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女神の世界とクソゲーマー  作者: やのひと
9/42

9  区切り

 転移陣から出てみればそこは見慣れた1階層の割と奥の部屋だった。

 皆ここからそれぞれの階層へと転移して行くのだ。

 周りには俺と同じ探索者が大勢いるが装備から察するに駆け出しが多い。

 俺は満身創痍姿といった姿だが、ここではそういった姿も珍しくない。

 だが自分が人目を引いているのが分かる。

 これでも名の知れた探索者だ。

 それがここまで消耗して帰ってくればそうなる。

 だがうざい。

 それらを一切無視して出口へと歩き始めた。

 魔力を使いすぎて重い足を引きずるように歩き、やっとの思いで外に出ると夕日が眩しかった。


「ん? お前無事だったのか?」

「ええ、まあ、なんとか」

「なんだお前生きてたのか?」

「生憎と」

「おかしいな、ギルドで死んだって聞いたぞ?」

「へえ、ちょっと行って来るわ」

 

 かなりの数の見知った顔に声をかけられた。

 恐らく2.3ヶ月程帰って来てないと思うが死んだことになっているのは予想外だ。

 さっさと帰りたいが屋敷へ帰る前にギルドへ向かう事にしよう。

 だが正直言ってかなりめんどくさい。

 もう明日でいいんじゃないかな。

 そう思う。

 思わずため息が出た。 

 とにかく休みたいが死んだ事になっているのが気になるのでギルドに行こう。

 背中のバックパックは結晶で一杯で、普段なら平気だが疲れている今はかなり重く感じる。

 重い。

 重いがこれは金の重み。

 一体いくらになるのかとそれをかみ締めながらギルドの入り口をくぐり、ようやくトリーさん担当の窓口に到着。 

 こちらに気づいたトリーさんの目が大きく見開いた。 


「あ~~!」

 

 そしてギルドに響き渡るトリーさんの叫び声。

 当然全ての視線がトリーさんに集中するがそれを気にしない程トリーさんは怒っていた。

 窓口のテーブルに手をバンバンと叩きつけて怒っていた。

  

「90階層に挑むなら挑むでどうして言わないの! 深層に行くなら仲間を作れって何度も何度も言ったのに聞かないで! 急に来なくなってどれだけ心配したと思ってるの! 貴方の反応が消えちゃって、もう死んじゃったと思って! ジンさんは指輪が壊れただけだろって平気な顔してたけど!」

 

 息継ぎなしでこれだけ言えるのは凄い。

 だが同時に心配してくれた事が少し嬉しかったりする。

 言われて左手を見るとギルドの指輪が無くなっていた。

 何時落としたのか壊れたのか、そのせいで死んだ事になったらしい。

  

「私は月末お金無くて友達の家に夕食ごちそうになりに行ったらまたかよって嫌な顔されるし!しかたなく所長の隠してるお菓子こっそり食べてしのいでたのよ!」

「ん?」

「友達なのにもう来ないでって言われるし! お菓子はおいしかったけどお腹はあんまり膨れないし!」

「ん~?」

 

 トリーさんはそのうち友達いなくなると思う。

 

「いやいや、どんだけ人ん家に通ったんですか。俺の屋敷に来ればクシャラがなんか食わせてくれるでしょ?」

「うっ、そ、それは、何と言うか」

「何ですか。今更でしょうに。それに所長のお菓子を食べるとか」

「あれはすっごく甘くておいしいけど少ないのよ」

 

 ここの所長は俺と同じ甘党で一緒にお菓子の店に並んだ事もある。

 そんな人のお菓子を盗み食いとかトリーさんは勇気があるようだ。

 つまりどういう事かと言うと、何時の間に現れたのか所長がトリーさんの肩にポンと手を置いていた。 

  

「トリー君、ちょっと」

「え? いや違うんです所長」

「いいから」 

「い、いえ、リーシャがおいしいから食べようって」

「ア、アンタ!」

「うん、2人ともちょっと2階に来なさい」 


 所長は40過ぎの男で細身だが、かつては名の知れたの探索者だったらしい。

 そのため見た目より遥かに力がある。  

 両手ががっちりと2人の肩を掴んでいた。

   

「わ、私は関係ありません! トリーがいい加減な事言ってるだけで!」

「いいから」

「本当ですよ! 私は関係ないんです!」

「うん、いいから」


 トリーさんと隣の窓口のリーシャさんは所長に引きずられるように2階へ行ってしまった。

 そしてシンと静まり返るギルド内。

 うん、今日はもう帰ろう。

 

 ギルドを出てのんびり歩いていると日が落ちるにつれて肌寒さを感じ始めた。

 街に明かりが点く頃にようやく屋敷が見えて来る。

 やっと帰って来れた。

 閉ざされた門に合言葉を唱えるとゆっくりと内側に開く。

 門をくぐり、玄関の扉に手を掛けようとしたところで勢い良く扉が内側から開かれた。

 そこには信じられないといった顔をしたクシャラが俺をじっと見上げている。

 

