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キとラの真実   作者: 海野みうみ
2/8

第二章 この男…

エピソード人間になります。

2031年、全自動理容美容整髪機器を開発した男が、ネコと出会う物語。

 夜道はもう暗くない。お仕事帰りのか弱き乙女にも、いい年こいて乙女ちっくな男にも。


 色々あって、電気はキラっと清らかでお求めやすくなったもんで、空気に有害な混ぜモノもすっかりなくなり、街灯もピッカリはっきり美しく、星たちもあるがままに天上を飾っているのがよっく分かるようになった世界である。


 夜道のキラキラを見つめる、四十かそこらの男がいる。ほっぺたをぷんぷくふくらました乙女ちっくなこの男は、るんるんと歩くのがお好きなようだ。この場合、夜道をキラキラ照らすのは街灯だけではないために特にお好きなようで、うふうふとして足取りトロく、鼻息荒く、何やらキャイキャイと感想を述べながら花道を行くのである。


 花なのである。駅前の繁華街を抜けると、延々花が咲いている。ご丁寧に手の込んだ花道にされているそこは、虹色のグラデーションを成す色とりどりな小さな花々が、線路沿いの道が続く限りに並んでいるのだ。


 すっかりハートを奪われた乙女ちっくな男は、立ち止まってもっと見たくって内股にウズウズしている。わぁ、お花たちが線路の内側までちょっと足を延ばしてるのもキュートだし…でも、人影は既に全くないものの、もう真夜中とも言える時問だし、ボクって立派な男のコだし(四十かそこらだろが)きっとちょっと気持ち悪い景色になっちゃうのではなかろうかと遠慮しているのである。さっき駅前の居酒屋の裏で上から下からの排泄に専念しているオジさんもいたし、交番も近いし、職務質問とか補導とか通報とかは避けたい男なのである。


 ところで、男は散歩に来ているワケではない。もちろん帰宅中のマトモなサラリーマンでも、カタギな公務員とかでもない。目的があり、下心もある。新規顧客獲得である。


 体とのバランスからして随分小さめな感じのたすき掛けバッグ(というかポーチ程度の女物で見た目より驚き高価な代物)から取り出したのは、昔ながらの紙に印刷されたチラシだった。この男、ポスティング店長であるワケなのだ。チラシを印刷したり配ったりする店ではなくて、駅の向こうのちょっと行ったところに新しく店を携えた美容室の店長なのである。


 乙女ちっくだから美容師になったのではなく、美容師だから乙女ちっくになったのでもない。この男はあくまでも初めからずっと首尾一貫して乙女ちっくであり、単なる美容師であるワケでもない。もちろん業務上必要なので全力で勉強もしたし、練習もして資格も取ったし、不器用ではないのである程度のことはできるものの、全自動整髪器をガチャガチャと汗水垂らして、ボクって汗クサくないかな大丈夫かなと気にしながら開発した男なのである。


 これは、人類を救うことはないかもしれない大発明と称賛される可能性が大いにあった。洗髪から整髪まですべておまかせ、解剖学的観点からあなたにピッタリの髪形をご提案します、全自動理容美容整髪機器「キラキラさんだぁ」…というものである。


 ぱぱぱ…と髪形を選択し、椅子型拷問機械に頭を突ッ込んでしばし待てば、ステキな髪が出来上がりというワケで、機械に不具合でもなければ全くの無人店舗も可能になる、画期的で意欲的な開発機械なのだ。結構自信はあるものの、まだ試作段階のため初出店でムネムネしている乙女ちっくであった。


 このチラシ持参の方、初回限定モニター価格にて半額にさせていただきます…機械がニガテという方は、シャンプーとブローがセルフで、カットやパーマ、カラーリングはスタッフがさせていただくコースもございます…こちらは初回サツイチ(千円札一枚の意)です…この機会にぜひ新技術もお試しくださいね…ということなのだ。


 ちなみに、解剖学的に乙女ちっくに似合う髪形として提案されたのは、


①リーゼントもりもり・もみ下げ大きめでワルっぽくキメ!


②富士額を生かしたツンツンパリパリトップと軽めのモヒカンバックでさっぱりと男っぽくキメ!


