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女神の世界とクソゲーマー  作者: やのひと
7/42

7  窓を開けよう(強制)

 かつてテレビゲームと呼ばれる物が流行しだした時代があった。

 子供達がみな欲しがり、人気作品の発売日には学校をサボって買いに行く子供が補導される事がある程世間は熱狂していた。

 そんな時代だからこそゲームソフトを作る会社が沢山有り、とりあえず出しとけと言わんばかりに沢山のソフトが発売されていた。

 その中には今も神ゲーと呼ばれる物もあれば、伝説と呼ばれる程アレなゲームもあった。

 俺はそんなアレなゲームが好きだった。

 それこそ徹夜してやり続けるくらいに。

 気がつけばカーテンの隙間から光が差し込んでいた。

 コントローラーを握る手が少し震えている。

 一体何度やり直しただろう。

 何度コントローラーを床に叩きつけただろう。

 何時間続けてやっているだろう。

 苦労に苦労を重ねてようやくたどり着いたそこは最終ステージ。

 それは昔ながらの横スクロールタイプのアクションゲーム。

 キャラクターが大きいくせに当たり判定は見たままどころか疑惑の判定でやられる事も珍しくない。

 俺の操るキャラクターは敵をギリギリでジャンプして避けて進んで行く。

 1度やられるとそのステージの最初から、しかも武器を持っていない状態からやり直しになる。

 そうなったらクリアは不可能になる。

 断言しても良い。

 このゲームはクリアを前提に作られていない。

 慎重に慎重にと進めていくと安っぽいBGMが変化した。

 ついにボス戦に突入したのだ。

 コントローラーを握る手に力が入る。

 当時沢山のゲーム攻略本が出ていたが無い物の方が多い。

 たまたま立ち寄った古本屋の片隅にこのゲームの攻略本を見つけた時には目を疑がった。

 定価850円の上に10円のシールが張られていたのが何か悲しかったが即購入。

 そのおかげでここまで来れたわけだが、攻略本によるとこのラスボスの攻撃方法は5つからランダムで選ばれ一定時間経過でまたランダムで選ばれる。

 それらの攻撃に対する手段は2つ。

 1つは気合避け。

 全ての攻撃パターンがプレイヤーキャラを狙わずに完全なランダム攻撃のためパターンが無いのでとにかく集中して気合いで避ける方法。

 これはプレイヤースキルが物を言う。

 そしてもう1つは運避け。

 何しろ5つある攻撃方法の1つは攻略本にハッキリと『避けれません』と書かれている。

 お前ふざけんなと言いたい。

 つまりその攻撃が来ない事を祈るのだ。

 ただ運に頼る故に運避け。

 ここまで来るのにも膨大な数のやり直しを繰り返してきた。

 やられたらもう進めなくなるのはこの最終ステージだけではないのだ。

 だから裏技の無限コンティニューなど無意味、

 ラスボスと戦い続ける時間ががやけに長く感じられた。

 やられる前にやしかない。

 ボスの体力ゲージがジリジリと減り、おそらくあと1ドットくらいになった。 

 

「貰った!」


 頭を駆け巡る今までの鬼畜難易度のステージ。

 最初から殺す気で来る敵や何故そこに設置したのか分からない場所にある取れないアイテム。

 それらを跳ね除け、ついにエンディングを迎える事が出来る。

 だが、まさにその瞬間だった。

 

「おっはよ~!」

  

 能天気な声と共に部屋の扉が開かれた。

 その音にビクッと反応した指が押してはいけないボタン押してしまった。

 

「あっ」


 結果、してはいけないジャンプした俺の操るキャラは敵に当たり、間抜けな音を立てて下に落ちていく。

 そして気持ちを逆なでするBGMと共に最終ステージ最初からのスタート。


「おっ」

「お?」

「おおお!」

「おはよう?」

「おはようじゃねえ!」


 コントローラーを床に叩きつけて振り返れば見慣れた顔がある。


「もう少し! もう少しだったんだ!」

 

 もう一度やれと言われても無理だろう。

 奇跡のプレイだったのだ。

 

「またクソゲーやってたの? 本当に時間の無駄使いね」

「姉さん! アンタって人は!」


 姉である。

 平気で部屋に乱入して来てはここぞと言う時に邪魔をする。

 その姉はズカズカと部屋を横切り、カーテンを開けると窓に手をかけた。


「ねえ、窓開けようよ。クソゲー臭くてたまんないんだけど」

「えらい言い様だなオイ!」 


 姉さんはそんな俺をハッと鼻で笑うと窓を全開にした。

 とたんに冷たい風が部屋を駆け巡る。

 

「ちょっ、閉めて! 寒い!」

「あ~臭い臭い。クソゲー臭くて窒息しそうよ」

 

