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21.閑話 パーティの生活


 ここは、Sランクパーティ深淵の炎竜の宿舎である。

 そこに、そのパーティのメンバーであり料理人であるマイヤが帰ってきた。


「た、ただいま!」

「お帰りマイヤ、ちゃんと武器の買い物もしてくれた?」


 マイヤを出迎えたのは偶然宿舎の出入り口を歩いていたサイラだった。


「はい! ちゃんと良いものを買ってきました!」

「良いもの?」


 マイヤの持って帰ってきた荷物がやけに多いことにサイラは首を傾げる。

 荷物の入っている風呂敷を広げ、中身を確認すると、そこにあったのは謎のツボだった。


「……マイヤ、なにこれ?」

「はい! これは幸運のツボです! 幸運になれる魔法の術式が込められているらしく、持っているだけで幸せになれるとか!」


 その瞬間、サイラは思い切りマイヤの頭を引っ叩いた。


「いたっ! 何するんですか!」

「マイヤこそ何してくれてるのよ! 諸経費で謎のツボなんて買ってくるんじゃないわよ! 幸運になる魔法なんてあるか!」

「え!? ないんですか!?」


 マイヤは困惑した表情を浮かべた。どうやら、未だに自分が騙されたことに気がついていないらしい。

 サイラはその様子に深くため息をつく。


「マイヤは魔法の知識が乏しいんだから、そうやって騙してくる人もいるのよ」

「え! 私騙されてたんですか!?」


 マイヤは深く落ち込む。パーティメンバーに喜んで貰わんと買ってきたものが、まさかインチキだったとは。


「はぁ、やっぱりレイルの代わりに武器の買い出しまでマイヤ1人に任せたのは間違いだったわね……」

「す、すみません」


 申し訳なさそうに俯くマイヤの頭をサイラは優しく撫でた。


「ううん、私もさっき引っ叩いちゃってごめんね。マイヤは料理専門だったのにいきなり買い出しまで任せちゃったんだものね」

「え、えへへ……」


 サイラに頭を撫でられたマイヤは凄く嬉しそうな表情を浮かべた。マイヤはパーティの中でも2番目に幼く、まだ甘えたい年頃なのだ。


「さて、もうお昼ご飯の時間ね。今日は何を作ってくれるの?」

「今日はレウベ牛のサーロインステーキとレスタルとロクリのサラダ、魚介のスープです。主食は用意がないので普通に食パンということで」

「マイヤが料理人になってくれたおかげで毎日食事が楽しみだわ!」

「そ、そんな! 私なんかに勿体ないです!」


 マイヤの料理の腕はエルドルア王国内では間違いなく1番であったが、彼女は非常に謙虚だった。

 というよりも、自分の料理の腕に自信がなかったのかもしれない。


 マイヤが台所で食事を作っている間に、パーティメンバーたちは続々と円卓に集まっていた。みんなで一緒に食べるというレイルの発案は、レイルがパーティからいなくなって10日以上が過ぎた今でも守られていた。


「おい、なんだこのよくわからんツボは」


 あいも変わらず態度悪く円卓の上に足を乗せながら、パーティメンバーのガットはマイヤが持って帰ってきたツボを指差す。


「そ、そうかしら?」

「……おいサイラ、お前なんか隠してるんじゃねえだろうな?」

「な、何を根拠にそんなことを……」


 マイヤが騙されて買ってしまったツボはパーティの諸経費から出ていた。そんなことが発覚して団長に知れてしまえばマイヤも追放されかねない。

 それを危惧したサイラはなんとか悟られないよう誤魔化していた。その分今日の食材が安っぽいものになってしまっていたが、マイヤの料理の腕ならば大丈夫だろう。


「ちょっとガット! サイラをそんな目で睨まないで! 女の子に優しくするの!」


 サイラに疑いの眼差しを向けるガットに対して、メンバーのアイルが説教した。

 ニュアンス的には、説教というよりお説教といった感じだ。


「あ、アイルが言うならしょうがねえな……」

「うん! ガットはいい子いい子!」

「や、やめろバカ! あ、頭を撫でるな!」


 頭を撫でてくるアイルに対してガットはそれを振り払おうとする。しかし、顔はまんざらでもなさそうだった。


「用意できましたよー!」


 マイヤが台所から料理の盛り付けられた皿を持ってきて、各々の前に置いた。

 全てのメンバーに並べ終えると、マイヤも席に着く。


「おい、食パンは食パンだけなのか?」


 団長のドオグが口を開いて食パンを指差した。何やら不服そうな顔をしている。


「そ、そうですけど……」

「料理人のくせに塗るものすら用意できないのか! 今すぐ食パンに塗るものを買って来い!」


 この傍若無人な団長は、事もあろうに食事を並べ終わった後にそんなわがままを言い始めたのである。


「ま、まぁまぁドオグ、食パンだって普通に食べても美味いよ?」

「スラムの配給じゃあるまいし、Sランクパーティの団長がこんなものを口にできるか!」


 副団長のネイトの説得も虚しく、団長は自分のわがままを貫き通す。


「わ、わかりました! 今すぐ買ってきます!」

「ちょ、マイヤ!?」


 マイヤは団長のことをかなり恐れており、団長の言うことはたとえ理不尽なものであっても聞き入れていた。

 マイヤはパーティの宿舎から飛び出し、何かパンに塗られるものは売ってないかと近くを探す。


「はーい! この緑のペーストをパンに塗るだけで、あなたの食生活は華やかに彩られますよー!」


 ふと、マイヤは聞き覚えのある声を耳にした。

 その声の方向に向けて、マイヤは走り出した。


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