③柔らかいネコ毛とクセを生かしたトップはゆるパーマでフカフカキュート仕上げ・サイドはちょっと刈り込んでキメ!


 とのことで、乙女ちっくな内面までは考慮されない機械のため、大抵③を崩した感じにしている。そのあたりが今後の課題だろう。


 ふんん…これだけカワイイお花をいっつも見てるんだから、きっと皆さん、美意識が高いんじゃないカナ…うん、ご自分もカワイくしなきゃって思って、これ見てウチに来てくんないかな…


 健全な住宅地のポストをのぞき込んで楽しむ乙女ちっくは、ネガティブな暗がりに佇むアパートに引きつけられた。ふーんん…今ドキ電気の節約…こんな所には新しモノ好きの苦労人がいるかもしんない、と、乙女ちっくはぜひともポスティングをしたくなった。


 どれ、と古めかしい集合ポストに手を掛けようとしたとたん、乙女ちっくはキャッと内股に立ちすくみ、体とのバランスからして随分小さめな感じのたすき掛けバッグ(というかポーチ程度の女物で見た目より驚き高価な代物)がちょっと飛び跳ねてずり落ちた形となった。


 ポストの上にいい感じにはまっている白いネコがいるだけである。確かに白いが顔の半分くらいは黒く、しっぽは三分の一くらいは黒く、前後の足はくるぶしまで靴下を履いたように黒かった。(丹頂鶴参照、残念ながら赤はなし)大体の所白っぽいこのネコは、はれまぶたをチラッと開けて乙女ちっくを見、また目を閉じては、軽くニャーと言った。


 そりゃネコだから当然ニャーでしかないのだが、何だか意味あり気だし、フワフワ毛で全体的には大変かわいらしいものの、不気味でもあった。実際ネコとしては、よおにいちゃん、何か食いモン持ってるぅ?サカナとかさぁ…という程度の意味合いのニャーだったが、どうやら乙女ちっくが、ボクって立派な男のコだしって言いながらも、いい年こいてデカイ図体でビビッているのはネコの目にも明らかになりつつあった。招き猫と言うのを知らないでもなかったが、ポストの主のように君臨する大体の所で白っぽいこのネコにどう拝謁してよいのやら、乙女ちっくはタジタジになった。


「あう…あ、あの…、そこ…、あ、失礼します…」


 ビクビクとちゃっかり全世帯にチラシを突っ込んだ乙女ちっくは、あたふたそそくさと逃げ去った。


 わぁコワかった…ネコちゃん…カワイイけど…でもまた来よ…


 乙女ちっくはペットが欲しいと思ったことはなかった。動物とは全く縁がなかった。人間ともほぼ縁がなかったくらいなのだ。ただ一人を除いてだが。



「しおちゃーん、もう寝ちゃったのぉ?」


 逃げ帰った乙女ちっくは、共同開発者で共同経営者兼同居人が散らかしっぱなしの玄関や台所や洗面台や居間を片付け始めた。散らかした本人(本物の乙女のはずだが大変たくましい美容師)は、フカフカソファーにてうたた寝に専念している。


「しおちゃん、またパックぬったまま寝ちゃダメでしょぉ。」


 本物の乙女(これまた四十かそこらだが)の顔で乾いてひび割れた泥パックを、乙女ちっくは大変やさしくやさしく拭き取った。化粧水をたっぷりはたき、クリームでマッサージなんかも色々してあげちゃうあきれた男だった。


 その昔、乙女ちっくがあまりに乙女でいじめられていた所を、本物の乙女・シオナの力強く唸るコブシで守られて以来の縁で(この件でやり過ぎて空手道場を破門されたシオナは師範に対して男尊女卑のクソジジイと反撃、伝説となった)、今や別のフニャ男と別れたシオナが、店舗兼乙女ちっくの住居である建物の二階を占拠するに至っている。


