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24.王都の中


 サミはボロボロの服から買った水色のワンピースへと着替えた。

 服装が変わるだけで印象とはだいぶ変わるもので、今までにない可憐さがあった。


「ど、どうかな……」

「うん、凄く似合ってると思うよ」

「そ、そうかな……」


 サミはそう言いながら照れ笑いを浮かべる。その表情はとても嬉しそうで、スラムの人間といってもやはり乙女だった。


「さて、これでスラムの人間だってことは衛兵にはバレないだろ。早く王都に行こう」

「早くレイル様の友人に会わなきゃ」


 3人は王都の方へと急ぎ足で向かって行った。



ーーーーーーーーーーーーーー



 王都の外周は低い塀で取り囲まれており、常に衛兵が隅々まで巡回している。スラム街の住人や怪しげな人間は入れないという圧力がある。


「よ、よし、じゃあ行くぞ」

「う、うん」


 3人は少し緊張しつつそそくさと塀の入り口から入った。

 ふと、自分たちのことを訝しげに見つめる衛兵と目が合う。心臓が早鐘を打ち、冷や汗が垂れる。


「お前ら、その女が持ってる樽はなんだ? まさか、薬物などではあるまいな」

「ああ、えっと、これはとある貴重な野菜をペースト状にしたものが入っているんですよ。俺たちはそれを王都に売りに来たんです」


 こういう時に嘘をついてもしもバレてしまえば、疑わしきは罰され即牢屋行きである。やましいことがないのであれば正直に答えるのが1番だ。


「ちょっと中を見せてみろ」

「ええ、もちろんどーぞどーぞ」


 サボナは担いでいた樽を下ろして蓋を開ける。衛兵はその中身を覗き込んで怪訝な表情を浮かべた。


「なんだこの緑色でドロドロした気色の悪い物体は」

「さっきも言った通り、野菜のペーストです。なんなら食べてみますか?」


 衛兵は少しギョッとしてレイルの顔を見る。


「お、俺がこんなものを食べるのか?」

「はい、口にしてみなければ怪しいものかどうかわからないじゃないですか。ちょっと舐めるだけで良いんです」


 衛兵はあまり気の進まないような顔をしながらも、仕事だと割り切ったのか指でサーボのペーストをすくい上げた。

 自分の人差し指の先に付着したそのドロっとした緑の物体を見て深呼吸をし、思い切り口へと運ぶ。


「どうですか?」

「……う、美味い」


 衛兵は少し信じられないような顔をしてその樽の中のサーボのペーストを見つめる。

 サボナはそれを意に介さずに樽の蓋を閉めて、再びヒョイっと担ぎ上げた。


「では、疑いも晴れたということで」


 レイルは唖然とする衛兵に軽く会釈をすると、塀を越えて王都へと入った。2人も後に続く。

 レイルはサミがスラムの人間だとバレてしまうことに内心は終始ビクビクしていたが、一気にその緊張感から解放されてついため息が出た。


「良かった、樽の方に興味を示してくれて」


 レイルが胸を撫で下ろし安堵する傍らで、サミは目の前に広がる光景に目を輝かせていた。

 舗装された道、煌びやかな服に身を包む通行人たち。当然ながら道に寝そべる浮浪者はいない。

 スラムとは全く違うその景色にサミは息を飲んだ。


「これが、王都……」

「ああ、そうだよ、これが王都だ」


 レイルからすれば見慣れた景色だが、サミからすればとても素敵なものに見えるのだろう。それくらいはレイルも理解できた。


「すごい、すごいよ! 道がデコボコしてないし、建物の壁にも穴が空いてない!」

「そ、そうだな……」


 なかなか出てこない感想にレイルは苦笑いを浮かべた。スラムの住人ならではの視点だろう。


「さて、取り敢えずはウーガスに早いとこ会いに行かないと」

「レイル様はあの友人の居場所を知っているの?」

「まぁ、心当たりくらいはある」


 レイルは2人を引き連れて王都の道を歩いた。

 サミは歩きながら常に周りをキョロキョロと興味津々に見渡しながら興奮していた。


「さ、ここだよ」


 レイルがある建物の前で立ち止まった。その建物の看板には『個人商人館』と書かれている。


「ここにレイル様の友人が?」

「ウーガスは大体ここで情報交換をしてる。俺たちのことを待ってるんだとしたら多分ここにいる」


 レイルたち3人はその建物の中へと入って行った。


「お、いたいた! ウーガス!」

「え、レイル君! どうしてこんな所にいるお?」

「いや、約束しただろ、10日間のうちに農業の目処を立てるって。ようやく売れるところまで来たんだよ」


 ウーガスはその言葉にビックリしたような表情を浮かべた。


「本当にやったの!? 正直、レイル君のハッタリだと思って期待してなかったんだけど……」

「え!? 信用してなかったのかよ!」

「少なくとも10日間のうちにどうこうしてくるとは思ってなかったお」


 サボナは樽を下ろし、蓋をとってウーガスに中身を見せつけた。


「な、なんだこれ?」

「正体は後だ、まずは商売になるか否か食ってみてくれ」


 ウーガスは恐る恐るサーボのペーストを指ですくい取る。やはり見た目に関しては少し課題を残しているようだ。


「い、いただきます……」


 ウーガスはそのペーストをペロッと舐めた。

 しばし沈黙するウーガス、その反応を見てレイルはニヤリと笑った。


「どうだ? これは商売になるか?」

「……なる! これは絶対に商売になるお!」


 ウーガスからのお墨付きを貰えたレイルは、ガッツポーズをした。

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