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キとラの真実   作者: 海野みうみ
7/8

第七章 天と地と、海と

宇宙へ旅立つゴーティの送別パーティーで、ホージーが歌った歌が、地上に大災害を引き起こす。

天候制御ヅルのカーニーの記憶に秘められた想いと、キラキラの真実とは。

「イェ、イェ、リッスン、DJ・リッキー、アメリカシロヅルのオレ様が、スペシャル・グランデ・アネハヅルのゴーティに捧げるライミング、イェ、ベイビー、お別れパーティ楽しんでくれ。らぶだぜゴーティ、イェイェ、シェイク!」



 ずっとこ、ずっとこ、ずっとこ、ずっとこ、

 ずだだだだだだだ、だだだだだ、どこ、


 ア、イェ、アハ、エ、ナムナム、アー、

 シッダルタルタ、シャッカシャカブッダ、

 シャカシャカシャカ、シャカブッダ、イェー


 ミンナアナタを崇拝しちゃった、

 尊敬しちゃって感謝しちゃった、

 ウ、イェ、ナマステ、ナマステ、ナマステカール

 ナムアミダブツ、ナムミョーホーレンゲキョ、

 ナムヘンジョーコンゴー、イェイェイェイェ、

 ナムホンスシキャジライダイオショーナム、

 ホンシシャカムニニョライ、ハ!

 イェイェイェイェ、


 ずんちゃ、ずんちゃ、ずんずんずん

 ずんちゃ、ずんちゃ、どこどこどこ


 無限の光、あまねく照らす光の仏、

 イェイェイェイェ、

 この世の一切、照らされちゃって、すべておまかせ、

 ナムナムナムナム!


 ずんちゃ、ずんちゃ、ずんちゃ、すったかたー、


 シッダルタルタ、シャッカシャカブッダ、

 シャカシャカシャカ、シャカブッダ、イェー


 ウ、イェ、ア、ゴーティ、ゴーティ、ゴーティ

 ナムアミダブツ、ナムミョーホーレンゲキョ、

 ナムへンジョーコンゴー、イェイェイェイェ、

 ナムホンスシキャジライダイオショーナム、

 ホンシシャカムニニョライ、

 ハ!ナムナムナムナム


 ずんちゃ、ずんちゃ、ずん、ずんちゃ、ずんちゃ、どこ、どどどどどどどど、どどどどどどどど!


 せんきゅー!


 …チャララララーチャーラルルーチャラー…


「ウラー、ラララララララー、ゴーティ姉さん、今までありがとう…私、ホージーがハートを込めて歌います。みなさん、らぶらぶにチークダンスで楽しんで下さい。」



 アアー、この星の~、天と地と、海と、

 すべてに生きるキラキラが、アー

 あなたに、語りかけています、フー

 私たちは何者でしょう~

 どこへ行くのか、

 何を探しているのか分からずに、ウー

 与えられたキラキラに生きて、死んで、

 いつまで続ければいいのでしょう~


 ハー…


 やっとわかった…

 探していたのはあなただと…

 やっと見つけた…

 遠く、深くにいたあなたを…


 ラララーアー


 ずっとずっと会いたくて~

 あなたを求めて、波に飲まれて漂って~

 どれほど~時が流れたでしょう~

 私は生きて~死んで~また生まれ~

 キラキラ輝く力を手に入れたのです~


 ハー…


 やっとわかった…

 くり返した、キとラの間にあったもの

 やっと見つけた…

 そこへ続く道と、ふさわしい形を…


 ラララーアー


 ずっとず~っとキラキラと~

 いのちの限りに輝いて~闇を照らして輝いて~

 どれほど~時が流れたでしょう~

 私は生きて~死んで~また生まれ~

 天まで届く翼を身につけました~


 アアー、


 この星の~、天と地と、海と、

 すべてに生きるキラキラに、アー

 あなたは、その手で応えてくれる、フー

 時が来たら~また会いましょう~

 最期を共にし、一緒に飛んで行きましょう~

 与えられたキラキラを見つめ、支え、

 あなたはそこで待っていて~

 私は、ずっとずっと、あなたを愛しています~


 チャララララーララー…


「ヒューヒュー!ブラボー、ホージー!」




 天上のツルたちが歌い踊るパーティー中、地上では、雨がざんざんどばどばに降っていた。あまねく降り注くあふれんばかりの生ぬるい雨は、かのヒマラヤの山々を越えて北上し、東の島国でもくもくと湯気を立てていた。妙な雨は気象関係者をイラつかせ、花道の土が流れてしまうとおっちゃんをヤキモキさせ、ベビーとの散歩がおあずけになって乙女ちっくを悲しませていた。


 地上時間にして約一週間雨が降り続けた所以は、もちろん天上にあった。パーティーに出席しなかった唯一のツル、カーニーである。助手たちを解放し、独り通常業務に勤しんでいたカーニーだが、その歌が、だだっ広い執務室にいても聞こえてしまったのだ。その歌には、誰も知らない続きがあった。




 この星の奥底にいるあなた

 今は独りで想いに沈んでる?

