地獄への誘いと、卒業と
あー、会話が少なくてよ
放課後、迅は呼び出された。
そもそも、軍学校は全生徒寮に強制されるので、放課後と言っても外に出ずに学校施設を利用するだけである。
サバゲーで実戦訓練をしたり、読書や歌でストレスを発散したり、あるいは部活や自身の部屋、研究所で開発したりする。
食事なども、校舎内の食堂と寮の食堂、好きな方を選べる。人によっては厨房にて、自分で作ったりする。
朝と放課後は基本的に学内規則さえ守っていれば縛りはほとんど無い。
と、そんなフリーダムな時間に呼び出された理由を理解できない迅は、頭を抱えながら職員室に足を踏み入れた。
そこで待っていたのは担任の村木蔵であった。
「おう、早いな勢川。まあ、座れや」
客室に連れてこられ、椅子に座らされた。
「あの、先生。俺なんかしましたっけ。卒業間近で問題起こしたつもりはないんですが」
「ああ、別にお前に何かあるわけじゃない。いや、無いことは無いが……、ちょっと相談を、な」
村木は困ったように頬をかく。何か深刻な問題でもあるのかと迅は警戒してしまう。
意を決したように村木は口を開いた。
「知っての通り、今年は優秀な生徒が多く、育成枠に送られるほど、酷い成績の生徒はいないんだ」
彼の言う通り、今年は一人も赤点を取らないという快挙があった年である。つまり地獄へ送られる生徒はいない、というはずなのだが。
村木の言ったことを要約するとこういうことである。
育成枠に最低四人は行かないと全員がそれぞれのチームに配属されず、無職になってしまうこと。また、優秀でこそあるが、特務隊で戦える程の実戦経験をもつ生徒がいないという問題が発生したということだ。
特務隊とは、その名の通り特殊な任務をこなす隊だ。地上と宇宙、両方で戦える人間が配属される、事実上軍の運営に最も貢献する部隊だ。
しかし、そこに配属されるためには、育成枠での修練を積まなければならない。しかも育成枠は配属後すぐに装備を支給され、実戦に放り込まれる上、ほぼ無休ということで、軍学校で望んで育成枠になる者はいない。
しかし、誰かが行かなければ誰かが卒業できないのだ。
迅は即決で受け入れた。最も、それだけが理由ではなく、自身の目的も決定の理由として含まれているが。
職員室を出るとき、村木は深く頭を下げた。申し訳ない、と。
落ちこぼれと物好きが配属される地獄、育成枠。迅は、共に第一部隊になるという親友との約束を果たせなかったことを申し訳なく思った。
そして、全生徒の配属先、進路が定まり、無事全員が卒業した。
迅の他に育成枠に入ったのはなんと、彼によって改心した元不良達である。
「俺らは一生、兄貴に着いていくぜ! 」
彼らの放った言葉に、少し感動を覚えつつ、物好きが過ぎる不良に少しの呆れをもつ迅。
こうして、軍学校とあっという間に卒業した迅達三年生だった。
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