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女神の世界とクソゲーマー  作者: やのひと
5/42

5  一方通行

 

 飛び掛ってきた2メートルはある狼の前足をギリギリで避けながら右手の剣を水平に振りぬいて前と後ろの両方の足を綺麗に切り落とした。

 そのままグルリと体を反転して左の剣でまだ着地していない狼の首を跳ねた。

 続けて足に飛びついてきた奴を蹴り飛ばし、後ろから首を狙って口を開けてきた奴はしゃがみながら右の剣を縦に振りぬいて左右真っ二つにして、そのままの勢いで左の剣を蹴り飛ばした狼に投げつけると、剣は狼の眉間に深々と突き刺さった。

 これで終わりだ。

 投げた剣を回収して一振りし、まだ剣に問題ない事を確かめる。

 俺は右手には不思議な剣。

 左手にはジークさんの打った剣をいつも使っていた。

 投げていおいて何だが予備の剣を一本持って来てはいるが、なるべく使う事態は避けたい。

 さて、今のは一連の流れるような動きになっていたと思う。

 自惚れたりはしないが我ながら悪くはなかった。

 そして特別難しいと感じる事はない。

 ジンさんにいつも叩きのめされているので自分の力量にある程度以上の自信など持てないが、それでもこの程度なら簡単に出来るようになった。

 後に残った3つの結晶を拾って歩みを進める。

 ここは89階層。

 俺は今日も迷宮にもぐっていた。

 以前トリーさんには奥には行かないと言った気がするがそうもいかない。

 そしてジンさんに話を聞けば、ある意味予想通りの答えをもらった。

 

「ああ、90階辺りで全滅した話か。トリーさんから聞いてるぞ。いつも通り気をつけろ。以上だ。大体忘れたのか? ここの迷宮は聖女より先に踏破する必要があるだろうが」

「え? 嫌だなあ。もちろん憶えてますよ」


 嘘である。

 トリーさんと話すまですっかり忘れていた。

 俺はこの迷宮を踏破しなければならないのだ。

 

「忘れていたな? まだ時間はあるが他にもやる事があるって事を忘れるなよ」

「すみません。で、ジンさんの方はどうなんですか?」

 

 基本、俺達は別行動している。

 俺は迷宮にもぐり、ジンさんは必要な物を集めたり壊したりしている。

 

「カキハの王宮にある召喚陣はつぶした。 これであの国は悪魔召喚を出来ない」

「そうですか。これで一安心ですね」


 悪魔は実在する。

 その力は非常に強く、かつて滅ぼされた国もあった。

 隣の国カキハでそんなものを呼び出そうとしていた連中がいた。

 アホなのか自滅したいのかそれともうまく操れるとか思ったのか、だがそれはやはりアホだろう。 


「それにしても王宮ですか。進入大変だったんじゃないですか?」

 

 王宮は国王が住む場所だけに当然警備は国の中で最高だ。

 そこにこっそり入って地下にある魔法陣を消して帰ってくるとかどんな手段を使ったのか。

 やはり金の力だろうか。


「準備に時間と金がかかったが何とかなった。また次の標的を探すさ」

「面倒ですよね。ほんと。しかし、あんな肥溜めの中からうんこ探すなんて苦痛以外の何物でもないですね」

 

 俺の言葉にジンさんはそれはもう深いため息をついた。

 その気持ちは分かる。

 ジンさんがやっている事は俺だって嫌だ。

 頭が痛くなるしどこに関連があるのかはっきりしないから推理して行動するため空振りも多い。 

 

「こっちは適当にやっとくから、お前は迷宮踏破を考えろ。100階でガーディアンを倒せば終わりだ。魔法の効かないクリスタルゴーレムらしい。いくら壊しても再生する。弱点はこれだと言わんばかりにある赤い宝石だ。そいつを砕け」

「アホでも分かる弱点ですね。でも魔法無効ですか。トリーさんが言ってた女の子達がやられたって言うのはそのせいですかね? あれ? でも90階層辺りで消息を絶ったって事は100階層じゃなくて90階層のガーディアンでやられたって事ですよね?」


 魔法使いに魔法無効とか酷い話だ。

 しかしそれが100階層のガーディアンならその娘達がやられた90階層の敵はどんな奴だろう。

 やはり魔法無効だろうか。

 だがジンさんは横に首を振った。


「その辺は分からん。だがおそらくは違う。それにその娘は死んでいない」

「死んでない?」

「そうだ。多分それだろう娘の事が書かれていた。その通りならこの屋敷の主人を始め住人を皆殺しにしたのはその娘だ」

「はあ?」


 