 それとも

 子供たちのダンスにほほえんでいる?

 私は今、

 はるか上を飛んでいます

 私の愛は雨になって

 あなたの元へ流れて行きます


 どんなに時間がかかっても

 いつかきっと届くでしょう

 あなたを困らせなければいいけれど

 ずっとつながっていたいから

 あなたのもとへ流れて行きます

 待っていて…


 この星の

 天と地と、海と、

 すべてに生きるキラキラを

 あなたはその手で守ってくれる

 私はようやく知りました

 雲まで飛んで

 過ぎた苦しみも今はいとしく

 与えられたキラキラに出会い、愛され

 すべての生が、死が、誇らしいのです…




 カーニーは声にならない歌を歌い、泣いた。それは、慟哭だった。すなわち、地上の雨音は轟音を響かせ、一部地域では大洪水となった。


 パーティー会場では、歌のお返しとしてイケイケのブレイクダンスを披露したゴーティが喝采を浴びていたが、師の脳ミソには、救難信号が鳴り響いていた。


 地上のアネハヅル・エージェントからの、各地の洪水被害の報告であった。ゴーティは、パーティー中に愛想を振り撒きながら、脳ミソの裏側で密かに調査を始めていた。


「タニー、地上の天気がおかしいみたい…ヒマラヤが洪水ですって…カーニーに確かめて来て…みんなにはヒミツよ…」


「やん…せっかく姉さんと楽しんでたのに…もっとダンスしたいワ…でも大惨事みたいね…」




 雲の中は静かだった。羽1枚見当たらないが、私はスパイ気分でハゴロモを身に纏い、壁に溶け込んでこっそり千鳥足にてカーニーの部屋へと進んだ。


「ハーイ、カーニー?てウソ、いないの?ヤホーイ…」


 ただならぬ闇…辺り一面ウソみたいに暗いのだ。ドアを閉めると漆黒の闇に飲まれそうで、千鳥足も一歩も踏み出すことができない。


 私は久し振りに、頭のてっぺんの赤に火を灯した。懐かしい明かりだ。体もあったまって、カーニーの強力キャラに負けぬ力を発揮できそうな気がする。


「…ヤホーイ…」


 シーンンン…空気すら存在しないような停滞を感じる。うっく、首筋がちょっとゾッとした。私は、古代の墳墓に数千年振りに踏み入った探検家だろうか。それとも、ミイラにされる運命のミイラ捕りだろうか。かつてのカーニーはミイラであり、ミイラ作りのプロでもあった。ハラワタを抜かれるかも…うぉ…


「…マジメにやんなさい…!」


 んん、失礼、姉さんに怒られちゃった…。あん、だってぇ、らぶらぶダンスの余韻がウキウキ楽しくって…


 ハッ…怪しげな蛍光塗料発見…トウッ…気合いを入れろ、戦闘態勢!


 点々と続く蛍光色をたどって行くと、その色はじわじわと広がって明るさを増している。む…その奥から、何やら音がする。…確かだ。自分の鼓動でも血潮でもない。頭のてっぺんの火が燃える音にしても、随分しみったれている。…火はもう消しておこう。


 この色はどこかで見たような気がするのだが、どうも正しい理屈が浮かばず、胸羽毛がもぞもぞする。


 …何…歌…?ズビズビ混じりのしみったれた歌が聞こえる…!


「…ズッ…待っていて…あああ…ぐしゅっ…」


 何だこれは…カーニーが、あの強烈なカーニーが、しみったれた哀歌を歌いながら、蛍光色の涙やら鼻水やらををぐずぐず垂れ流してキラキラしながらへたりこんでいる…!