「…るさいな…」


「何も言ってないもん、怒らないでちゃんとベッドに入ろうね。」


「…るさい…」


「ハイハイ、だっこでいいのね、もう、よいしょ…」


 ぬいぐるみのようにぐにゃぐにゃになったシオナを、人並みに睡眠中の乙女に見えるよう細部まで配慮し寝かし付けた乙女ちっくは、その配慮が見事に崩されるのをしばらく見ている。えっちらおっちら手直しをし、また見守る。自分もいい加減眠くなる。床に正座し直しても首ががっくりする頃、ようやく、朝が来ちゃう…と立ち上がる男なのである。


 

 「キラキラさんだぁ」は、ゆったりおっとり、もっさりまったりと営業を続けた。ホントに全部がせっかく全自動だというのに、シャンプーだけとかブローだけとか、ちまちましたお試ししかされなかった。古風で平和な住宅地であり、かなりに保守的であり、時代はかつてないほど好景気なので、このような地味な一角でのほほんと営業されても、世間はそこに何をも見ないものである。


 結局はシオナの腕だけで成り立っており、近所のオバサマたちが少々顧客としてまったりしに来ていただけるだけの、何てことない店として安定しつつある中、乙女ちっくはおしりフリフリに踊りたいくらい幸せだった。


 わあ…しおちゃんが、ボクの建てたお店で元気に働いてくれてる…しおちゃんが、カワイイ手でハサミシャキシャキ言わせてる…しおちゃんが、オバさんたちと楽しそうにおしゃべりしてる…すごいや…やったぁ…


 乙女ちっくは下働きの小男のように、掃除したり洗濯したり、シオナのためにおいしいゴハンを作ったりして、うふうふとエプロンをぴらぴらさせてご満悦の生活である。このままのペースだと開発費の返済に一世紀はかかるとかの事実は、あと百年しおちゃんといられるんだネ、くらいにしか思わない男であった。


 乙女ちっくは人間とほぼ縁がなかったが、特に家族と縁がなかった。父には会ったことがなく(と言うか両親同士が卵子と精子としてしか会ったことがなく)、きょうだいが存在するのかどうか知るよしもなく、母は常に働き詰めであり、初婚も再婚も再再婚も何の気配も感じられないまま早目にこの世を去っている。乙女ちっくの記憶にある家族とは、時々ぎゅっと抱き続めてくれた母のぬくもりと、おっぱいのきもちい感触だけなのであった。


 乙女ちっくは子供の頃からひとりぼっちで、シオナに構ってもらえない時は特に何もすることがなかったため、いいコに勉強していて成績も悪くなかった。幸い働き者の母の稼ぎは少なくなかったため、学費と家一軒建てられる程度の財力が残されていた。乙女ちっくはそれだけあればもう、幸せがぱんぱんで肺が破裂しそうだった。


「おいオンナオトコ、シオナの金魚のフンのバーカ、バーカ!」


 と給食のケチャップを頭いっぱいにかけられて酸っぱくなっても、理科の時間に、


「オマエのオヤジは試験管、キャ~ニンシンしちゃった~」


 と鼻に色々突っ込まれて鼻血が何時間も止まらなくなっても、大雨の時に傘を盗まれても、靴がなくなってても、何されても病気になってもお母さんが絶対迎えに来てくれなくっても、乙女ちっくはもう全然コワくなかった。


 シオナが激怒しながら力いっぱいケチャップをふいてくれたし、いじめっ子の鼻をシラミ潰しにぶっ潰してくれたし、傘も靴も盗み返して猫のフンをべったりくっつけてやったし、シオナの母が来て大きな声で先生に訴えてくれたからだ。


 今や、休みの日は寝るのが趣味というシオナを、お買い物と称して花道へ散歩に連れて行くのが、乙女ちっくの趣味になった。シオナの髪をセットさせてもらって、メイクもチェックして、カワイイ服を散々買ってやって、二人でおててつないで花道を行くのは、もう楽しくって、肺に穴が開いて空気が漏れちゃって息ができないらい幸せな乙女ちっくなのだった。



 そして、雪が降った。時は2031年、例のピカッとかちょっとキラッとする攻撃はなかった。何だとコノヤロウ、とばかりに雪は積もった。天上の雪はぷりぷりしていたが、地上は極々静かだった。美しく真っ白にされた花道は、白クマも安心してスリスリできそうな冷たさに仕上がっていた。


