39 召喚の理由
「お~成功だね」
光が収まると俺の目の前には精巧な人形を思わせる少女がいた。
美しい糸のような綺麗な金髪に青い瞳。
その様は正に美少女。
「久しぶりだね。ミヤマ君」
「てらぽん先輩」
「おお・・・分かるん?」
「ええ、まあ、何と言うか」
その正体は変人の巣窟と呼ばれる電子計算研究部の副部長寺脇先輩である。
「予知夢みたいなやつを見まして、貴女に召喚されるって分かってました」
「予知夢? え? ホンマに?」
夢で見たように別人で、夢よりずっと美人さんのような気がする。
この部屋も清潔感があり天幕つきのベッドをはじめ全てが高級そうで夢ではその辺はぼんやりしていたが、いざ目で見るとああそうだったというような気がした。
てらぽん先輩は俺の言う事が本当かどうかと判断しかねているようだが面白そうに俺を見ていた。
この人は基本的に面白い事が大好きなのだ、
「はい。この後少しまでですけど」
それ以降の大事な部分は見る前に夢から覚めたので分からない。
当然だが気になる事は沢山あった。
「そうなん? それなら私が呼んだ理由も?」
てらぽん先輩は興味津々と言った感じで俺に聞いてきた。
もちろん知っている。
知ってはいるがここからが問題だ。
「魔王の幹部が攻めて来てると聞いてます。けどそれだけで俺を呼んだわけじゃないでしょ?」
以前にも言ったが俺は相手の都合を考えない奴が嫌いだ。
そして俺の知っているてらぽん先輩はそんな事をしない人だ。
「戦力が欲しいなら勇者みたいに要請すればいいわけですから」
もしてらぽん先輩から助けて欲しいと手紙でも貰えば俺は直ぐにでも会いに来た。
だがてらぽん先輩は女神の翼を使って強引に俺を呼んだ。
つまり大急ぎで俺の手を借りたい事があると言う事だ。
「うん、そうなんよ。さすがやね」
てらぽん先輩は視線を床に落として申し訳なそうな声を出しだ。
俺は夢を見てから一体何事かとずっと考えていた。
そして多分これだろうと思うことがいくつかある。
どれもろくでもないが。
「知ってると思うけど、私は聖女なんてやっとる。攻めてきてる連中と戦ってる人の怪我を治したり、攻撃魔法ぶっ放したりして戦ってるんよ。状況はあんまり良くないんやど何とか持ちこたえてる」
その辺は夢で見たとおりだ。
聖女っぽい事をしているが実はてらぽん先輩はレベル上げのマラソンをして結構楽しんでいる。
そうでもなければやってられないのだろうが結果としてかなり強くなっている。
「けどどうも最近私の周りがおかしいんよ」
てらぽん先輩が警戒するように声のトーンを落とした。
夢ではこの辺りの話が一切なかった。
てらぽん先輩の性格を考えればらしくない強引なやり方に何かおかしいと思うべきだった。
「おかしいとはどうおかしいんですか? 暗殺でもされそうになってるんですか? それとも馬鹿なストーカーにでも粘着されてるんですか?」
てらぽん先輩の肩がピクリと反応した。
どうやら当たりらしい。
てらぽん先輩は深い深いため息をついた。
「そうなんよ。私は飲み食いする時は必ず解毒魔法を使ってからにしてるんよ。井戸水とか怖いし食べ物も何が体に悪いか分からんからね」
「え?」
「えって何?」
「なんでもないです。続けてください」
「そう?」
水は魔法で浄化されてるので大丈夫だと思う。
しかし俺は食べ物に関しては全く何も考えないで口にしていた。
確かに世界が違うんだから何が毒になるか分からない。
姉さんの小説で食べ物と言えばワンパターンな要素なので気にしていなかったし、ジンさんも何も言わなかったから気にしていなかった。
だからてらぽん先輩の警戒心に意表を突かれたのである。
「この料理は何ですか? お肉ですよね?」
「私も見たことの無い物だが」
「これはハンバーグって言って俺の故郷でよく食べられてる料理さ。食べてくれ」
2人ともハンバーグを知らないらしいな。
この世界は料理に関して雑なの物が多い。
この前作ったから揚げも知らなかったし。
このハンバーグは特にソースは自信があるんだ。
「フム・・・もぐもぐ・・・む、うまいな!」
「もぐもぐ・・おいしいですキョウヤ様!」
「・・・!!!」
俺はその場面を思い出して叫びそうになったのを堪えた。
主人公は最強でイケメンで当然料理も出来るらしい。
主人公は毎日祖父に剣術と古武術を叩き込まれていて食事は隣の家の幼馴染の女の子に作ってもらっていたという設定だったはずだ。
それなのになんで料理出来るんですかね?
