第四話 正義乙女と苦労人の遭遇戦 その二
クラリスの放った一撃はその場の風景を一変させた。
唐竹斬りに振り落とされた鉄線は、そのあまりに優れた切れ味によって犯人のみならず場所ごと切り開いてしまった。切り裂かれ、開け放たれた空間に入り込む風によって、砂埃を巻き上げつつ、焦げ臭い空気が徐々に薄まっていった。
五常縛り・「仁」の型・「皆切りの劔」。
真田・k・クラリスが開発した「研究技能」の一形態の一つで5分間だけ「刃」の、「切る」という動作が可能な物体の、攻撃の範囲と切れ味が増大する「学力」。
彼女の(五常縛り)は彼女自身の「課題」である「聖書」の理解と自己解釈を深め、それらの結果を踏まえ、儒教における拡充すべき徳性である〈仁・義・礼・智・信〉を使用してこの「研究技能」が生まれた。
この能力は〈仁・義・礼・智・信〉の5文字ごとに一日一回使える「学力」をもち。その威力や範囲がそれぞれの文字に対応した行動を、この「研究技能」を発現してからこれまでの人生の中でどれ程行ったかによって変わる。
今回使用した「仁」の文字の条件は〈どれだけの回数、他人の為に行動することが出来たか〉。
現在のカウント数は3620回。
10回だけで錆びた包丁が新品の包丁の切れ味にまで上昇し、対象物の長さは1回ごとに50cm延長するこの「学力」、3000回オーバーともなるとその威力はミサイル上回る。
「・・・・・・・。」
(相も変らず、スゲェ威力・・・・、しかし・・・・)
城森は相変わらずの威力を誇るクラリスの十八番に呆れつつも、いつもと違う彼女の姿に戸惑いを覚えた。
前から強い「正義」感を持っているのは知っていたが、ここまでの激情を孕んでいたとは考え付かなかった。
激情は危険だ。
理性の外れたものは敵味方関係ない全力以上の力を発揮する。それに加え、彼女の「学力」は性質的に月日が経つほどに威力が上がる。
制御不能かつ際限なく上昇する力は余りに危険だ。
彼女の危険性を知り、この先、先輩としてどうすればいいのか?
考えるのはまた後だ。
なぜなら。まだ戦闘は終わっていない。
辺りの空気から死臭は消えたのに、殺伐とした場の空気は変わらない。
威力の高い攻撃は総じて大味になりやすい為、一定以上の技量があれば避けることは容易だ。
避けた後に直ぐさま砂埃に紛れて次の出方を伺っていることからも相手の技量も納得出来る。
砂埃が明けた瞬間に、戦いはクラリスの初めて終わらした第一ラウンドから第二ラウンドに移動する。
(・・・上!下!右!左!斜め上!斜め下!前!後ろ!)
一撃を放ち、怒りの沸点は通り過ぎたが、まだまだ余熱は取れずにクラリスの中でメラメラと燃えている。
とはいえ臨界点を余裕で突破していた怒りの感情が八割にまで下がったのだ。
冷静では無いが辺りにも多少は目が行ってる。
目を向けつつも鉄線の長さを戻し、手首の収納スペースに収めていく。別にこの「学力」は五分間同じ長さのままにする能力では無い。正確に表すのなら五分間の間対象の長さや切れ味を自在に増大できるといった方が正しい。常時長さを増大させておくのは戦闘に不向きだ。ここぞの時に伸ばすのが最適なのだ
彼女は自身の天性の感覚を用いて敵の気配を探っていく。
前・・・いない。
右・・・いない。
左・・・いない。
後ろ・・・居た!!
