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20.売り物にするために


 サボナの存在のおかげでゴブリンとの交渉に成功したレイルだったが、当の本人であるサボナはその展開に少し困惑していた。


「な、なぜ、私が登場しただけで」

「当然だぜ! 俺たちは何に変えてもサーボが大好物なんだ! そもそも、あなたも自分が証拠だって言ってたじゃないか!」

「いや、それはあくまで弁明するという意味で」


 困惑するサボナをゴブリンたちが取り囲んで、まるで教祖様でも崇めるかのように視線を向ける。


「ああ、なんて麗しいんだ……きっとサーボを擬人化したらこんな姿なんだろうな……」

「おい、あんまり女の子を寄ってたかって取り囲むなよ。怖いだろうが」


 レイルは大勢のゴブリンとサボナの間に割って入る。


「なんだお前! なんの権利があって妖精様に近づいてるんだ!」

「よ、妖精様って……」


 レイルがサボナに不用意に近づいているのが気に食わなかったのか、ゴブリンたちが一斉にヤジを飛ばした。

 なんだコイツら、ファンか!

 すると、主人にヤジを向けられていることに耐えかねたのか、サボナがゴブリンたちに言い放った。


「私のご主人様にヤジを飛ばすな、ゴブリンの分際で」

「お、おいバカ! 交渉成立に水を差すような発言をするなよ!」


 今のサボナの発言でゴブリンが怒ってしまったのではないかと、レイルは冷や汗をかいた。

 しかし、レイルの心配とは裏腹にゴブリンたちは慌てふためいてサボナに向かってひれ伏した。


「ご、ごめんなさい! サボナ様がそう言うのなら!」

「……え、これマジで?」


 レイルとサボナは顔を見合わせた。これはもしかして、サボナの言うことならゴブリンは聞いてくれるのかもしれない。


「もう頭を下げてなくて良い、立ち上がって」

「い、イエッサー!」


 ゴブリンたちは再びドタドタと立ち上がった。その目はまるで気に入って貰いたいかのようにキラキラと輝いている。


「な、なんでお前らサボナの、この娘の言うことを聞くんだ?」

「当たり前だろ! サーボは俺たちの大好物でありながら恵みを与えてくれる神聖な食べ物でもあるんだ! その妖精様の言うことを聞くのは当然だ!」

「そ、そうなのか」


 これは好都合である。なんだか彼らなりの信仰でサボナのことを神聖なものとして捉えているらしい。これは今後ゴブリンと仕事を共にしていく中で非常に便利である。

 しかし、こうなるとレイルの決死の交渉が徒労に終わった感も否めないが。結果オーライというやつである。


「じゃあ、さっきも言ったけど、今日から俺とゴブリンで協力してこの荒野を大農場にするぞ! えいえいおー!」


 レイルは腕を突き上げてゴブリンたちを鼓舞しようとしたが、後に続いて叫ぶものは誰もおらず、辺りはシーンと静まり返った。


「……あれ、ちょっとサボナ、今の俺と同じことやってみて」

「わかった、えいえいおー」

『うおおおおおおおおおおおおおおー!』


 大勢のゴブリンたちがサボナと号令の後に続いて、荒野中に響き渡るほどの大きな気合の声を上げた。

 その瞬間にレイルは悟った。ゴブリンへの支持はサボナに任せた方が良い。


「よし、あとは俺がサーボを正常に成長させるレベルまでライフ・コントロールを練習するだけだ。さしあたってはサーボの種が必要なんだけど、みんなも手伝ってくれるか?」


 レイルはゴブリンの群れに言うが、誰も答えようとはしない。


「……サボナ」

「みんな、サーボを収穫して種を集めるのを手伝って」

「イエッサー!」

「面倒くさいなお前ら! いちいちサボナが指示しないと動かないのかよ! なに、俺なんかした!?」


 自分の支持を全く聞き入れずにサボナの支持を聞くゴブリンたちに少し傷つくレイルをよそに、ゴブリンたちはサーボの収穫を始めた。



ーーーーーーーーーー



 日は少し傾いたころ、一通り荒野に生えてるサーボをとったレイルやゴブリンたちは一箇所に集まっていた。


「よし、取り尽くしたな、ここから種を取る作業がある」

「みんな、協力して種を取って」

「イエッサー!」


 ゴブリンたちはサーボの種を採取し始めた。レイルやサボナも一緒になって作業をする。

 なんだか農家やってるって感じがするな、レイルはそう思った。


 種を取る作業は意外と早く終わった。取った種を集合させると、レイルの前にはかなりの量のサーボの種が集まった。


「さて、ここからがいよいよ練習だな」


 レイルは種を地面に植えて立ち上がる。そして、地面に向けて手をかざした。


「ライフ・コントロール!」


 すると、地面がモコモコと盛り上がって小さなサーボが顔を出す。

 と思ったのも束の間、そのサーボは上の方へ育つことなくどんどん横に伸びていく。生命魔法のイレギュラーが発生しているのである。


「やっぱり、そう簡単には成功しないよな……まだまだ!」


 レイルはめげることなく生命魔法の練習に励んだ。


「ああダメだ! なんか色が黒い!」

「これも失敗だ! 高すぎる、上見えないくらい成長した!」

「これも違う! なんかわからないけどとにかく違う!」


 そんなこんなでレイルがサーボを正常に育てるための練習は、サミの家での寝泊まりを繰り返しながら実にウーガスとの約束である10日間ギリギリまで及んだ。


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