「お、おう、ただいま」

 

 我が屋敷は門に反応があったら誰が来たか分かるようになっている。 

 便利なセキュリティーだ。

   

「ただいまクシャラ」


 もう一度言ったがクシャラは固まったまま動かない。

 固まっているので顔を近づけて改めてじっと見るとやっぱりクシャラはかわいい。

 しかも家事が出来てやさしくて思いやりがある。

 完璧だな。

 あんな姉じゃなくてこんな妹が欲しかった。

 

「ん~、おい、どうした? 一応お前の雇い主がお帰りなんだが」 

 

 金について言うと、ジンさんは俺達2人で稼いだ金を強力な魔道具などにつぎ込んでいる。

 これは相当な金額になっているがジンさんは必ず必要になると言っていた。

 ジンさんは普段適当な事を結構言うが、戦いに関しては絶対に妥協しない。

 そのジンさんが言うのだから本当に必要になるのだろう。

 それでも俺とジンさんの稼ぎはすでに一生遊んで暮らせるだけの物になっている。

 その中から俺はクシャラに結構な給料を払っている。

 最初はジンさんが適当にこれくらいでいいだろうと決めたが多すぎると俺が止めた。

 そして今の金額になったのだがそれでも多かったらしいが気にしない。

 俺もジンさんもクシャラが気に入ったからだ。

 だからクシャラはトリーさんより高給取りなのだ。

 ペチペチと頬を軽く叩くとクシャラはハッとなって頭を下げた。

 

「お」

「お?」

「おおお」

「おおお?」

「お帰りなさい、ヒロ様!」

「うん、ただいま。とりあえずなんかうまいもん食わせてくれ。パンと水ばっかりだったからな」


 魔法のパンはうまいのだがそればっかりでは流石に飽きた。

 クシャラは今度は勢い良く顔を上げた。

 嬉しそうな笑顔がまぶしい。

 

「お任せください。 腕によりをかけて作ります。ああ、とにかくご無事で何よりです」


 そして嬉しそうに抱きついてきたので俺はとっさに避けた。

 向かって来る物はとにかく避ける。

 これはもう反射の様な物だ。

  

「あの、どうして避けるんですか? そこはやさしく抱きしめて、心配かけたなって言うところだと思うんですよ」


 今度はむっとした顔をした。

 その豊かに変わる表情は何でも許してしまいそうになる。

 

「そうだな。だが危ないからその包丁をしまってからにしてくれ」   


 料理の途中だったのか、クシャラの手には大きな包丁が握られていたのである。

 たかが包丁と侮ることなかれ。

 ジークさんによく切れる包丁を頼んだ結果、一流の探索者でそう手にする事が出来ない程の切れ味を持つ片刃の短刀という名の包丁が出来上がった。

 もはや名前にはつっこむ気すらおきなかった。

 だがその名に偽り無い性能だったのが何か悔しかった。 

 そこにジンさんが強化魔法を刻み込んだ結果、鉄でも切れる包丁になった。

 もし店で買えば100万カナはするだろう。



「100万? 100万カナ? 包丁が? 交換してクシャラ!」

「売られるので嫌です」

 

 以前それを知ったトリーさんにクシャラが物凄い勢いで食いつかれていた。

 他にも狙ったところを自動で切れるようにサポートする機能などがついている。

 試しにやったら非力なクシャラでも強固な鎧を簡単に貫通出来たのが恐ろしい。 

 専用のまな板が必要になったのは馬鹿な話しだ。

 

「えっと、失礼しました」

「うん、気をつけてくれ。そうだ、ジンさんは?」

「えっと、ジン様は10日前に旅に出られました。なんでも聖女様を見に行くと。ヒロ様はそのうち帰ってくるから心配要らないとおっしゃってました」


 ジンさんは俺が帰ってこなくても平常運転のようだ。 

 これは言葉通り俺は大丈夫と信じていると思えば良いのか、クシャラのために適当に言っているのか分からないのがジンさんだ。

 そして気になっていた事がもう一つ。

    

「トリーさんが腹減らして来なかった?」

「トリーさんですか? 来られませんでしたよ。でもたぶんあの人は・・・」


 そこでクシャラが珍しく口ごもった。 

  

「あの人は?」

「あ、えっと、何でもないです。とにかく来ませんでした。はい」

「うん? そうか」


 俺が死んだと思って気まずかったのだろうか。

 それとも俺ではなく妹分のクシャラに食べさせてもらうのに抵抗でもあったのか。

 まあいいか。

 それにしても。 

 

「聖女、ね」


 ついに聖女と来たか。

  

「さあ、ヒロ様中へ。夕食をご用意しますので先にお風呂へどうぞ」

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

 とにかく今は休もう。

 この世界に来て2年と少し。

 気がつけば俺は18才になっていた。 




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