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穴の中の福男  作者: つぼっち
9/18

告白

 俺はこれまで自分の身に降りかかってきたことをまとめてみた。

 店は顔パス、通行人程度の人に足を止めて親切にされることはないが、なんらかの接触があった人には親切を受けてしまう。そしてその親切には裏がある確率は三分の二。

 自分にだけ見えないものが見える。(幽霊、人の背中から浮き出る地図)


 こうして書き出してみると、まだまだ分からない点が多いことに気が付く。

 自分が何故親切にしてもらえるのか。自分から発せられる匂い、またはオーラが不思議と人をそうさせてしまうのか、はたまた顔が割れているのか。


 俺が最も不安なのは、俺が懸賞金でもかけられている犯罪者なのかどうかということだ。

 俺が家出をしたとんでもない金持ちの息子だという線もあるが、俺の風貌や、着ていたものからして、それはないだろう。

 俺は、身に覚えもない犯罪の為に、ムショで過ごさねばならなくなるのだろうか。


 不安が膨らみ、熊本で降りる。

 外はカラッと晴れている。

 思えば、あの日以来雨が降ってないな。

 考え事をしながら歩いているうちに熊本城にぶつかった。

 熊本城の周りを走っている人たちが何人かいる。

 その中で、稽古のようなものをしている二人組が目につき、ぐったりした。

 

 今回はこの二人に巻き込まれるのだろうと俺は観念した。

 自分から近寄って声をかけた。


「やあ君たち、何してるの?」


 迷った挙句、俺はあえてフランクにいくことにした。声をかけられた二人は、突然話しかけられて戸惑っている。

 あら? この熊本編で巻き込まれるのはこいつらじゃなかったのか?


「何してるように見える?」


 金髪の男が聞いてきた。


「ううん、舞台の稽古?」


「一応漫才の立ち稽古してる。暇なら見てってよ」


 俺は人間違いではなかったことに安心した。

 やはり今回俺が付き合うのはこいつらだ。

 見た感じ同世代だろう。まだ黒縁メガネの方は黙っているが、人がよさそうな奴らでよかった。


 彼らは熊本城をバックに漫才を披露した。俺レベルでも知っているような、年に一度の大きな漫才コンクールにエントリーしているらしく、そこでやるつもりのネタらしい。


「どうだった?」


 感想を求められ、俺は心苦しくなった。

 正直、手放しに褒められるようなネタでもなく、ゲラゲラ笑える箇所もあまり見つけられなかった。

 ただ自分のツボが違うだけなのかもしれないので、評価など荷が重い。

 そんなに自分の評価を重要視しないでくれよ、と念を押して正直に言った。


「大衆受けするようなネタではないね」


「やっぱり。どうせ俺なんてつまらない人間だよ」


 黒縁メガネが落ち込むので、悪いことをした気分になる。


「すいません、こいつ暗くって」


「そうか・・・・・・いっそのことそのネガティブキャラをネタにすれば?」

 

「ご指導お願い致します!」


「へ?」


 今回はそういう巻き込み事故なのね。


 漫才のいろはなど分かっていないが、一生懸命な二人に、俺は徐々に指導の熱が上がっていった。

 熊本城をバックにしているので、城の攻め方をどんどんボケていく。黒縁メガネは攻めきれないと弱腰になる一方、金髪が次々に突拍子もない攻め方を提案していく。最後に黒縁メガネが「それなら行ける」と判を押して、「行けるかぁ!」と金髪がツッコみをして終わる。


 ネタまで即興で作り、間の取り方や立ち位置を指導する自分のポテンシャルの高さに驚いた。


「ありがとうございました! 明日もよろしくお願い致します」


「おう、家でも自主練して来いよ」


 俺たちはまたこの熊本城の前で待ち合わせをした。

 俺は権力に物を言わせて熊本城の中で寝泊まりした。


 翌朝、俺は気づけば鼻歌を歌いながら歯を磨いていた。

 どこかであいつらと会うのを楽しみにしている自分がいる。


 最近どっと疲れることばかりだが、昨日の疲れは今日に持ち越さない疲れだ。

 またフルパワーで指導ができる喜びを、細胞が感じている。


「遅いぞ?」


 熊本城から出てきたところを見られぬよう、少し早めに城を出た。


「すいません」


 二人はすっかり敬語になっている。


 あっという間に日が暮れて、本日は撤収かと思われたが、甘いものでも食べに行きませんか? と、二人から誘いを受けた。


 二つ返事で受け、近くのケーキ屋に入った。


 バイキング形式だったので、それぞれ目当てのケーキを取りに行くが、金髪の手と足が一緒に出ている。


「おいおい、手と足が一緒に出てるぞ、珍しいな、黒縁がしそうなことをお前がやるとは」


「お、俺ならやりそう、ですよね」


 黒縁メガネのネガティブも、いつもよりぎこちない。

 おいおい、こいつらどうした?

 明らかに様子がいつもと違う。

 ケーキを取ってきたというのに、二人とも手を付けようとしない。

 ひょっとして、解散話?


 俺までケーキが喉を通らない。

 緊張に包まれた中、金髪が口を開いた。


「あ、あの、今日は言いたいことがあって、ここに来てもらったんです」


「俺のこと好き?」


 俺はガッチガチの緊張をほぐしてやろうと、ボケてみた。


「は、はい!」


 思わずずっこける。中々次の言葉を言い出せない金髪を見かねて、黒縁メガネが意を決して口を開いた。


「単刀直入に言います。俺たちと、漫才トリオを結成してくれませんか?」


 俺は卒倒しそうになった。


「気持ちは嬉しいけど、俺は夢を目指してる場合じゃないんだ。俺は俺でやらなきゃいけないことがあるから」


 すると二人は涙ぐみ始めた。


「あ、じゃあ、その大会だけ一緒に出ようかな?」


 口がすべってそう言ってしまった。

 後悔しても、もう遅い。


「じゃあ、長い付き合いになりそうだし、自己紹介でもしようか」


 言いながら、食べてもないのに口の中でショートケーキの味がした。

  

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