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16.少女の事情


 スラムの少女は立ち上がると、服についた土を払った。とはいえ、その服はそもそもボロボロなのだが。

 少女の手にはこの荒野で取ったであろうサーボが抱えられている。


「なんでお兄ちゃんたちがこんなところにいるの?」

「何言ってる、ここはレイル様の領地、侵入してるのはお前」


 サボナは少女を睨みつける。その視線を見て少女が怯えている。


「まぁまぁ、この子だって何かしらの事情があるんだろ。そう威嚇するなよ」

「……了解した」


 レイルはなるべく女の子を怖がらせないように、しゃがんで目線の位置を同じにする。


「まずは自己紹介。俺はレイル、さっきベージナさんのところにいたお兄ちゃんだよ」


 まずはこちらの情報を開示することによって女の子の懐疑心を解こう。子供とのやりとりは不慣れなレイルだが、なんとか話をしようと試みる。


「私はサミ、まぁ見たらわかると思うけどスラム街の住人だよ」


 サミはそう言って少し切なそうな顔をした。

 スラムの人間が胸張って自己紹介できるはずないか、緊張を緩和させるために自己紹介するつもりがなんだか萎縮させてしまったらしい。


「サミ、よろしく。俺のことはレイルって呼んで」

「うん、レイル! よろしくね!」


 彼女は子供らしく天真爛漫な性格なようで、レイルの誠意ある対応にすぐに心を開いた。レイルは安堵する。

 しかし、後ろで見ていたサボナは歯ぎしりをしながらその様子を見ていた。


「レイル様を呼び捨てに、アイツ許さない、殺す」

「あれ、サボナちゃんもしかして妬いてるのかお?」


 ニヤニヤしながら尋ねるウーガスを、サボナは殺気立った視線で睨みつける。目の色以外の表情が変わらないのが余計に怖い。


「友人Aも殺されたい?」

「いや、すいません……というか、名前くらい覚えてほしいお。俺の名前はウーガスだお」

「わかった、友人U」

「覚えたの頭文字だけ!?」


 そんな後ろでの会話をよそに、レイルはサミとの会話を続けていた。


「どうしてサミはこんな所にいたの?」

「これ! 生えてるサーボを取ってきたの!」


 サミは前かがみになって抱えていたサーボをレイルに見せつける。


「それ、取ってどうするの? 観葉植物として王都で売ったりとかするの?」

「違うよ、スラムの人間が王都に入ったら衛兵に追い出されちゃうよ。家に持ち帰って食べるんだー!」


 王都の人間はサーボなんて絶対に食べない。なんせ不味いと有名だからである。

 そんなものを食べるとは、やはりスラムの人間は相当生活に困窮していることが窺い知れる。


「サーボ、不味くない?」

「ううん? すっごく美味しいよ!」


 少女はニッコリと満面の笑みでそう言った。

 なんだか胸が苦しくなる。この少女はサーボを美味しいと思うほど不味いものしか食べたことがないのか。

 こういう人間に美味しいものを食べさせるというレイルの決心は一層強くなった。


「ところで、なんでこんな夜中に来たの? 別に昼間だった良いと思うんだけど」

「昼間はこの荒野にはゴブリンの大群が来るんだよ。生えてるサーボや旅の人間をさらってだちゃうんだって。だから、ゴブリンがいなくて安全な夜に来たの」


 なるほど、レイルは合点がいった。

 この荒野は野菜を作ることはほぼ不可能だが、この広大な土地を不動産屋がそれだけの理由で安値で手放すとは思えない。

 つまり、持っていても意味がない理由がある。その理由がゴブリンというわけだ。

 王国が作ろうとしていた何かもゴブリンの大群のせいで頓挫したのだろう。


「なるほどね、情報ありがとう」

「お礼されることなんて私してないよ?」


 なんだか健気な少女である。レイルは思わず抱きしめたくなったが、それは犯罪の匂いがするので自重する。

 ちなみに、レイルはロリコンではないが、ロリでも可ではある。


「でも、やっぱりこんな夜に出歩くなんて危険だよ。俺たちがサミの家まで送ってあげる」

「悪いよそんなの」

「子供ってのは遠慮しないほうが良いんだよ。さ、サーボも俺が持ってあげるから」


 レイルはサミが抱えているサーボを受け取ると、立ち上がった。


「本当に家まで運んでくれるの?」

「ああ、良いよ。さて、俺はサミの家まで行くけど、サボナとウーガスはどうする?」

「す、スラム街に行くつもりなのかお!? 危険だお!」

「じゃあ、幼い女の子を放って行けってのかよ」


 ウーガスはため息をついてレイルを見た。


「やっぱりレイル君はお人好しだお。俺はさすがに王都に戻るお、サボナちゃんも一緒に王都に行こう」

「いや、私はレイル様に着いて行く」

「な!? 女の子なんてスラム街じゃ何されるかわからないお!?」

「いや、どっちかっていうと、あなたに着いて行った方が何されるかわからない気がする」


 サボナはそのかなりたわわな胸を両手で抑え、ウーガスから距離をとった。


「俺って信用なさすぎじゃね?」

「気に病む必要はない、私が生理的にあなたを受け付けなかっただけ」

「それまったく励ましになってないお!」


 そんなこんなで、レイルはウーガスと1度別れることになった。


「くれぐれも気をつけるんだお!」

「ああ! お前も王都に帰ったら仕事頑張れよ!」

「そっちこそ、ビジネスで協力したことを忘れるんじゃないお! 10日後に結果を出して俺のところに来るお!」

「最後までがめつい奴だな!」


 レイルとウーガスは荒野で別れた。お互い手を振ることもなく、別れの挨拶を交わしたら振り向かなかった。

 男の友情なんてそれくらいが丁度いい、レイルはそんなことを思いながらスラム街へと向かって行った。




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