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18.稼ぎの目処


 レイルは思案していた。

 現状あの荒野の土地しか持っていないので、そこで農業をするしか道はない。

 しかし、あの荒野では王都で流通するような野菜を栽培することはできない。

 そう、王都で流通するような野菜ならば。


「なぁ、これは本当にサーボなのか?」

「本当だよ? なんで疑っているの?」

「いや、王都ではサーボは不味いものって有名なんだよ。なんでも、サーボをカットして食べた人間がそのあまりの不味さに卒倒したとかしなかったとか……」


 レイルがそう言うと、サミは大声で笑った。


「そんなの当たり前だよ! サーボはペースト状にすり潰さないととっても苦いんだよ!」

「それはつまり、調理法の問題ってこと?」

「うん! スラムでは常識だけど」


 スラムの人間は食べるものに困っている。しかし、だからこそ他の人間が食べないものを知恵を絞って美味しくするのである。

 ベージナのところで素材の重要性はしっかりとわかっていたが、素材を正しい調理法で最大限活かすことも必要なのかとレイルは理解した。


「……これ、いけるぞ」

「レイル様、どうした?」

「あの荒野でもサーボなら育つ、こんなに美味いなら王都でだって余裕で売れる!」


 少しずつ農業の目処が立ってきたと、レイルは高揚感に駆られる。


「サーボを栽培しまくって、ペースト状にして王都で売りまくれば良いんだ! それを元手に新たに土地を買えば豪農レイルの誕生だ、やったー!」


 レイルは少し先走っており、冷静さを欠いていた。しかし、使い物にならないと思われたサーボが金になるかもしれないと思うとレイルが喜ぶのも無理はない。


「でも、レイル様はサーボの成長過程を知らない、生命魔法で正しく育てられるかわからない」

「そんなの練習すれば良いだけだろ? そうと決まれば善は急げだ、荒野に行ってサーボ見つけて生命魔法の練習だ!」


 レイルは急いで支度をし、サミの住んでいる家から飛び出した。サボナもそれについてくる。


 レイルの眼前に広がっているのは、あまり見たことのない光景だった。

 ボロボロの家屋が立ち並び、明らかに浮浪者にしか見えないような中年の男性たちが地べたで寝ている。道は当然舗装などされておらず、あちこちにゴミが落ちている。

端的に言って、汚い街だった。


「こ、これがスラム街か……思った通りというか何というか……」


 レイルはその光景に少し顔が引きつる。失礼だとは思いつつも、自分がこんな所に住んでなくて本当に良かったと思った。

 無論、彼は今ほぼ無職なので農業に失敗すればスラムの住人の仲間入りなわけだが。


「ちょっと待って! 今荒野なんかに行っちゃ不味いよ!」


 家からレイルやサボナを追いかけてサミが出てくる。


「え、どうして?」

「話したでしょ、まだ陽の高い時間にはゴブリンがあの荒野に現れるんだよ! 彼らはサーボが好物だから!」

「いや、あれは一応俺の土地なんだよ。それって不法侵入じゃない?」

「そんな理論がゴブリンに通用するわけないよ!」


 ゴブリンは人間と意思疎通は図れるものの、やや知能指数が低い種族であり、また性格も野蛮だ。


「そうか、1番の問題を忘れてたのか……」

「うん、だから大人しく夜に行った方が良いよ」


 しかし、ゴブリンを気にしていては農業などままならないだろう。やがて大規模にサーボを育てたい以上、ゴブリンの件は解決する必要がある。


「夜に隙をついて行ったところで、根本的な問題解決にはならないよ」

「でも、そんなこと言ったってどうするつもりなの?」


 レイルは顎に手をやり思考を巡らせる。

 ゴブリンの問題を解決する方法は、手っ取り早いのは全部ぶっ殺すことだろうが、俺1人でそんな芸当は不可能だ。

 だったらもう、これしかない。


「……交渉する」

「ほ、本気で言ってるの!?」


 サミは驚きの声を上げた。

 しかし、それ以上に驚いていたのはサボナだった。表情筋の動きは少ないものの、思いっきり目が見開かれている。


「レイル様、私は元はサーボだった。あの荒野で生えていたから、ゴブリンの野蛮さを知っている」

「交渉は無理だって言いたいのか?」

「め、滅相もない。ただ、レイル様であっても難しいと思う、ゴブリンはサーボが大好物、簡単には手放さない」


 心配そうな顔を浮かべるサボナに、レイルはニヤリと笑った。


「なにも、俺の土地なんで入ってこないでください、なんてことお願いしに行くわけじゃないよ」

「じゃあ、どうやって話し合いを?」

「言っただろ、交渉って。土地ってのは占有するもんじゃなくて、利用するもんだ。利害が一致するなら、分け合った方が良いだろ?」


 レイルは自信満々に歩き始めた。

 いや、内心は少し怯えていた。もし交渉が決裂すれば、レイルはおそらく殺されるだろう。

 しかし、彼はサボナやサミに心配をかけさせまいと、引き止められまいと、わざと自信たっぷりに胸を張ったのだ。


 すると、レイルの後にサボナがついて来た。


「お、おい、別にサボナはついてこなくても良いんだよ? 普通に危険だし」

「レイル様の行く所に、私が行かないわけがない。それに、私はレイル様を信頼している」

「そ、そりゃどーも……」


 苦笑いを浮かべながらも、レイルは暖かい気持ちになっていた。信頼を置かれるというのは、やっぱり良いものだと。


 レイルとサボナは荒野へと向かった。


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