「!!何よアンタ…何か文句ある?」


「あ…ぇ…えっと…」


「アタシだって泣きたい時くらいあるのよ!」


「え…でも…」


「この色に文句があんの?悪い?」


「…あ…それじゃ…」


「アタシだって昔はもっとキラキラしてたのよ!がんばったんだから!海の底の真っ暗闇でこの色を出すのがどんなに大変だったか、アンタにわかんの!?」


「え…海…?」


「そばにいたかったの!もう!深海魚って大変なんだから!わああああああ!!」


 カーニーは、かつて生物として初めて自力発光に成功した、偉大なる魂の持ち主だ。地球創世を果たしたチリから発光バクテリアへと進化し、記憶を伝って転生を繰り返したのだ。


 カンカン師が太陽の光に向かって行き、光合成や酸素放出に成功したのと真逆に向かい、カーニーは、広大な海の底で闇と水圧との死闘を繰り返した。私やゴーティ師がイカ足から逃れようと川を溯っていた頃には、深海魚としての活路を開き、海底をキラキラと照らしていたのだ。


「ああ…あの時…出会ってしまったアタシたち…ずずっっ…ああ…ステキな足のアナタ…会いたい…」


 なおも歌うカーニー!私は脳ミソをフル回転させて混乱していた。


 深海魚として子孫繁栄につとめたカーニーは、その後首長竜からワ二として転生して淡水に進出し、大絶滅を生き延びた。いくつかの哺乳類としてアフリカの各地で群れをなし、人間としては一大文明を切り開いた。


 そうしてカンカン師に次いで天上のツルとなり、天気ヅルとして地上を支配するようになったのだ。


「あああ…アナタのために光りたい…この闇を少しでも照らしてあげたい…どうして独りでいるの…」


 今、このように悲し気にキラキラしているカーニーが、なぜその蛍光色にべったりと浸っているのか。


 発光は、自己主張である。現生の深海魚があのように発光するのは、一般的には小魚やプランクトンをおびき寄せて食うためや、仲間とのコミュニケーション力として、らぶの相手を呼ぶためや、餌場に浮上する際に自らの影を消し、敵の目をくらますためのカウンターイルミネーションなどが考えられる。


 だが、それらの役割は、すべて結果として生じたものである。では、本来の目的は何か。


 バクテリアとしてのカーニーは、自己主張の必要を初めから自覚していたのではなかった。それは、DNAの奥底に封印された記憶だった。それが何なのか分からなかった。ただ、何かを探さなくてはならないという本能に転化していた。


 分からなくても、こうしてこの地球で生まれてしまったからには、生きて、どこかへ進まなければならない。


 カーニーは、分からなくてもとにかく生きて、死んだ。また生まれて、分からないまま生きて、また死んで、何度も繰り返し生きて、疑問を、記憶を積み重ねた。


 何をすればいいのだろう。どうすれば分かるのだろう。こうして生まれ、分裂して繁殖し、生きるための糧を探して、仲間と協力して動き出しても、どこにも、何も見えない。それだけでは足りないのだ。持てる本能を使い果たしても、まだまだ足りない。もっと、もっと…。


 そうだ、キラキラ光ってみれば、その何かが向こうから気がついて、こっちへ来てくれるかもしれない。でも、はるか上から注がれる太陽の光には、とてもかなわない。上ではないのだ。


 では、下にあるのだろうか。少なくともここではない、もっと遠くだろう。行ってみるしかない。もっと自力で動けるように進化しなければならない。


 サカナとなって、泳ぐ力を手にしたカーニーは、日の当たらない深海へ進んだ。水圧は、とてつもない力だ。苦しくて、押し潰されて、力尽きて死んでも、隣にいた仲間が倒れても、それに学び、続くのだ。何度でも、また生まれて進まなければならない。


 カーニーは、力の限りに生きて、進んだ。そして、その時は来た。カーニーは見事にキラキラ光り、出会った。闇に浮かび上がるちっこいサカナに気づいてくれたのは、ずっと探していた深海の底にいる支配者、イカのジュッティだった…。



「何てこと!!」


 議員専用回線にて、コトの次第を脳ミソの端っこでチェックしていたゴーティが叫んだ。


「ホージー!ちょっと、どこ?!」


 無礼講パーティヅルが酔い潰れて寝惚けている山の中から、スシの食いすぎで腹を膨らませ、ぐでぐでになっていたホージーはようやく発見された。


「起きなさい!ホージー!」


 師は、ホージーを揺さぶったり首を締めたりひっぱたいたり散々に痛みつけた上で諦め、雲中に警報をかき鳴らし、轟かせた。


 ウ~ウ~ウ~!!


