ナマクラ
嗚呼、どうしてこうなってしまったのだろう。私は駄目人間になってしまった相棒を見つめながら、どうしようもなく動揺してしまっていた。刃物は、切れ味が悪くなると「なまくら」と呼ばれるが、それはどうも人間も同じらしい。すくなくとも昔の、刃物のような威圧感は綺麗さっぱりなくなっている。私は彼を見て、さてどうするか考えてみることにした。原因がどうあれ、このままではギルド解散の危機である。
私と「彼」は、所謂幼なじみというやつであった。王都からほど遠い農村に生まれ、冒険者を目指し、共に「目標」へと突き動かされていった筈であるのに。「彼」は、2人で設立した冒険者ギルドの長に収まった途端、この有様である。
魔法の才に恵まれなかった私の代わりに、剣士からジョブチェンジしたときは、本当に何かあったのかと考えざるを得ない状況でもあったが。特に何も考えていないと言われて、ずっこけた覚えはある。
ジョブチェンジしたといえど、普通に剣の道は諦めていなかったようで、最終的に魔法剣士なんていう、器用貧乏になってまでも夢を追いかけていたというのに。
――目の前に居る男に、その面影はない。
私は大きくため息を吐いて、「彼」を見る。切れ味の落ちた刃物は最終的に廃棄される運命にあるだろうが、この男を棄てることは私には出来ないだろう。
まあ結局、ギルドの長は彼な訳で。冒険者としての名は王都中に轟いたわけで、ここからのんびりと堕落した生活を送ってしまったところで、誰も文句こそ言えどどうしようもできまい。
私は今月何度かすら忘れたため息をもう一度吐いて、彼の部屋を後にした。
ここから彼のスローライフが始まる、と言ってしまえば聞こえは良いのかも知れないが。
私は今日もクエストが山ほど残っている。
――二人でやる前提のものが幾つか残っているわけではあるのだが、これらはどうした方が良いのだろうか。