   


 これは夢だ。

 ほんの2年程前の何の変哲もない1日だ。

 そんな懐かしい夢は体の痛みで覚めた。

 冷たい階段で眠っていたせいで体のあちこちが痛む。

 ぬるい水を飲んで一息ついてから魔法のパンを食べながら装備の確認をする。

 特注の皮の鎧は既にボロボロ。

 武器は未だ刃こぼれ1つしていない右手用の不思議な剣。

 だが左手用の剣は半ばから折れてもう使えない。

 こんな時のために予備の剣を持って来ているがこれも少し痛み始めているので気を付けないとすぐに駄目になるだろう。

 食料はもう無いがこれは問題ない。

 俺はこの世界に来てから1度も空腹や喉の渇きを感じたことがないからだ。

 どうやら俺は何も飲み食いしなくても死ななくなったらしい。 

 2年たっても俺は身長が1センチも伸びず、鏡に映る外見は全く変わっていない。

 この世界に来たためか、この不思議な剣の力かどちらかだろう。

 だから自分は生きていると感じるために飲み食いしているに過ぎない。

 水筒を荷物にしまい、立ち上がって剣を振るうとブンではなくヒュッと風を切る鋭い音がした。

 90階層を越えるまではしなかった音だ。

 俺は戦い続けて強くなっていた。

 強い敵を倒して多くの経験値を得てレベルアップしてると言う事か。

 既に90階層を超えてから何日経っているのか分からない。

 階段を降りる俺の足音だけが木霊し他には何も音がしない。

 階段を降りていくと迷宮自体が放つ明かりが段々と暗くなっていく。

 ついに99階層に降りた時、全てが闇となった。

 試しに明かりの魔法を唱えてみるが闇に解けていった。

 発動はしたが消された。

 火種を作る発火の魔道具も同様だった。

 

「ダークゾーンかよ」


 RPGなどで良くある何も見えない嫌われもののステージ。

 しかも魔法の類が使えない。

 この階層が真っ暗なのも迷宮の明かりを保っている魔法の力さえも消しているからだ。

 これに落とし穴や無限ループ、回転床とかが加わると最悪である。

 嫌な予感にとっさに飛びのくと半透明の人型が壁から現れて手を伸ばしていた。

 所謂幽霊、ゴーストの類だ。

 無視すると今度は足元から半透明の腕が出て来たので右手の剣を突き刺すと、耳を劈く悲鳴を上げた。

 この階層の敵はただでさえ姿が見えにくい上に音を立てないゴースト系のようだ。

 普通の武器ではこいつらは斬れないため武器に魔法を掛ける必要がある。

 だがここでは魔法が使えない。

 なら初めから魔力を内包している武器で戦うしかない。

 あるいは魔法ではない異能。

 ここまでくれば俺も納得出来た。

 確かに普通は聖女がいないと無理だ。

 俺は光が一切無くても見えるが普通はどうにも成らない。

 壁も床も敵さえも見えない状態で進むなど自殺行為。

 ましてゴーストと一言に言っても強力なレイスなどは触れたら最後一瞬で干からびる。

 聖女には他にも何やら異能があるらしいので、こういった状況でも何か都合の良い奴があるのだろう。

 足元から来る何かに飛びのくとまたも床から白い腕が突き出ていた。

 それは気配というべき何とも言いようのない感覚。

 いつの間にか感じられるようになっていたこれが無いと1人で探索など出来ない。

 頭らしき所を剣で突くとまたも耳を劈く悲鳴が木霊した。

 結晶が落ちているがもう拾っていられない。

 声に反応して次々と集まってくるのが分かる。

 壁や床をすり抜けてくるため逃げるのは非常に難しい。

 実体がないためか、手ごたえの感じない敵を斬って、斬って、ただ斬って気がついたら辺りは結晶だらけになっている。

 そんな事を繰り返しながら下を目指して歩き続けた。

 俺は腹は減らないし喉も渇かないが疲れるのは変わらない。

 横になって休みたいと思うが眠ろうとすると計ったように敵がやって来る。

 これまでは少なくとも床は安全だったし警戒しながら軽く眠っても敵が寄って来る事は無かった。

 そのため3日、4日と眠る事が出来ずに戦いながら歩き続けた。

 5日目を越えた辺りでなんだか楽しくなってきた。 

 6日目には敵が壁から出てくる前に突き刺して倒せるようになってさらにテンションが上がった。

 おそらく7日目、いつものように歩いていると下への階段を見つけた。

  

 「ああ、階段か。そんなんいいから下に下りたい」


 俺はそう言って通り過ぎ、しばらくしてから気が付いて急いで戻った。

 かなりきていたらしい。

  

 



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