まあ、後付設定が増えていくのはお約束だ。
だが「もぐもぐ」って何だ!
食べていると言いたいんだろうが他に書き様があるだろ!
酷すぎるだろ!
ギャグ要素としてわざと書いているんなら良いがそうじゃないから酷いんだよ!
何とかそれを顔に出さずに出来たようで、てらぽん先輩はそんな俺に気付かずに話し始めた。
「ここ最近、たまに水や食事に妙なもん混じるようになってね。魔法の反応から見るに毒ではないんやけど眠り薬とかしびれ薬とかの類や。きっちり調べるように言うとるんやけど、結局誰がやってるんかハッキリせえへん。こいつや言う人が処罰されてもまた起こったんや。確かにここは教会やからかなりの人間が出入りする。けど私は聖女っちゅう特別な存在や。だからそんなまねするなんて簡単や無い」
苦虫を噛み潰したような顔でてらぽん先輩は話を続ける。
「しかも魔法が効き難い奴もあってな。考えたく無いんやけど、金のアニマのルーの手先が紛れこんどるんやろうな。私は接近戦なんかからきしや。そんな状況やからあんまりここの人間も信用出来ん。護衛なんてつけられてもそいつが敵かもしれんからね」
つまりてらぽん先輩は信用が出来て強い人間にそばにいて欲しい。
これが俺を召喚した理由か。
「ごめんな。勝手な事言うてるのは分かるけど助けて欲しいんよ」
てらぽん先輩は俺に向かって深く頭を下げた。
「なるほど、分かりました。任せてください」
実は俺としてはこの展開は予想していた。
そして当然だが困ってるてらぽん先輩を見捨てるなど出来ない。
だから引き受ける。
これはいい。
「ほんま? ありがとう!」
てらぽん先輩はうれしそうに笑顔を浮かべた。
その笑顔見れば大抵の事は許せると思う。
「犯人見つけたら斬り捨てます」
「え? う~ん・・・ま、まあええわ」
夢では金のアニマのルー。
面倒だからルーでいいか。
ルーは街中に探索者としているところをシオンが見たと言っていた。
探索者のふりをして街に潜り込んでいるらしい。
それならてらぽん先輩の食べ物に薬を入れたのはやはりルーなのか。
しかし死ぬような毒ではないと言う話だ。
なら違うのだろうか。
しかしこの世界の人間が聖女に危害を加えるなんてありえない。
普通は。
だが世の中には想像も出来ないような馬鹿が存在する。
「てらぽん先輩、ちょっと聞きたいことがあるんですが」
「何? 何でも聞いて」
「うん、いや、そのですね」
何と言えば良いだろうか。
非常に言いにくいので少し考えるがもう直球でいいかと思う。
「てらぽん先輩、貴女の周りにイケモン共が引っ付いてませんか? こう、貴女が好きだって」
「へ?」
てらぽん先輩は間抜けな声を出した。
「いや実はですね。グラスにも聖女がいるんですが、そいつはイケメン共に囲まれてそいつらの好意に気付かない振りして楽しんでたんですよ」
「え? は?」
てらぽん先輩は混乱している。
「そいつは日本の女子大生なんですが、初めて会った時、何と言うか妙に相手に好意を感じまして。言う事を信じたり同情してしまったり、何となく好きだと。俺は結構警戒してたのにです」
俺もジンさんに言われるまでその不自然さに気付く事が出来なかった。
アレだけ警戒していたのにだ。
間違いなく魔法ではないが何らかの能力だ。
「魅了系のスキルか何か持ってるって事?」
「そうですね。可能性はあります」
「えっと、その聖女はハーレム状態?」
「はい、少し前まで何人か引っ付いてたらしいです。筆頭はグラスも第一王子です。次に宰相の息子。あの国はもう駄目かもしれません。他にも年下の自分を慕って懐いてくる少年を犬みたいでワンコとか呼んでました・・・気持ち悪!」
「うわぁ・・・気持ち悪! 何やそれ?」
てらぽん先輩は引いていた。
俺も自分で言っておきながら気持ち悪い。
何だワンコって馬鹿じゃねえの。
「その聖女は赤井さんの姉さんなんですよ」
「マジか? あの君が辞めさした赤井君か?」
「いや、俺が辞めさしたわけでは無いと思いますが・・・」
あれは自主退部であり強制ではない、はず。
「まあ、それはいいです。実はですね」
俺はセイナが女神の盾を失ってからの事を全て話した。
セイナを監禁した俺様王子や城を襲撃したドラゴンの事。
俺達を体良く使って魔王と戦わせようとした事。
いざ並べてみると酷い物だった.