 さて、長い階段を降り、特に何も問題なくたどり着いたここは90階層。

 すぐ目の前には向こうが見えない光の壁のようなものがあるが手で触れてみると何事の無く通り抜けた。

 警戒しながら光の壁を抜けるとそこは大きな扉。

 それに手をかけると自動的に奥へと開き、目に入るのは大きな広間。

 どう見てもボス戦です。

 迷宮にはガーディアンと呼ばれる所謂ボスがいる。

 倒せば大きな結晶が得られ、まれに強力な武具を残すこともある。

 倒しても大体1ヶ月程でまた現れる。

 だが当然良い事ばかりではない。

 同じくらいの階層の魔物より遥かに強く、特殊な力を持っている物もいる。

 広間の中央くらいに足を進めて振り返るといつの間にか扉は閉まっており、さらに青白い光の壁に包まれていた。

 どの階層でも同じでボスを倒すまで帰れない仕様になっている。

 この光の壁はどんな魔法でも武器の攻撃でも破れない。

 だが俺の不思議な剣なら斬れる。

 斬れるが、まるで水面を斬るような物なので意味が無い。

 ではそろそろ現実逃避は止めよう。

 広間の中央には鎧を纏った騎士の像がある。

 身長は方膝を着いて3メートルはあり、見上げる程大きく左手に大きな盾を持っているが右手には何も持っていない。

 よくあるパターンでは空いた手には魔法の剣が現れる。

 

「はいはい、当然動くんですね。はいはい、分かってますよ」


 俺は投げやりにつぶやいて剣を左右両手にしっかりと握り締めて構えた。

 同時にいつでも戦えるように小さく呪文を唱えて体に魔力を走らせる。

 これはあらゆる身体能力を一時的に強化する魔法だ。

 ジンさんにこの魔法を教えてもらった時、これは反則と思った。

 素手で石を握りつぶせるし、とんでもない速さで走れる。

 俺は攻撃魔法は一切使えないが回復魔法やこういった強化魔法は扱う事が出来る。

 全てジンさんに教わった。

 剣を振り回しているが俺も一応魔法使いなのだ。 

 本来なら魔法を憶えるためにはしっかりとした魔法使いの下で、自分に合った属性を探し出してもらい、そこから厳しい修行しなければならない。

 しかしジンさんは俺に使える魔法はこれだと最初から無駄なくそして厳しく教えてくれた。

 魔法の訓練はつらい事もあった。

 しかしこう言っては何だが魔法を使えるようになるというのは楽しかった。

 後で知ったが魔法属性を調べる道具もあるが恐ろしく高いらしい。

 

 呪文を唱え終わると体に魔力が行き渡り力があふれ出す。

 そして油断無く騎士の像が動きだすのを待った。

 こういった相手は不用意に近づくといきなりとんでもない速さで動くこともあって危険なのだ。

 だから相手が動き出すのをじっと待つ。

 待つ。

 待つ。

 待つ。


「おい」


 だが動かない。

 かなり待ったが動かない。

 油断はしない。

 ゆっくりと騎士の像に近づきそのまま右手の剣を振るった。

 予想ではそこで動き出して反撃がくるはずだったが、剣はあっさりと像の首を切り落とした。

  

「ん?」

 

 続けて左の剣を一線すると騎士の像は左右きれいに分かれた。

 

「あれ?」

 

 騎士の像はそのまま塵になり後には大きな赤い結晶が残された。

 通常の結晶は白いのだがそれは真っ赤で宝石のようだった。

 辺りを見回し魔力と気配を探ってみるが何もいない。

 結晶をバックパックに放り込み、ふと振り返ると光の壁が健在であった。

 通常、ガーディアンを倒せば光の壁は解除される。

 それが残っていると言うことはガーディアンが健在か別の何かの理由があるのか。

 だがガーディアンは納得出来ないが倒した。

 それは間違いない。

 今度は広間を突っ切り入って来たのと反対側に行くとそこには下へと続く階段があるのみ。

 地上へとつながる転移陣が無い。 

 

「あ~、なるほど。だから誰も帰って来れないってか」


 文字通り戻れない。

 扉の前の光の壁に試しに斬りかかってみるが結果は予想通りで斬ると同時に塞がるため意味がない、

 扉が光で覆われているならと横の壁を斬ってみるが、恐ろしく壁が分厚く剣が向こう側に届かない。

 当たり前だが剣より長い物を切ることは出来ない。

 剣より遥かに大きい物を真っ二つに出来るのはマンガやゲームだからだ。

 助けを呼びに行く事は出来ず、後から誰か来ても自分達と同じ状況になる。

 故にここに来た探索者は皆奥を目指すしかなく、そして誰も帰って来なかった。

 しかしジンさんは魔法使いの女の子が自分を買った貴族と屋敷の連中を皆殺しにしたと言った。

 トリーさんは消息を絶ってから数日後と言った。

 その辺に何かあるのかもしれない。

 仮に、まあ無いと思うがジンさんが帰ってこない俺を心配して来てくれたとしても結果は同じ。

 つまり俺も先に進むしかないのである。

 さて、生きて帰れるだろうか。

 


 

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