極寒での遠征~観測所を発見せよ~
タイトル詐欺を連発してる?
氷の大陸。そして夜。更に吹雪。
迅はバン隊長とサリー副長と共に南極大陸に来ていた。特務隊のミッションに着いて行けという訓練内容だが、軍の実質的ジョーカー二人が駆り出される任務に、あろうことか二週間前まで学生だった男が放り込まれたのだ。
何故南極なのかというと、かつて建設された観測所から、月のデータと資材を回収するのが目的である。資材が必要なのは常時だが、主の目的であるデータというものがこれまた厄介なのだ。
観測所最期の責任者をロビンというのだが(日本人らしいので偽名だろう)、彼が江成光介と接触しており、彼から月の移住に関する重要なデータを南極に物理的にもデータ的にも凍結保存していたようだ。
何が厄介なのかと言えば、要はデータと保存されている装置の解凍である。下手に温度を上げてもすぐにショートするわ、常温でやっても水滴が装置に入って緊急プログラムが作動すればすぐに逝くわで、デリケートな装置に仕込まれているようだ。
プログラムにも問題があり、暗号解読と江成が残したメモリーキーを使わなければ、それこそ強引にこじ開けようものなら、自動デリートされるという。
というのが最近発見された江成のレポートに記されていたので、この度バン、サリー、迅は出動することとなったのだった。
「あのー副長。これは罰ゲームか何かですか」
「ハッハッハ。いや違うぞ。むしろご褒美だ。他の奴等より実戦での実績が多いお前には、現場での経験を積ませた方が、効率的だと思わないか? 」
何を言ってるのかわからない。
「要するに、お前はトレーニングが他の奴等より進んでるんだ。そのため、カリキュラムがお前だけ大幅に崩れている。お前にはいつか特務隊に着いて貰わねばならん。その為、今回の実戦をお前に肌で感じ取って欲しかった。サリー、遠回しに言っても伝わらんぞ」
「バンがストレート過ぎるんだよ。むしろ、あたしの方が迅に気を使ってると思うんだけど」
「特務隊が強制されたのは、コイツにそれだけ認められる程の力があるということだ。本人にとっては朗報だ。ストレートに言った方が早いに決まっている」
二人の言い争いが始まったので、要約しよう。
現在、地球軍にはどこの隊も人が足りてないのが現状である。特に特務隊は地上と宇宙、両方で戦える人材が必要で、とてもじゃないがそんな奴はめったにいない。
なので、迅は地上と宇宙での基礎訓練と実戦を多く積ませて、特務隊の一員として軍に登録しようと言うことだ。
しかし、迅には腑に落ちないことがあった。
「あの、俺には地球軍の人達みたいに、お国のためにっていう精神はありませんよ?むしろ地球軍に不信感あるくらいだし、実力もあんまりないし、何故俺なんです? 」
「特務隊には、そういう奴等しかいないぞ」
何を言っているのだ副長は。
「特務隊は自分達の目的が行動理由だ。それぞれが何かを悩み、感じ、実行する。それができるだけの実力とそれを認められるだけの努力をした結果、特務隊がある」
「俺達は軍や地球の民のために戦ってるんじゃない。自分達の意思で生きるために、あらゆる存在と戦っている」
バン隊長は前を向いたまま言った。
「いいか、迅。例えそれが多くを敵に回す行為だとしても、間違いであったとしても、立ち止まるな。自分がその頭と心で考えたことなら、自分にとってそれは正しい選択だ。だから、止まるなよ」
かつて、自分も同じことを言われたのだろう。そして、その意思を貫いて、悲しい思いも、辛い思いもしたのだろう。
これまでに無かった、心に重く響く言葉だった。そして、いつの間にか、観測所跡に到着していたのだった。
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