育成枠~特務隊の面子~
配属されてから一週間である。迅は、久しぶりの休暇にも関わらず、軍宿舎のベッドより動けないでいた。
親友は第一部隊を自主的に辞退し、第五部隊に配属された。理由としては、すぐ第一部隊に入っても仕事が無駄になる。だから確実にこなせるであろう第五部隊で実績を残して上に行き、第一部隊で活躍する、というものだった。
そんな親友に呆れと感謝を感じたのも束の間。迅は元不良共と装備を支給され、いきなり地上の閉鎖都市にぶん投げられた上、資材を大型トラックに入る限界まで集めてくるまで帰ってくんなという理不尽を頂戴した。
しかもかつてロシアと呼ばれたRエリア北方ゾーンである。極寒で食べ物は駄目になる、水は無いだの雪で資材は見つからんだの散々な目にあった。
しかも途中で、月の軍の兵器を撃退したときに墜落してきたのであろう無人ロボットが暴走。こちらに襲い掛かってきたのだ。何とか撃退したものの、下手をすれば死んでいただろう。
軍事行為の恐ろしさと、戦場での緊張感を肌で感じた喜びと、過去の自分をぶん殴ってやりたいと思った迅だった。
さて、翌日また恐ろしいメニューが組まれるのかと思ったがそうではなかった。
育成枠担当教官が、親睦会をすると言ったのだ。明日からまた地獄を見てもらうと言われたときは寒気がしたが。
確かに、いきなり実戦で、育成枠や特務隊のことを知らなかったので、今回の親睦会は助かる。と思った矢先に現れたのは、白い生地に黒と黄色ラインの部隊ユニフォームを着た男女だった。
彼らが特務隊。育成枠の地獄を乗りきった、迅達からすれば英雄にあたる人達だ。
そうして、一人一人の自己紹介が始まった。
「特務隊隊長、バン・アクロウスだ。この中から特務隊に所属してくれる人間がいることを期待してるぞ」
「副隊長、サリー・アストル。ルーキーは大変だろうけど、あたしたちも、許される範囲でサポートするから安心しな」
「メカニック、クラウン・メーターだよ。地上と宇宙、両方のメンテとビルドを担当してるよ。君らには自分達でメンテと開発できるようになってもらうけど、細かい部分や大がかりな部類は私がやるよ。あ、ちなみに女だから」
このメカニック、髪型の雑さや一人称聞くまでの口調から男の娘だと思ってたとは言えない。
改めて、ここを通った人間が強いのがよくわかる。他にも人がいるらしいが、何か準備をしてて、遅れるらしい。
ここで教官は口を開いた。
「あーゴホン。俺の名前を言ってなかったな。ジーク・ステルだ。育成枠教官、兼任して特務隊運営だ」
「ジーク、帽子とウィッグを取れ」
「え?うお、止めろ! 今ルーキーの前で素顔をさらすわけには」
バン隊長が教官の帽子を奪い取ると、
「え」
その場のルーキー全員が、声を漏らした。
美人。美しく、可愛らしく、かつ大人っぽく、貫禄のある、実際に多くの男女が惚れそうな人間が、この世に存在したのかと、
思ってしまった。
恋愛、という物で心が揺らぐことはなかった迅が、今初めて揺れた。が、やはり先日の鬼畜っぷりから少し遠慮が邪魔してきたが、軍にこんな人がいたのか、と動揺が隠せなかった。
「返せ! 全く……、まあいい。とにかく、君らとはそう年も離れていないが、教官を任された以上は、しっかりしごいてやる。いいな? 」
帽子を被る前と後でこんなに違う声が出るのか、と会話内容よりそっちが気になってしまったのだった。
特務隊~考えるのに時間かかるんだなこれが
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