アリバイトリック
男はあるニュースを読み、ニヤリとした。
「これは使える・・・」
そして、スマホを手に取り、スケジュールを確認した。
「Nさんですね。警察です」
警察手帳を掲げた中年の刑事が、ドアから顔を見せたNに言った。
Nは、怪訝な顔をして刑事らを見つめる。
中年刑事の後ろにはガタイの良い若い刑事が控えていた。
「Sさんをご存知ですね」
中年刑事は続ける。
Nは頷く。
「お亡くなられたことも」
「テレビで・・・」
Nは言葉少なく答える。
廃屋で若い女性の遺体が発見されたことがニュースになっていた。
死後2~3週間腐敗がかなり進んでいたという。
「Sさんとは親密なご関係だったと伺っています。
疑っているというわけではありませんが、
6月10日以降、彼女とお会いしましたか」
Nはスマホを取りだす。
2ヶ月前のことだ。
「6月1日から6月30日まで、アメリカのLAに出張でした」
中年刑事が驚きを抑えた。
刑事の感で、Nが犯人に違いないと踏んでいた。
「その間、日本に戻っていませんか」
「戻っていません」とNは首を振る。
中年刑事は若い刑事に目配せする。
若い刑事はスマホを取りだし、Nの出国記録の調査を依頼した。
「Sさんと最後に会った、または連絡を取ったのはいつですか」
刑事は質問を続ける。
Nはスマホを見せながら答える。
「5月28日です」
中年刑事はスマホを覗き、履歴を確認し、
手帳にメモる。
中年刑事が質問を続けいていると、
若い刑事が耳打ちをした。
「お手数かけました」
中年刑事は興味を失ったように質問を打ち切った。
Nの出国記録が確認され、容疑者リストから外れたのだった。
Nは二人の刑事をドア越しに見送った。
そして、ニヤリとした。
「こんな上手くいくかな~」
藤崎は呟いた。
自称名探偵藤崎誠はパソコンをじっと見つめた。
「でも、どうやってトリックを暴くかだなあ~。
これじゃあ完全犯罪になっちゃう。
やっぱり名探偵を登場させよう」
藤崎はブツブツ独り言を言いながら、キーを打つ。
自称名探偵藤崎は小説家になりたかった。
動機をもちろん不純だ。
本がベストセラーとなり、
映画化され、そして女優と結婚。
竹内結子がタイプだ。
藤崎はパソコンを見つめる。
画面には一つの記事が。
『山梨の高校生が青色の光でハエが死ね原理を解明』
ハエは青色の光を受けるとストレスで
活性酸素が発生し、自身の細胞を破壊し死ぬそうだ。
「アリバイトリック・・・
ハエが近寄らなければ、腐敗は遅れるはず」
殺してから遺体に青色の光を当て続け、
その後、アリバイを作るためアメリカ出張へ。
出張中遠隔操作で光を止め、腐敗を進行させる、という筋書きだった。
藤崎はトリックに満足げに2度うなづいた。