クラリスは見つけた気配に向け、再び鉄線を伸ばす。
先ほど避けられたのを考慮してか、長さは先ほどの10分の一程だ。
しかしその切れ味は寸分たがわず最初の一撃と変わらない。喰らえば相手は一溜りも無いだろう。
伸びた鉄線は後ろへと真っ直ぐに伸び、敵を串刺そうと気配の先へ進む。
「((+_+))アブナイ、アブナイ。」
だが、橙色の揺らめきが敵を串刺そうと進む鉄線を遮った。
揺らめきは彼女の「学力」によりミサイル並に強化させた鉄線を完璧に防いでいる。いや溶かしているといった方が正しいだろう。
「(@_@)ナルホド、ナルホド。ウワサニキク「建物壊し(ビル・クラッシャー)」ノ「学力」ハキレアジシカゾウダイシナイラシイナ。」
確かに彼女の攻撃は「学力」によりミサイル並に威力が強化されるが、あくまで強化しているのはその刃物の「切れ味」だ。熱を発したり、衝撃を出したり、固くなったりする訳では無い。理論上、刃にさえ触れなければその威力の餌食にはなら無い。
「焔男」は橙色の揺らめき、いや焔にナイフの剣先を向ける。次第に揺らめきは形を変えてナイフに纏まり付き、ナイフは長剣へと姿を変えた。
防ぐのは理論上可能ではあるがクラリスが「学力」を使用している対象は鉄線だ。何処を触っても切られてしまう。
だから、彼は触れずに溶かしたのだ。自身の「研究技能」、「焔男」を使って。
(なるほど、クラリスの特注鉄線を溶かすほどの火力を放つか。これならあの現場の惨状も納得だ。)
城森の「学力」はあまり戦闘向きでは無い。捕縛の方が得意な「学力」であり、攻撃力は殆ど無い。
そんな彼の戦闘はまずは観察から入る。敵の「学力」、戦闘スタイル等の情報を集め,対策を立てることから始まる。
(炎熱系の「学力」は俺の「学力」と相性はいいから問題なし、裏路地のチンピラの犯行の可能性も会議で出てたが、あの身のこなしからしても、それは無いな。ただ問題はどういったカラクリであの焔を出しているのかだな。)
事件現場の様子から犯人の「学力」が炎熱系であることは明白であり、「学園」に登録されている炎熱系の「学者」はすぐさま事件当時のアリバイ等の調査が入念に行われた。しかし該当者は見つからなかった。調査範囲を広げて指名手配中の「学者」も調査したが結果はシロ。月一の「学園」に登録されている「学者」に対する「学力」調査は義務でありすり抜けるのは不可能に近い。つまり「焔男」の「学力」は炎熱系ではなく、焔を操れるのは「学力」の応用だと分かる。
応用であるのなら本来の使い方などをまだ隠している可能性が高い。もう少し下調べをしたいがクラリスをほっとくのもヤバい。
(・・・・・やるしかないか)
城森は深い溜息ののち、懐から一組の手袋を取り出した。
装着すると両手を合わせ、目を閉じ、イメージを脳内に写す。
「・・・いくぞ。」
城森が分析に時間を割いている間にも橙色と銀色の剣戟は止まることなく続いていた。
溶かされたといっても、クラリスには「研究技能」の能力がある為、あまり痛手にはならない。彼女の剣戟はより鋭く激しいものとなっていった。
そんな激しくなる剣戟にも「焔男」は柔軟に捌いていく。
右から左からと縦横無尽に軌道を変える鉄線の特徴を活かした剣戟をその姿からは想像できない堅実な太刀筋で焔男」は切れ味ゆえに触れない剣を触らずに熱で溶かす、又は炎剣から発せられる熱気を用いて弾いていく。
この戦い劣勢なのはクラリスであった。
「焔男」はただ防いでいたわけでは無い。
彼の防御は攻撃を兼ねているのだ。
彼女の鉄線は「焔男」にとっては溶かすことも可能な素材だが、「風紀員会」のコネを用いて作られた特注品であり、溶かすには何秒間か必要であり、一瞬、例えば剣戟時の接触する瞬間ぐらいでは殆ど溶かせない。そして溶かしても余り意味もない。
しかし熱を伝導させることは一瞬でも大きな効果を生む。
伝導した熱は蓄積していくもの。一瞬一瞬が小さくとも塵も積もれば山となると言った具合にクラリスにとっては大きな痛手になる。
現に鉄線を振るう手は伝導した熱で火傷を負い、放たれる一撃一撃にキレが無くなっていっている。いずれ致命的な隙になるのは明白であった。
(くそ!くそ!くそ!!どうすれば!)