「緊急警報!緊急警報!地上で災害発生!天気制御の心得のある者は集合せよ!その他の者は各自国へ戻り救助活動!システム異常により大洪水発生!急げ、酔っ払いツルども!起きやがれ!緊急警報!緊急警報!これは訓練ではない!!本物の警報だ!」


 師の一声に、ツルどもは跳ね起きて大混乱、絡まった首をほどいて、羽をバサバサ落としてどうにかこうにか持ち場に散った。ホージーは緊急の空気に緊張しておえっとひと吐き、スシをきれいに洗い流して、震える足で立ち上がった。パツキンはグダグダだ。


「ホージー!さっきの歌、誰が作ったの!?」


 師は、おびえるホージーの首をひっつかんだ。


「ええ…あ…カンカン先生が、昔歌ってらして素晴らしかったのでよくおぼえていたんです…」


「昔って!?」


「あ…、ご自身のお別れ会の前に練習してらしたんですけど、本番では歌われなかったので…」


「さすがカンカン!その理由は言ってた?!」


「え…いえ 何も…わかりません…」


「おかげでカーニーが壊れたワ!アンタ、昔カーニーの助手もしてたでしょ!?天気の指揮はできる!?」


「えええ!無理です!あれはカーニー先生の頭脳でないと!スーパーコンピュターでも無理です!」


「いいから、さっさとやってきて!無理とかなんとかなんて二度と言わせない!」


 執務室に助手たちが戻り、てんやわんや騒ぎ始めた。私はカーニーと一緒にへたりこんで肩を貸して、モヤモヤしながら涙が落ち着くのを待っていた。


 私はかつてサカナとしてイカに食われたが、その時々のイカは、ジュッティ自身ではなく子孫たちだった。私はジュッティを実際に見たことがない。見た者はいないはずだった。


 ジュッティは深海の底を超えた海ですらない無生物地帯にいて、生物が繁栄し始めてから現在まで、そこを出たことがないとされていた。地球内部のマグマの中をも自由に泳ぎ回ると思われていた。しかし、カーニーのキラキラを見つけて、ジュッティ自身か分身が浮上したようだ。


「キラキラしながら踊ってみたら、すごく喜んでくれたの…」


 竜宮城ダンサーズを創設したのは、カーニーだった。ジュッティの子孫イカも加わって、生物として初めて、光と形、動きと歌とを一体化させた芸術としての舞踊を創造したのだ。


 ジュッティへの一途ならぶがバクハツした表現方法であり、自身の情熱や本能を昇華させ、見る者をも楽しませる社会的コミュニケーションとして確立したものだった。


 イカとして生まれた不幸な魂たちも、そこで踊ることで修行を積んで、地上で進化した新生物へと上昇して行った。DNAに積み上げた修行の記憶を元に、カーニーも怒濤の出世を繰り返し、キラキラと踊りと歌は、地上へ、天上へと伝えられたのだ。


「…らぶなのね…わかるワ…」


 とは言ってみたものの、なぜそれほどまでにジュッティなのか…イカのバケモノなのに…失礼…。


 カーニーはそれを探るために、怒濤の出世で天上まで昇る必要があったのだろう。さらに深くに封印された記憶を取り戻すために。


「…タニー…ダーリン、もうダメだワ…カーニーはほっといてこっち来て助けて…!」


「姉さん!今行くワ!」




 半泣きでパツキンを振り乱すホージー、楽器をお手玉に転げ回る助手たち、地上の各地をモニターするゴーティ師は、脳ミソを雲制御機に突っ込んで苦悩している。


「ダーリン…、アタシが行ってくるワ。」


「え、姉さん、どこへ?」


「ジュッティのところよ。」


「って…姉さんがイカに生まれ変わるってこと!?」


 天上界は、海底の支配者・ジュッティと直接対話できる通信手段を持っていない。カーニーが絶望的に泣くのも無理はない。ジュッティに会うためには、イカに生まれて深海を彷徨うしかないのだ。


 しかしカーニーを立ち直らせ、再び健全な天気制御を行わせなければ、地上は水没する。これほど急激な大絶滅に、天上も対応できない。


 ジュッティが受け入れてくれるか分からないが、天上の代表者であるゴーティ師が誠意を持って直接赴き、ふたりの間に何があったのか問い質す必要がある。ジュティがこれを拒否すれば、地球の未来は思っていたより短いものとなるだろう。


