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穴の中の福男  作者: つぼっち
7/18

元アイドルの女

 俺は人を信じられなくなっていた。

 どれだけ人に親切にされようが、裏を読んでしまう。

 俺を親切にしたら、何があるというのか。

 以前までの記憶のない今、どんな恩恵を受けたって、俺からは何も出てこないんだぞ、と知らしめておかなければ。


 ずぶ濡れの俺を、名前も顔も知らない女子高生が、子犬を見つけたかのような反応をして、タオルで体を拭いてくれる。礼も言わぬまま、タオルを返して新幹線の改札口に向かった。始発の時間だ。

 俺は恰幅の良い男からグリーン車を譲られたが、断って自由席に座った。

 だが、発車直前になって、離席し、新幹線から降りた。


 パニック障害か?

 眩暈がした。

 地下鉄なら大丈夫かと、恐る恐る乗った。

 うん、大丈夫そうだ。

 目をつぶると、昨日の光景がよみがえってくる。

 雨の中、老婆の笑顔が、いつの間にか口裂け女に変わる。

 気分が悪くなってきた。

 俺は、降りては乗ってを繰り返していた。


 一週間後、ようやく九州に上陸した。

 またしても気分の悪くなった俺は、夜風に当たることにした。


 川沿いを歩くと、夜桜がきれいにライトアップされていた。

 カップルがちらほら歩いている。

 ベンチも大抵カップルがせ占めていたが、あるベンチに、女の子が一人、ベンチに座って静かに本を読んでいた。また変なことに巻き込まれたくないと思いつつ、なんだか俺は無性にその女の子のことが気になった。


「こんな時間に一人で本読んでるなんて、危なくない?」


 話しかけてしまった。俺は自分に負けてしまった。


「お兄さん、私が見えるの?」


 そして俺は、話しかけてしまったことを後悔した。


「見えるけど、もしかして、皆には見えないってやつ?」


「だいたいね。一部の人以外は見えないの。お兄さんなんだか疲れてるね、ここで休んでいきなよ。邪魔しないから」


「そう言ってくれて悪い気はしないけど、急いでるんだ」


 通り過ぎるカップルたちが、変な目で俺を見ていく。

 俺はひとまずベンチに座ることにした。


「急いでるんじゃないの?」


「いや、そうなんだけど、体が決断したというか、その」


 俺は小声で弁明する。


「ふふっ面白い人。福岡の人?」


「いや、違う。鹿児島の人だ」


「ふうん。どこに行く途中なの?」


「鹿児島。君はずっとここにいるの?」


「まさか。私、さっき死んだばかりだもの」


「それはそれは・・・・・・ご愁傷様」


 二人の間に気まずい空気が流れる。


「実は、俺も記憶喪失だったんだ」


 自分も重大な秘密を明かさねばならない気がして、つい言ってしまった。


「そうなんだ。私も記憶喪失だったら、死ななくてすんだかもしれないわね」


「自殺だったの?」


「うん。メンバーとうまくいかなくってさ。私、アイドルだったの」


 まじまじと見ると、確かに肩幅は狭く、色白で顔が小さく目が大きかった。


「アイドルだけ辞めれば良かったのに、何も死ぬことはないだろ」


「死んで私をいじめたことを後悔させてやりたかったの。いじめた相手が死んだら、一生忘れないでしょうし、死ぬまで十字架を背負い続けることになるでしょう?」


 彼女の粘着質な性格が垣間見れる。


「今引いたわね? ふふっいいの。だからあなたは死なずに生きてるんでしょうから」


「じゃあ、そろそろ行くわ」


「ちょっと待って」


 俺が腰を上げると、幽霊の女は引き留めてきた。


「一つ、あなたにお願いがあるんだけど」


 神様、聞かなきゃダメですか?


 

 

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