「は? 王子が聖女を襲った?」
「アホですよね。聖女のピンチを感じたドラゴンに踏まれて下半身潰れたみたいです。おまけに王位継承権剥奪されたらしいですよ。どこにだって後先考えない馬鹿がいるんです」
「なるほど。だから私の周りに頭のおかしいイケメンがいないかと」
「はい」
それはてらぽん先輩を動けなくしてあんな事とかこんな事とか考えている馬鹿がいる可能性。
魔王の配下とかではなく味方のはずの人間が足を引っ張るパターン。
姉さんの小説にもそのパターンはあり、大抵ヒロインがピンチになって主人公がギリギリで助けだし「ありがとう! 素敵!」となる。
ただし主人公が女の場合はピンチになるのが主人公ならギリギリでイケメンが助けに来るが、それが主人公ではない女の子の場合はまず助けは来ない。
そして後になってその話を聞いた主人公が「酷い・・・!」とか言って終わる。
当然その子は死ぬ。
しかし現実になるとセイナは助けが間に合わなかったらしいので、てらぽん先輩が同じような状況になった時、都合よく助けは入らないと考えた方が良い。
もちろんセイナが主人公、あるいはヒロインではなかったからという可能性もあるが、どこまでそんな設定が生かされているのかは分からないので常に最悪を考えて行動するべきだろう。
「そうやね・・・残念ながら私の周りにはイケメンはおらんな」
「あれ? そうなんですか?」
予想外だ。
絶対いると思っていた。
しかしてらぽん先輩は顔を曇らせた。
「イケメンはおらんけど、私を嘗め回すように見てくる奴はおる」
「あっ、ちょっと待ってください」
俺は誰かが近づいてくる気配を感じててらぽん先輩を止めた。
大体の想像は出来ているが良く考えたらその人が味方とは分からないからだ。
そして間もなく誰かがドアをノックした。
「聖女様。アイリーンです」
少し硬い感じの女性の声。
やはりアイリーンさんだ。
とたんにてらぽん先輩の姿勢が良くなり、緩んでいた顔が引き締まった。
「入りなさい」
気だるそうな様子は消えてなくなり、その様は正に聖女。
本当に誰だこれは。
後は夢と殆ど同じだった。
しかし最後に夢ではてらぽん先輩は外壁へと向かい、俺は武器屋へと向かったがそれを聞いていたてらぽん先輩はあえてそれに逆らった。
「私をエロ目線で見てくる奴って言うのがさっき準備出来たって伝言よこしたザダムって言うてこの街を治める領主で50過ぎのおっさんや。君の話を纏めるとあのおっさんが怪しい事になるね。私に会いに本人や使いがここに出入りするし一緒に食事どうとか言われるし。そこまで馬鹿や無いと思うけど違うって言い切る自信ないわ」
「はあ、領主ですか」
女の子をエロ目線で見る領主と言われるとろくな事が思い浮かばない。
セカイエの街で借金のかたに言う事を聞かされた女の子の事もあるし、警戒するべきだろう。
「準備って言うのは?」
「うん、大魔法の事や。あ~ようするにマップ魔法や。結構前からとりかかっとったんやけどようやく準備完了したんやろ」
「なるほど」
俺が好きなゲームの1つSRPG、つまりシュミレーションロールプレイングゲームでは基本1対1で敵と戦い、最終的にステージマップ上の全ての敵を倒すか拠点を制圧すればステージクリアとなる。
そこで登場するのがマップ魔法と呼ばれる物だ。
これはその名の通り特定の敵ではなくステージマップの広範囲、場合によってはステージマップ全てを攻撃する。
所謂戦略攻撃。
例えるなら進撃中の敵軍に絨毯爆撃すると思えば良い。
敵の攻撃範囲外から一方的に大火力を叩き込んで壊滅されると言うわけだ。
この世界でそんな魔法は聞いたことが無いから特別に用意したんだろう。
「そっちはええんよ。どうせ夜まで出番無いし。私はそれより君の話が聞きたい」
「俺のですか?」
「そう、君の予知夢の通りにやるのは気に食わんし、何よりまだ君の事を殆ど聞いて無いからね。こっちの世界に来た後今までどうやってきたん?」、
そう言えば予知夢の事は話したけど俺の話はあんまり話さなかった。
「長くなりますよ?」
「かまへん。日が暮れるまで時間はあるからね」
なら話すとしよう。
この世界に来てもうすぐ3年になるのか。
そう思いながら俺はゆっくりと話し始めた。
「では・・・この世界で大先輩に会った事からですね」