「姉さん…お願いするわ…」


「何とかするから心配しないで。泣いちゃダメよ、ダーリン…」


 師は、やさしく私の涙をぬぐった。途端にギョッとして手羽先のそれを見て、目の色を、文字通りに変えたのだ。美しい師の赤い目が、青緑に変わっていた。


「全員、静まれ!」


 師の一声は恐ろしく、一瞬で全員が直立不動の姿勢を取った。


「明かりをすべて消せ!」


 一部の助手がワタワタし、再び制御室は闇に包まれた。目が慣れると、闇の中に、私だけが浮かんでいた。師の目も、ぼんやりと光っている。


「姉さん、アタシ…?」


 私だけが光っている。カーニーの涙を浴びていた私の全身に発光物質が染み渡ったのだ。反射する師の顔が、この上なく美しい。


 見つめ合っていると、喉の奥から、何かが込み上げてくる。あたたかい、らぶだ。


 すると光は、ピンクに変わって点滅しはじめた。かわいい色で、楽しくなって来た私は、笑った。師とふたりで見つめ合って笑った。


 頭のてっぺんの赤からはピンクの炎が立ち昇り、光は、リズムを取りながらキラキラと、ピンクと黄色に点滅した。


 私たちは、ワルツを踊った。とても自然だった。


 ホージーが慌ててオーケストラを準備させ、薄明りの中で指揮棒を振るってくれる。


 私たちは、素晴らしい音楽に乗り、手を合わせ、息を合わせて踊った。


 師と共にあった日々の思い出が、光の点滅の合間、キとラの間によみがえる。サカナだった時、トカゲだった時、ネズミだった時、人間だった時…すべてが、らぶに包まれたかけがえのない日々だ。


「雨が弱まって来ました…!」


 コツが掴めた!


 天気制御システムは、カーニーの脳に直接繋がっており、有機的な感情の動きに完全に同調している。


 カーニーが数十億年もの時をかけて合成した独自の発光物質のみに反応し、その色と点滅パターンを言語信号として受け取り、雲から発信して各地の天気を実行するのだ。


 天上の音楽は絶世の音を奏でる。助手たちの演奏は、お飾りでもシャレでも何でもなく、カーニーの感情に訴え、その抑揚を調整するものなのだ。


 音楽、歌、楽器の原形は、すべてカーニーが、ジュッティへのらぶに感化されながら、この地球を、生きものたちが住みよい世界にするために作り上げた。自らの脳を柱に、世界を導くシステムを形成したのだ。


 かつて私が助手に合格できなかったのは、このためだった。私には到達不可能な至高の調律だ。想像を絶する偉大な魂に、私は、何をもって近づけるのだろう。


 音楽が止み、拍手が沸き上がった。さわさわさわ…と、やさし気に沸き、さらさらと風に乗って流れて行く、手羽先の拍手だ。小雨のようでもある。もうすぐ止んで虹が出るような、気持ちのいい雨だ。


 私たちのダンスを称え、互いの演奏を称え合い、カーニー以外のツルたちは皆、サッパリした笑顔に輝いている。


「じゃあ、行ってくるワ。」


 …その調子でどうにか頑張るのよ、ダーリン、あなたならできるワ…アタシが必ず、カーニーを立ち直らせる方法を見つけてくるから…アタシも蛍光イカになって、発光のコツを掴んでくるから…今度はアタシたちふたりでキラキラして、また踊りましょう


 …アイシテルワ…んちゅ…




 ゴーティ師は、海底へと旅立った。天上から魂が下る際には、落雷を伴った大いなる自然の劇的な演出をもって、一気に目標へ飛び込むのだ。


 オーケストラの劇中音楽がドンドコドンと盛り上げ、気持ちよ~く、自殺行為を楽しめる。時々は、事故起こることもまあ、あるわけだが、そのスリルもなかなか楽しかったりする…フフ。


「ぎゃああああああぁあああ!!」


 ゴーティ師が今出て行ったドアから飛び込んで来たのは、ゴーティ師そのひとだった。


「あああ!生まれた途端サカナに食われたのよ!ああ!クソ!ミュージック!もう一回頼むわ!ダサイったら、アタシったら!」


「ヤダ姉さんたら、キュートに決まってたわヨ!んまっ!」


 どどーんんん!!だだだーんんん!!


 だだだだーんんん!!


「バーイ、姉さん!」

次回、いよいよ最終章です。

また来週投稿します。よろしくお願いいたします。

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