 全世界が舌打ちした一大機械制御危機だったが、大雪だって別にかまわんが、と思った者がここにはいた。わーい大歓迎かもしんない、と思った者もいた。


「しおちゃん!しおちゃん!雪!雪!」


「…るさい…」


「しおちゃん!雪!積もってるよ!」


「…さむい…」


「しおちゃん!雪いっぱい積もってる!」


「しおちゃん!お花のとこ、まっ白でキレイなの!ねぇ!」


「…」


「しおちゃん!雪だるまって知ってる?ねえ!お花のとこにいっぱい作ろうよ!ねえ、しおちゃん!」


「…あ…?」


「しおちゃん!お花のとこ、雪だるまいっぱい並べたらカワイイと 思わない?」


「…はいよ…」


「しおちゃん!早く!しおちゃん!手袋して!コート着て!朝までに並べなきゃ!しおちゃん!雪だるまだよ!」


「…なんだって?」


 乙女ちっくは四十かそこらの男盛りのはずだった。その精力を存分に発揮できるのは、シオナがいない休日に寂しくってたまらず一日中プールで泳いでいる時か、花道に雪だるを並べるために一晩中雪かきに没頭している時ぐらいだろう。


 幸い、雪は豊富にあった。ピカッともキラッともされず、結晶を保ったまま地上の至る所に群れを成しているのだ。乙女ちっくとシオナがキャイキャイじゃれ合う間にも遠慮なく雪はじゃんじゃん降り続け、地球は何億年かぶりにほとんどがサクサクに真っ白くなり、人々は一世代ぶりに節電に血の気を無くすこととなったのだ。


 乙女ちっくの肺は、もうホントに穴が開いちゃいそうだった。ソリを引くハスキー犬のように、体力の限界を知らずに死ぬまで突っ走るかもしれなかった。しかし夜が明け、雪はまだまだやる気満々だったが、花道の方が先に尽きていた。ミニ雪だるまが、シオナの身長分ごとに並びに並んでいる。声を枯らして互いを激写した二人は、余った雪の上にばったり倒れ込んで笑い続けた。


 あ!ネコちゃん…


 大体の所で白っぽいあのネコが、独自の空気をもって道を横切ろうとしている。あ、ちべた、う、ちべたい、クソちべたい、とでも言うように、両足をぴんぴんさせながら慎重に雪を避けている。


 神妙に目をやり、見覚えのある乙女ちっくの頭が地面にあることに気付いたネコは、何事かと調査に乗り出した。近付いて嗅ぎ回り、食べ物がないことにニャーと言い、あお向けに固まった乙女ちっく肩にちょっとスリスリマーキングし、乙女ちっくのオデコに前足を置き、あんよがちべたくてね…と肉球をあっためた。逆の足も置いてみたがいまいちらしく、眉間に毛を寄せ、線路に向かって行ってしまった。


