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15.ヒロインは植物


 レイルたちの目の前に現れたその少女は、レイルに向かってペコリと頭を下げる。


「私、ご主人様に育てられた。何なりとお命じを」


 無表情のままその少女はレイルの前に跪き、そのまま沈黙した。どうやら指示を待っているらしい。

 しかし、目の前で起こったことに困惑しているレイルにそんな余裕はあるはずがなかった。


「え……え!?」

「レイル君! 一体何をしたんだお!?」

「いや、まずは整理しよう、俺も混乱してるんだ!」


 予期せぬ事態を冷静に分析するため、レイルは深呼吸をした後に今の状況を簡単にまとめた。


「つまり、俺がサーボを成長させようとして生命魔法を使ったら、知識不足で案の定イレギュラーが起きて、人間の女の子みたいに変化してしまったってことだ」


 レイルが今まで生命魔法を使用するときは広範囲が多く、このように1つの生命体に全精力を込めて使ったのは初めてだった。

 もしかしたら、それがこの予期せぬイレギュラーを引き起こしたのかもしれない。


「すごいお! そんなことまでできるなんて、やっぱり元Sランクパーティは伊達じゃないお!」

「いや、でも狙ってやったわけじゃないからな……」


 レイルとウーガスはそのサーボから生まれた深緑の髪の少女を見やった。

 彼女は跪いたまま未だ微動だにしていない。まるで植物みたいだ。

 いや、本当に植物なんだけど。


「……その体制だと疲れちゃうだろうから、普通に立ち上がって良いよ?」


 こんな風に人に跪かれた経験などなかったレイルは、なんだかその少女を見てむず痒くなった。


「それは、命令?」

「え、いや、そんな偉そうなもんじゃないけど……」

「ご主人様の前に立つなど無礼、命令でないのなら、私にはできない」


 おいおい、なんだかめちゃめちゃ忠誠心を抱かれてるみたいだぞ。

 しかし、こうやっててもなんだか話しにくい、レイルはその少女に普通に立ち上がって欲しかった。


「そういうことなら、これは命令だ。立って話そうよ、なんなら俺たちが座ろうか?」

「そ、そんな、隣のその男はともかく、ご主人様を地べたに座らせるなんてできない」


 少女はレイルの言葉に焦り気味に返事をして、すぐさまスクッと立ち上がった。


「ありがとう、絶対こっちの方が話しやすいよ」

「お礼なんて、滅相もない」


 少女はやめてくれと言わんばかりに顔を真っ赤にして手をブンブンと振った。しかし、なんだか満更でもなさそうである。


「それで、いきなりだけど、君は一体何なの?」


 レイルは自分でも酷く抽象的な質問だなぁと思ったが、その少女は表情1つ変えずに答える。


「私、ここに生えていたサーボ。それをご主人様の生命魔法で私には勿体ない人間の姿にしてもらった。感謝しかない」

「やっぱり俺の生命魔法で変異したのか……」


 こう考えるとこの魔法、とんでもない潜在能力があるのかもしれない。

 もっとも、レイルは使いこなす域に至っているわけではないが。


「私はあのままではゴブリンに刈り取られて食べられる運命だった。そんな私に自由な足を与えてくれたご主人様に、生涯忠義を尽くす」

「俺、あんまりそういう重たいのは好きじゃないんだけど……」

「尽くす」

「そ、そうですか……」


 今まで人の上に立ったことがなく、交渉に関してはあくまで対等を意識してきたレイルは、正直どうすれば良いのかわからなかった。

 しかし、農場を経営するということは行く行くは人を使う立場になる。まずは1人から練習するのも悪くない。


「じゃあとりあえず、俺たちと一緒にこの荒野の探索をして欲しい。えーっと、なんて呼べば良いかな?」

「ご主人様のお好きなように」

「じゃあサーボから生まれたからサボナで」

「ご主人様から頂いた名前、一生大切にする」


 レイルは苦笑いを浮かべながら付け足す。


「あと、ご主人様って呼ばれるのはなんだかむず痒いからやめて欲しいんだけど」

「なんとお呼びすれば?」

「レイルって呼んでよ」

「わかった、レイル様」

「様は付いちゃうんだな……」


 そんな自己紹介のやりとりを終えて、サボナはレイルの仲間に加わった。


「サボナちゃん、俺はウーガスで良いお」

「わかった、よろしくレイル様の友人A」

「いや、話聞いてた?」


 一行は月明かりの中、再び荒野を歩き出した。そろそろレイルとウーガスは体力的に限界が差し迫っていたが、刺激的な出来事の連続で目は冴えていた。


「レイル様、一体どこまでがレイル様の土地?」

「どうやら、この荒野一帯が全部俺の土地らしいんだよね」

「さすがレイル様、こんな広さの土地を持っているとは」

「手に入れるのにちょっと汚い手は使っちゃったけどね」


 ふと、前方を人影が横切った。走っている足音も聞こえる。


「な、なんだお!? こんな時間にこんな荒野に人がいるのかお!?」

「いや、それを言うなら俺たちもそうなんだけどな」


 すると、サボナはその人影に向かって一直線に加速し、一瞬にして捉えた。

 およそ人間の身体能力ではありえない速さ。魔法を使っているわけでもないだろう。

 これも、生命魔法のイレギュラー要素なのだろうか。


「ご主人様の領地に勝手に侵入する不届きもの、捉えた」


 レイルたちは走ってその場に駆け寄る。

 サボナが地面に押さえつけていたのは、小さな女の子だった。

 痩せ細った二の腕、ボロボロの服。いや待て、この女の子には見覚えがあるぞ。


「離してやってくれてサボナ」

「でも、コイツは勝手に侵入を」

「いいから!」


 地面に突っ伏した幼い女の子を見るに耐えなくなり、レイルは少し強い口調でサボナに言った。

 サボナが腕を解くと、その女の子が顔を上げた。


「あれ、お兄ちゃんたち、ベージナちゃんのところにいた……」


 レイルが農家になる決心を後押ししたスラム街の少女とは、意外と早く再会を遂げた。

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