ねえお兄ちゃん、妹は結婚しちゃダメなの?-テンプレ主人公の友人枠・二次創作-
純白のチャペル。その天辺に設けられた金色の鐘。
それが奏でる祝福の音色は、彼女たちを優しく包み込んでいる。
「――凛化。キレイやで」
「ミー兄――ううん、雅。ありがとうっ」
黒の長髪と、真っ白なレースが穏やかな風に吹かれて揺れる。
風たちも、2人の門出を祝福しているようだ。
「……行こか?」
「うんっ!」
彼女たちの片割れである、腰の高さまで伸びた長髪の美少女――ではなく男の娘は、白いタキシードに身を包み、緊張した面持ちである。
対するウェディングドレスを着た少女――凛化は、幸せいっぱいな、満面の笑みを見せていた。
ゆっくりと、チャペルの大きな木製の扉が開かれる。
開かれた扉の先からは、パイプオルガンの優雅な旋律が溢れだす。ワーグナーの結婚行進曲だ。ゆっくりとした刻むような音楽は、彼女たちに「一歩ずつ、歩いてこい」と言い聞かせているかのようだ。
一歩一歩に万感の思いを込めて、パートナーと共に2人に誓いを促す役割である牧師の元へと向かって行く。一歩を踏み出す度に、今までの思い出が溢れてくる。
兄である黎人とそのハーレムメンバーたちに振り回される日々。その中で、苦楽を共にし、一緒に嘆息し、一緒に笑った愛しい人とのかけがえのない記憶。
1つ1つをかみしめるように歩みを進めていくと、いつの間にか、牧師は目の前に立っていた。
「新郎雅、あなたはここにいる新婦凛化を、健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しいときも、妻として愛し、敬い、いつくしむことを誓いますか?」
「はい、誓います」
牧師の問いかけに、雅はいつもより凛々しく見える表情で、淀みなく答えた。
彼のこの短い言葉に、凛化の頬はほんのりと温かくなる。
次は凛化の番だ。
雅の真っ直ぐなその答えに、自分も同じく真っ直ぐに答えなくては。
「新婦凛化、あなたはここにいる新郎雅を、健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しいときも、夫として愛し、敬い、いつくしむことを誓いますか?」
「はい、誓いま――」
「その結婚、ちょっとまったぁぁぁぁああああああああああ!!!」
凛化が誓いの言葉を言い切る直前。
聞きなれた男の声が、チャペルの中に大きく響いた。
「え……黎兄?」
「黎人、なんでお前がここにおるん?」
凛化は動揺を隠せない。
突如現れ、2人の結婚式を中断させた男は、天賦黎人。
凛化の兄であり、雅の親友だ。
「みやびぃ……俺の妹に手ぇ出す輩は例え親友のお前でも許さねぇ!! 今すぐ婚約を取り消せ!」
「「な、なんだってー!?」」
凛化も雅も、驚きを隠せない。
「まさか……」
「嘘やろ……」
「黎兄が――」
「黎人が――」
まさか我らがテンプレ主人公、天下の最強英雄様が――――
「「シスコンだったなんて……!」」
「何とでも言え! 俺は何が何でも凛化の結婚なんて認めないからな!! 【神魔超越〗――«堕天神炎»!」
黎人を機械でカスタマイズされた黒を基調とした近代的な服ともいえるような装備が覆い始める。
体中を走る赤いライン。ガントレット、クリーヴ、メイルすべてに埋め込まれた赤色の宝珠が、彼の怒りを現すかのようにギラギラと輝いている。
「んな!? こんなところで【超越者〗使うん!?」
「燃えろおおおおおおおおっ!!」
「うわぁぁぁああああああ!!? 【全能力制御】 «瞬迅»!!」
黎人の纏う重火器すべてが青い炎を雅に向かって吐き出す。
青き炎に触れたものは全て灰に変わった。
対する雅は金糸雀色の文様が体に浮かび上がり、襲い来る炎を全て紙一重で躱す。
