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1.追放されてみます


「それはさすがに看過できない!」


 男は机を強く叩き、大きな声で言い放った。


 彼の名前はレイル・ティルフ、冒険者パーティ『深淵の炎竜』のメンバーだ。

 ちなみに、彼の役職は経理でクエストやダンジョン攻略の時はもっぱら後衛だったりする。


「おい! 戦闘の役に立たない経理の分際で、団長であり主戦力であるこの俺の言うことが聞けないって言うのか!」


 明らかに俺を見下しながら高圧的に怒鳴るのは、このパーティの団長であるドオグ。筋骨隆々の大きな体に堅牢な鎧を着込んでいる。


「お前がこの深淵の炎竜のメンバーに居られるのは誰のおかげだと思っているんだ!」


 ドオグはまるでレイルが自分のおかげでパーティのメンバーにいるような言い方をするが、実際そんなことはない。

 彼がこのパーティにいるのは他の仲間の強い打診があったからである。


「いや、別にドオグのおかげではない気が……」

「あ? 今なにを言おうとした?」

「いや、別に何でもないよ! だけどやっぱりドオグがクエスト報酬の6割ってのはいくらなんでも多すぎる!」


 この傍若無人な団長は、仕事中のレイルの部屋に勢いよく入ってきていきなりクエスト報酬の取り分の見直しを要求したのである。

 その内容は、自分の取り分を報酬の6割にしろというものだった。


「ふん! 俺の働きぶりを考えれば、6割なんてむしろ少ないと思うがな! この程度の要求で済むだけ感謝しろ!」

「そんな……」


 タダでさえ、既にドオグの取り分は4割を超えていた。

 武器や道具、宿代などの諸経費で3割は消える。これでも、特別なルートから買い付けたり安い宿をリサーチしたり、レイルは諸経費をできるだけ抑えていた。


 現在メンバーは10人。これ以上ドオグの取り分が多くなってしまえば、働きに合わせた適正な報酬分配はできなくなってしまう。


「やっぱりこれ以上は無理だ! 今の4割だってかなりキツいのに、6割なんてさすがに馬鹿げてる! 既に俺や料理人のマイヤの取り分は1%にも満たないんだぞ!」

「知ったことか! 経理や料理人なんぞの役立たずに俺たちが戦って得た報酬を配分してやってるだけ感謝しろ!」


 直接戦うことはない雑務だってパーティの運営にはかなり重要なものだ。

 ドオグが来ている『鉄鋼竜の鎧』だって、ドオグのわがままをレイルが聞き入れて定価の3割でなんとか手に入れたものだった。


「俺たちが戦ったって得た報酬なのに、それを後ろで見てただけのお前が分配に口を挟むな!」

「それが経理って仕事だろ……」


 レイルはメンバーの報酬分配の参考として、クエストなどについて行って戦闘を後ろから見ていたりする。

 もちろん、これもパーティを運営するための彼の仕事なのだが、ドオグにはサボっているように見えているらしい。


「そもそも、お前みたいな戦いもしないやつにパーティの運営権を握らせているのが間違いだったんだ! アイルやネイトが強く言ってきたからお前を雇ったが、いい加減我慢ならん!」


 その堅牢な鎧をガチャっと動かして、ドオグは俺を指差す。


「今日でお前はパーティを追放だ! 深淵の炎竜からすぐに出て行け!」


 レイルはため息をついた。またか、というような表情を浮かべる。

 ドオグにパーティを出て行けと言われたのはもう何回目になるだろうか。その度に他のメンバーが仲裁に入り、結局は和解する。


 ドオグに追放を宣言されるのに、レイルはもう慣れていた。


「ドオグ、ちょっとは冷静になってくれ。雑務をやる人間がいなければパーティが崩壊してしまうことはよく考えればわかるはずだ」

「うるせえ! 深淵の炎竜はこの世界に6つしかないSランクのパーティなんだぞ、お前が辞めても団員に志願するやつなんて山ほどいる!」


 この深淵の炎竜は10名という比較的に少数で構成されているが、一国の軍隊に匹敵すると言われるSランクパーティに名を連ねるほど強力なパーティだった。

 当然、ギルドでメンバーの募集なんぞかけた日には百を優に超える志願者が集まるだろう。


「確かにそうかもしれないが、雑務を専門にしている冒険者なんてそうはいない。俺だって、たまたまアイルと知り合いだったからこのパーティに入っただけで、もともと冒険者志望じゃない」


 血気盛んな冒険者にいきなり雑務を任せても、Sランクパーティの想像とのギャップに不満を募らせ、やがて辞めていく未来が見える。


「だったら、いっそ経理なんて雇わなければいいだけだ! 俺が報酬分配の権利を握ればいい!」

「そ、それだけはマジでヤバイぞ!」


 こんな傍若無人な人間がそんな権利を握ってしまったら、確実にパーティは崩壊する。

 優秀なメンバーがどんどん抜けていくだろう。


「とにかく、お前は追放だって言ってんだろ! いい加減に出て行けこの役立たず!」


 穏便に済まそうとしていたレイルだが、さすがにカチンときた。


 そもそも、なんでこんなやつの下で少ない報酬で働かなくてはならないのだろう。

 いっそのこと、抜けてやっても良いんじゃないか?


「……わかった。ドオグがそこまで言うなら、俺だってこんなパーティ抜けてやる!」


 レイルは持っていた書類を机に叩きつけ、荷物を持って部屋を出ていく。


 こうして、Sランクパーティ深淵の炎竜から、非戦闘員の1名が脱退した。




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