「…しおちゃん、見た?あのネコちゃん、神様か何か?」


「…撮ったぞ…!うくっ…神様?」


 シオナは笑い転げて大の字になり、しばらくひいひいひくひく言っていた。


「でも、いいコいいコってほめてくれたんだよね?…しおちゃん?」


「オイ、そんなとこで寝たら死ぬよ、凍死って知らないのか?」


 実際、シオナは寝るところだったが、知らないおっちゃんに軽くカミナリを落とされて、わっとびっくら飛び起きた。


「それとも心中でもするつもり?」


「ア…イエ…スイマセン…」


 おっちゃんはもりもりとあったかそうな作業着を着て、耳あてがフカフカしてる帽子をかぶって、黒のゴム長をはいて、完全無欠な工事現場のおっちゃんだった。


「これ、全部二人でやったの?」


「ア…ハイ…ね…うん…」


「…ウチに来なさい。うまい魚焼けてるから、ゴハン食べな。」


 おっちゃんはそう言い残してすたすた行ってしまった。


「え…しおちゃん、どうしよう…おじさん怒ってるの?」


「今の、ほめてくれたんだよ、行こ。」


「え…え、はやっ…あ…待って、しおちゃん…」


 小柄ながら非常に足早なおっちゃんは、花道の始まりのあたりにある和風な一軒家に吸い込まれて行った。迎えてくれたのは、朗らかな奥さんだった。


「ヤダ、佐藤さんじゃない!」


「アラ、橋本さんだったの!」


 かしまし、かしまし…佐藤のおっちゃんの奥さんは、シオナの顧客だった。


 アジの開きが焼けて、納豆が混ぜ混ぜされて、みそ汁が湯気を上げている。あれも食べなさい、これも食べなさい、全部食べなさい、と、ちゃぶ台の上がおかずでぎゅうぎゅうになった。ささっと、帽子を脱いで毛が少なくなったおっちゃんもやって来て、四人で朝ゴハンなる光景だ。


「そうなの、お花がキレイだからよく散歩に来るんですよ。ね。」


「うちのお父さんが手入れしてるのよ、ふふ。」


「えー、そうだったの。すごいね、ちっく。」


 メシがうまい乙女ちっくは、食べながらしゃべれない。


「この煮物おいしい!ちっく、こんどこれ作って!」


 メシがうまい乙女ちっくは、んぐっとうなずく。


「こう見てると、お二人ともお似合いなのに、ねえ、お父さん。結婚しないんですって。」


「ヤダ佐藤さんたら、それは言わないでー。あはは…ね、ちっく。」


 メシがうまい乙女ちっくは、サカナの骨から身を残らずきれいに取りたくって苦心している。ちなみに、サンダチクマ、というのが乙女ちっくのフルネームである。


「さっきネコがいて、面白かったのよ、ね、ちっく。見て、撮ったのよ。」


「アラ、ノラちゃん?珍しいわね、ふふ、サンダさんが気に入ったみたいね。」


 おっちゃんがのぞき込んで言った。


「ここ半年ぐらい見てるヤツだ。誰か飼ってるヤツじゃないのか?」


「首輪もないわよね。」


「線路に平気で入って行くから危なっかしいんだよ。今度捕まえておいて。」


「アラお父さん、…処分するの?」


「ええ!じゃあウチで飼うわ、ね、ちっく。」


 メシがうまい乙女ちっくは、それはどうかと思ったが、やっぱりメシがウマかったので、単にうなずくだけになってしまった。


「そう、じゃあサンダ君、ちょっと手伝って。」


「もう父さん、お茶くらい飲ませてあげて。いっぱい食べてくれたんだから。せっかちでやあね。 いいのよ、ゆっくりしてね。」


 メシがうまい乙女ちっくは、実に腹いっぱいだったので、是非ともゆっくりお茶にしたかった。


「結構いい体してるみたいだから、屋根の雪下ろし頼むよ。」


「水泳やってるんですよ。学校の部活は外のプールで日焼けするからイヤでやめちゃったのに!」


「しおちゃん、はずかしいよ…あ…ごちそうさまです、すっごくおいしかったです…。」


「今度、お料理教えてもらおうね。ね、ちっく。」


 おっちゃんは、人使いが上手かった。乙女ちっくは、シオナがかしましとお茶している間に、くったくたになるまで様々な仕事を手伝わされた。それでも帰りには二人で花道を回って遠回りにお散歩できて、ぶったおれそうに幸せだった乙女ちっくである。


 しかもというか、乙女ちっくにするとギョッとしたことに、家に着くとポストの上に、例の大体の所で白っぽいあのネコが独自の空気をもって乗っかっていて、おとなしくするっとシオナに抱っこされて、めでたく三人家族になってしまったのである。


「ポストが好きなの、ん?どれ、男のコかな、どっちかな…、女のコだね!お名前はポスティにしようね、ね、ちっく。よろしくね、サンダチクマです、男のコです…ハーイ、アタシはポスティよ…」


「…うぅ…」


「ホラ、アゴの下なでるの。指一本でいいから。」


「…う…うん…」


 初対面なのにシオナのおっぱいにぴったりはまって満足げなこのネコを、乙女ちっくは猛烈にうらやましく思った。


 ポスティは、ニャーと言った。ハラへった、という意味である。


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