しかしぎりぎり躱せず、タキシードが少し掠り、端っこが焦げてしまう。
雅の頬から脂汗がしたたる。顔はこれでもかというくらいに引きつっていた。
「お前ここの修繕費誰が出すと思うてんのや!!」
「うるせぇ!!!」
「ふざけんな! 【全能力制御】 «防御特化»!」
黎人がバックパックから何か取り出したのを確認し、雅はとっさに文様の色を翠色に変化させる。
ここの修繕費は当然の如く、雅の実家である篠倉家が払うことになるだろう。
次の瞬間には、サブマシンガンから弾丸がバラバラと雨霰のようにまき散らされる。
雅の神託力により、彼の肌が鋼のように硬くなったとは言えども、痛覚は変わらずあるため雅の全身に強烈な痛みが走り、顔が苦痛に歪む。
「あだだだだだだだだっ!!?!」
雅の痛々しい表情を見て、凛化は叫び声を上げる。
「2人とももうやめて! 私のために争わないで!」
「そんなネタに走ってる暇あるなら助けて!?」
仕方がない。凛化の中で言ってみたいセリフトップ10に入る名言なのだから。
言わずにこのタイミングを逃すのはもったいない。
「死ねぇええええええ!!」
「黎人、おまっ、今までの恩を忘れたんか!?」
「それはそれ、これはこれだぁぁぁあああああ!!!」
「死んだら恩もクソもないやろがぁぁぁああああ!!! ていうかお前は嫁がようさんおるやろがっ! その嫁sに入ってない妹1人が他人の嫁に行くだけでそんな怒るん!?」
「「「「「「「「仰る通り!」」」」」」」」
黎人によって焼き尽くされたチャペルの入り口から、8人の女性たちの声が新たに響く。
同時に、雅と凛化の悲痛な叫びも響く。
「うわぁぁぁあああっ!!? メンドクサイのが来たああああ!!」
「ただでさえ滅茶苦茶な結婚式がもっと滅茶苦茶になっちゃう!!」
しかし、彼らの悲劇はとどまることを知らない。
むしろまだ加速していく。
「み~やびちゃあああん! 結婚なら私としなさ~い!!」
「おいコラ雅! 俺を差し置いてなに先にカワイ子ちゃんと結婚してるんだよ!?」
「「「「「「なんで女の子と結婚してるんですか!!?」」」」」」
水瓜、捲、そして|黎×雅を信仰する者たち《腐女子軍団》の登場だ。
「こんな混沌な感じになるから招待状は出さなかったのにぃぃぃいいいっ!!」
「折角だから全員呼んで滅茶苦茶にしてやろうと思ったんだよ! 感謝しろこのクソ雅!」
「黎兄ってそういうキャラだったっけ!?」
始まる大乱闘。飛び交う神託力。
ある者は雅を追いかけまわし、ある者はそれを追いかける。
ある者は凛化を襲い、ある者はそれを阻止する。
皆が叫び、皆が暴れる。
もはや純白のチャペルはただの戦場と化していた。
そして、最も恐れていたことが起きてしまう。
ビリィ……
「「「「「「「「「「「「「「「「「あ」」」」」」」」」」」」」」」」
不吉な音に、皆が一斉に振り向いた。
その視線の先には――――凛化。
正しく言えば、凛化の来ているウェディングドレス。
女性の憧れである純白のドレスは、裾から縦に真っ直ぐ裂けてしまっていた。
「え……? あ、ああっ!? う、うそ…………っ」
よく見れば、この戦場で大量の汚れをつけてしまっている。もはや、夢見た結婚式で着る神聖な衣装とは言えない姿だ。
理不尽なこの結果に、凛化の心は砕かれた。
頬を、光るものが伝う。
「黎人、歯ぁ食いしばれ」
「え、俺!?」
「問答無用っ! いっぺん死んどけやああああああああああ!!!」
「いやああああああああああああ!!!」
鬼のような形相に変わった雅は、体に浮かべる文様を赤に染め、容赦なく黎人の大事なところを蹴り上げた。攻撃力重視のステータスに変わった雅の全力の一撃に、黎人はチャペルの壁を突き破り、星になった。