脳筋思考な上に倒すべき「悪」を目の前にして思考が殺戮に移行している状態に焦りなんて要素が加わったクラリスの脳味噌は
焦りの理由が命を掛けた戦闘であり、生存本能や闘争本能が刺激されたのか以外にも脳は正常に動き出す。
(このままではやられるのは時間の問題!だったら・・・)
「(゜д゜)!!!」
「場を崩す!!!!」
クラリスが取った作戦は所謂、何らかの方法で場を壊し、相手に流れる勝利をこちらに戻すといった定石といったものだ。
場を乱す為の大技を放とうと。火傷で痛々しい手に走る鈍痛を無視しつつ、渾身の力を振り絞って最大延長の十分の3程度まで伸ばした鉄線で横薙ぎの一撃を放つ。
振るわれた一撃は円状に、地面すれすれに広がって、敵を追い払おうと「焔男」に伸びていく。
鉄線に勢いが付いたのを見計らい、すぐにまるで炉にくべた鉄のように真っ赤な鉄線を投げ捨てて、別の「五常縛り」の文字を使おうと、右の人差し指を出して文字を書き始める。
地面すれすれのなんでも切り裂く刃の一閃を避けるには後ろに下がるか、上に飛ぶかだ。
相手がどちらを取ってもクラリスからすれば明確な隙だ。その間に文字を書き、「五常縛り」を発動すれば勝利の風は此方に吹くと考えたのだ。
混乱した脳みそで判断したには中々理に叶った策ではある。
だが定石の策は別の言葉で表すと。
ありきたりな策とも表される。
「(*^。^*)ヨンデタヨ!」
「!!!」
「焔男」の取った策は後ろに下がるでも、上に飛ぶでも無い第三の選択肢。
“真正面から受ける”だ。
地面すれすれに迫る剣に真正面に飛び込み、そして横薙ぎの一閃に真っ直ぐな一閃をぶつけた。
既に超高温となっている鉄線の強度は常温時より下がっていて。そんな代物にしっかりと腰の入った炎剣の一撃で切ることは可能だ。
ぶつかった鉄線と炎剣のせめぎ会いは炎剣が征した。放たれた鉄線は炎剣に触れた場所から切られていく。
「焔男」は飛び込んだ勢いのそのままにクラリスに突っ込んでいく。
当初の目的が外れた彼女は、慌てながらも文字を書き上げようとする、しかしあまりに時間が足りない。
隙だらけの彼女を「焔男」はいとも容易く地面に縫い付ける。
「(●´ω`●)ハハハ、ツッカマエタ。」
「く、離せ!!この「悪」人が!!!」
「(・ω・)スンゴイキラワレテルネ。ボク。」
小馬鹿にしたような声に苛立つクラリスだが、反抗しようと試みるも体が動かない。完全に抑え込まれ、身動きが取れない。
隙だらけといっても「風紀委員」を容易く抑え込める事から相手の技術の高さが伺えてくる。
「(‘ω’)ノデハ、ジャマナ「フウキイインカイ」ニハキエテモラオウ。」
「っ!!」
「ヾ(@⌒―⌒@)ノアンシンシナヨ。スグニアイカタノヒトモオクッテアゲ・・・・ン?」
次の瞬間、その路は白い濁流が押し寄せ、飲み込んだ。
「(;゜Д゜)ナンダコリャ!!!!」
(!これは、先輩の・・・・!まずい!巻き添えになる!)
クラリスの鉄線による一撃を防ぎ、「焔男」が次の行動に移ろうとすると、突然白い濁流が二人に押し寄せた。
すぐさま焔男」は回避行動に移ったが、この「学力」を知っていたクラリスとは違い、初見の「焔男」は一拍子ほど遅れ、濁流に呑まれた。
抑え込まれていたクラリスは白い濁流に呑まれたが、不思議と白い塊は彼女を避けて動き。彼女は脱出に成功する。
そして濁流は辺り一面を覆い、「焔男」は頭だけを残して全身埋まってしまった。
((゜д゜)!ナンダコレ!?・・・・モチ?)
彼の「課題」は生物系統「発酵」。発酵菌に関することに適性が高い。発酵菌の活性化や性質変化など、発酵に関連していることならば大抵可能だ。そして自身の適正を研鑽した結果、パン生地を自在に操る「研究技能」・「一夜城」を生み出した。
発酵菌を操作・繁殖・生成し、様々なパンで出来た造形物を作る。作られるパンは耐久性は高いが「固い」わけでは無く、衝撃を吸収する方向性に調整されており防御性、捕縛性はとても高い。
(( *´艸`)クソ!ウゴケネエ)
「・・・捕獲完了と、無駄だ。お前の「学力」の能力じゃ俺の「一夜城」は敗れねえよ。」
「焔男」は脱出を試みようと、ナイフの発火装置を起動し、生地の焼却しようと炎剣を形成しようとした。
しかし。
「(;゜Д゜)バ、バカナ!!」
炎剣を形作れない。作ろうと火を灯しても小さく、直ぐに消えてしまう。
何故?「焔男」の脳裏には疑問が起きる。
「ああ、言い忘れていたが焔は出せないぜ。」
「|д゜)!」
「俺の「一夜城」は生成時に生地内部に水と空気を大量に取り込む、炎熱系の「学力」をほぼ封殺出来るのさ。」
「(;゜Д゜)!!!」
身動きを封じられ、焔も出せない。
最早これは。
「チェックメイトだ。」
であった。
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17/6/02。大幅に文章追加
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