13.土地探し
レイルはウーガスとの協力を取り付け、いよいよ経営生活の幕開けだと少し高揚した。
自分が主導権を握って何かをするよりも、人の頼みやわがままを聞き入れて動くことの多かった彼は、その高揚感もさることながら緊張感も同時に味わっている。
「なら、もう動いた方がいいお。こんなことをやっている間にも安い土地がどんどんと不動産の奴らに買込まれてしまうお」
「よし、善は急げってやつだな!」
レイルはベージナの方へ向き、頭を下げた。
「少ない時間とはいえ、色々していただいてありがとうございました! 俺もベージナさんに負けないくらいの農家になって見せます!」
「まったく、お礼を言う時まで生意気なやつだ。あんたが農家になるってんなら同業者だ、容赦はしないよ!」
ベージナはニヤリと笑ってレイルに言った。
人の関係とは目まぐるしく変わるものである。見知らぬ2人が1日と経たないうちに子分になったりライバルになったりするのだから。
子分だと思ってるのはベージナだけだったが。
「じゃあ、もう館に戻って支度するお。昼までには王都に着きたいからね」
「また歩くのかよ……」
「当たり前だお! 俺だって本当は休みたかったんだお!」
レイルたち3人は館へと戻り、作業着を着替えて荷物を持って館から出た。
「ベージナさん! お世話になりました!」
「ああ! 借りはちゃんと返しなよ!」
「はい! 俺に農業を志させてくれたこの恩は一生忘れません!」
「は? 何言ってんだいそんなことじゃないよ!」
「え?」
ベージナは収穫して一部持ち帰ってきたプリプカを指差した。あの史上屈指のレベルで不味かったプリプカである。
「今日収穫したプリプカ、計93個。ダメにした分はキチッと弁償してもらうよ!」
「そ、そうでしたね……」
レイルが作ったベージナへの借りは、リアルな数字だった。
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レイルとウーガスの目の前には大きな王宮を中心とした王都が見えてきていた。
既に日はやや西に傾いており、疲れのせいか行きよりも時間がかかってしまっていた。
「はぁはぁ、やっと見えてきた……なんで定期便の馬車とかがないんだ……」
「しょうがないお、あんな郊外に定期便を出したって赤字確定だお」
やっとの事で王都にたどり着いたレイルは、ウーガスの案内で不動産屋に足を運ぶ。
レイルたちは不動産屋の建物の中に入った。
「すいませーん!安い土地が欲しいんですけどー!」
『いや、いきなり過ぎるだろ!』
レイルのツッコミと被ったのは、カウンターに座っているおじさんだった。
合わせたようにピッタリ同じタイミングでツッコんだので、2人は少し恥ずかしくなって苦笑いする。
「要件ってのはできるだけ簡潔に早く伝えた方が良いんだお!」
「いや、だからって入った瞬間に言わなくても良いだろ」
俺とウーガスはおじさんの座っているカウンターの席に腰を下ろした。
その直後、おじさんは資料を見せてくる。
「はいよ、右から最安値順だ」
「うわっ、仕事はや!」
レイルがびっくりするとウーガスがやれやれというように視線を向けた。
「だから言ったお? 店に入った瞬間に要件は言った方が良いって」
「いや、まさかこんなに早く紹介してくれるとは……というか、おじさんもツッコんだ割にちゃんとやるのかよ」
「ツッコミも仕事も手を抜かないってのが俺の信条だ」
「あんたなんで不動産屋には基本的に不要なツッコミを信条にしてるんだよ……」
レイルとウーガスは資料を覗き込んだ。
右から順に、3万e、3万2千e、ああこれ以上見ても意味ねえや、俺3700eしか持ってないもん。
不動産が高価なのは当然といえば当然である。レイルは楽観視していたことを後悔した。
こうなるんだったら、ちょっとくらいパーティの諸経費からパクって来たら良かったなぁ、そんな犯罪チックなことまで思い浮かぶ。
「うーん、これよりもっと安い土地はないかお?」
「いくらウーガスといっても、これより安いのはさすがに紹介できないよ。安い土地は国の方針でAランク以上のパーティの人に優先的に売るように言われているんだ」
その言葉を聞いて、ウーガスはニヤリと笑った。レイルは少しだけ嫌な予感がした。
「この人! レイル君はあのSランクパーティ深淵の炎竜の一員なんだお!」
「なに!? 本当か!?」
レイルは急にそんなことを言われて焦った。というか、そもそも彼は既にSランクパーティのメンバーではないわけだから当然である。
「い、いや、今はその追ほ……」
「レイル君?」
ウーガスの視線から圧力を感じる。土地が欲しけりゃ黙ってろとでも言いたげな目だ。
「そ、そうなんですよー! あははー!」
「マジかよ! こんなところでSランクパーティのメンバーに会えるなんて光栄だぜ! 握手してくれよ!」
「ど、どーもどーも!」
レイルは握手をしながら、えもいわれぬ罪悪感を感じた。
「よーしわかった! 安くて超広い土地があるんだ! 今から向かおう!」
「本当かお! ありがとうおじさん!」
「あ、ありがとうございます!」
レイルがウーガスに続いてぺこりと頭を下げると、おじさんは照れ笑いを浮かべた。
「よしてくれよ、Sランクパーティのメンバーにお礼されたなんてかなわねえや」
また罪悪感を感じたレイルに、ウーガスがゲスい顔をして耳打ちする。
「誰も今現在Sランクパーティのメンバーだなんて言ってないお、気に病む必要なんてないお」
「お前は少しくらい気に病め!」
レイルの心に罪悪感を与えたが、結果として安い土地を手に入れることに成功した。
「さて、じゃあ出発するぜ!」
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「さぁ、着いたぜ!」
館ほどではないが、王都からまた随分と離れた場所まで歩き続け、おじさんは不意に立ち止まった。
「はぁはぁ、俺たち昨日今日に限れば世界で1番歩いたんじゃない?」
「良かったじゃない、歩くことは健康に良いお」
「だからってこれは歩きすぎだろ。それはさて置き……」
レイルたちの眼前に広がっているのは荒れた荒野である。土地というにはあまりに広い。
「これは、どこからどこまでが土地ですか?」
「ん? ここら一帯、見えてるところ全部だ!」
レイルの初めての農場は、初めてにしてはあまりにも大きなものだった。