明日会う時は懐かしのファールカップを着けていることだろう。
「凛化! 大丈夫か!?」
「雅……どうしよう……結婚式……ドレス……滅茶苦茶になっちゃった…………」
「凛化……」
凛化の悲痛な表情に、痛ましい姿に、雅は胸が締め付けられた。
どうすればこの愛しい少女に、いつもの元気な笑顔をさせることができるのだろうか。元凶を蹴り飛ばしただけでは、足りない。
雅は考えた。
どんな言葉を掛けるべきか。どんな接し方をするべきか。どんな声で慰めるべきか。
答えは出ない。
自分は主人公じゃないから、友人のように歯が浮くような、それでも女の子の心を癒す台詞が思いつかない。
ならば――
「凛化」
「雅……?」
雅は凛化の両肩を手でしっかりと掴む。死んでも彼女を離さないという思いを込めて。
凛化は雅の突然の行動に驚くが、雅の真剣な顔を見て、察することができた。彼が何をするのか。
長年の付き合いの賜物だろう。2人は目を合わせるだけで、互いの心が分かった。
雅はゆっくりと、凛化に顔を近づけていく。
凛化は目を閉じて、穏やかな気持ちでその瞬間を待った。
「ちゅんちゅん」
「……」
天賦凛化は、気づけば見慣れた天上を見ていた。
元気で残酷な日差しと軽やかで冷酷な小鳥のさえずりが、今日も無事に忌まわしい朝が来たことを告げている。
「…………夢オチ!? 夢オチなの!!? 夢おちぃぃぃぃいいいいいいい!!?!」
「ど、どうした凛化っ!? 敵か!?」
凛化の絶叫に、一階で朝食を摂っていた兄、黎人が駆けつけてきた。
勢いよくドアが開け放たれる。
「勝手に入ってくるなバカ兄っ! キモイッ! あっち行け!!」
「心配してきたのに理不尽!?」
今日も騒がしい日常が始まった。
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一方、日曜日だからと実家で惰眠を貪っていた篠倉雅は、常備しているチュッパチャップスがないことに気づき、近くの大型ショッピングモールへ買い物に出かけた。
そして当然の如く黎人絡みの厄介事に巻き込まれ、凛化と共に黎人の義姉妹を止めるミッションを開始した。
しかしいつもと違うことがあった。
2人の視線が妙に合わないのである。
((ヤバい……めっちゃ恥ずかしい……!))
奇しくも同じ夢を見ていた2人。
キスの手前まで展開が行っていたのだ。それは当然目を合わせるのが辛くなるはずである。
――実を言うと雅は凛化よりも長く寝ていたため、その先まで見ていたのだが。健全な男子高校生とは、かくも悲しい生き物である。例え男の娘であったとしても。
(うおぉぉぉ……親友の妹であんな夢を見るとは……僕もうダメかも…………。グゥ、早く高校で彼女作った方がいいかもしれへんな……)
(どうしようどうしようどうしよう!? し、心臓がバクバクして止まらないよ!!? てか私、ミー兄を雅って! 雅って呼んでた!! うわぁぁぁ、恥ずかしい!!)
この間、黎人と嫁候補が義妹の内の1人に出くわし乱闘騒ぎとなっていたのだが、胸の動悸や罪悪感にとらわれていた2人には、気づけるはずがなかった。
どうも、プーさんとは今後とも仲良くしていきたいと思っています。
倉里小悠です。
本家のプーさんから質問があったので、この場を借りて回答を。
Q:何故凛化をメインにしてこの作品を書いたのですか?
A:少女の夢くらい、夢の中だけでも叶えてあげたいじゃないですか。
はい、嘘です。
本当は
<テンプレ+兄貴=結婚反対>
という式が頭の中にあったので、思い切って凛化ちゃんを人柱にして黎人を暴れさせたかっただけですハイ。
では、私はこれにて。
今後2次創作書く機会があったら、また他の作品に顔を出すかも?