに異質な、凍りつくような静けさだった。


「……え?」

「だから、レイルは追放したって言ったんだよ!」


 パーティの面々は、いつもの喧嘩ではないことを察知した。

 事情を知っているであろう、サイラの表情がそれを物語っている。


「待ってくれ、それじゃあレイルは今この宿舎にはいないということか?」


 怒れる団長に、副団長であるネイトが代表して質問をする。


「ああ、あいつはとっくにこの宿舎を出て行ったよ。その先のことは知らん!」

「そんな、もっとしっかり説明してくれないと!」


 団長に詰め寄るネイトの前に、サイラが割って入った。


「待って。ここは私に説明させてくれないかしら」

「……サイラは何か知っているのか?」

「ええ、私はレイル本人から直接聞いたわ」


 ネイトはサイラの眼差しを見て、大人しく自分の席に戻りサイラの方へ体を向けた。


「ありがとう、それじゃあ一体何があったのか話すわよ」


 サイラはパーティメンバーに話した。

 団長とレイルがまた対立したこと、団長がいつものように追放をレイルに言い渡したこと、そしてレイルがパーティを離れることを決めたこと、その決心の強さ。

 その場で新たな問題を起こしたくなかったため、団長の要求に関しては言わなかった。


「とりあえず、私がレイルから聞いたことはこれで全部よ。団長、こういうことで合っているかしら?」


 ドオグは黙って頷いた。


「……なんで止めなかったんだ! レイルがいなかったら、このパーティは確実に苦しくなるぞ!」

「私だって止めようと思ったけど、レイルの決心を無下にはできなかったのよ……」


 ネイトに正論を叩きつけられ、サイラは俯きながら答える。


「まぁ、彼は去ってしまったのですから今更後悔しても遅いでしょう。それより、彼の今までの仕事、少なくとも経理の仕事はすぐにでも誰かが引き継がなければなりませんが……」


 この中で比較的冷静さを保っていたセルテールが、状況の打開を提案する。


「ああ、それについてなんだがな」


 急に、団長のドオグが勢いよく立ち上がり、団員たちの顔を見ながらこう告げた。


「今日からは、俺が金回りの全権を握ることにする! これは団長決定だ!」


 崩壊に向けて、小さなヒビが入った。



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