33 剣の店
俺が今までの事をかいつまんで話すと、てらぽん先輩は驚いたり笑ったりしながら楽しそうに聞いていた。
姉さんの小説については話そうか迷ったが、長い話になるので落ち着いてから話す事にした。
俺達が居たのは大きな教会だが、そこを出てからずっと周りからの視線が物凄く痛い。
聖女様と一緒に居る男は何だと言わんばかりだが、声を掛けてくる奴は居ない。
てらぽん先輩はそれらを完全に無視どころか何も感じてもいない様子。
本題である現在の状況を聞くとカキガハラの一番北にあるこのキタカキザキの街は二重の壁に守られているらしい。
攻めてくる魔物を外壁の上から矢とか魔法を撃って迎撃し、外壁で守りきれなくなったら後退して内壁と外壁の間で戦っていると。
何故か魔物は夜しか攻めて来ない。
だからそんな戦い方になるとか。
「もしそれが無かったらとっくに街は墜ちとるわ」
てらぽん先輩は笑いながら言ったが笑い事ではないと思う。
そうやって油断させておいて昼に一気に来る等が十分にあるのはてらぽん先輩も分かっているらしく、警戒は欠かしていないとの事。
「てらぽん先輩。一緒に戦うのは良いんですけど、俺丸腰なんですけど」
お茶を飲みながらセイナと話していたので武器の類は持っていない。
当然防具ものだ。
「まかしとき。この先にある武器屋はすごいで」
すごいとはどの程度なのだろうか。
いつも行っているジークさんの店並の品質を扱っていると良いのだが、ここが最前線である事を思えば標準的な物が大量にあるイメージだ。
そしてそれについても問題がある。
「あの、俺無一文なんですけど」
当然金など持っていない。
「まかしとき。呼んだんこっちやからな。私のおごりや。好きなもん選び」
てらぽん先輩はごそごそと懐から袋を取り出して俺に手渡した。
口を開けて中を覗くと、白い金貨と大きな白い金貨が10枚ずつ入っていて2000万カナあった。
かなりの大金である。
「おお、ありがとうございます」
「かまへんよ。さあ行こか」
てらぽん先輩はあいかわらずお金の使い方が男前だった。
良いとこのお嬢様らしく向こうでもお金の使い方が凄かったが、こっちでもお金に困っていないらしい。
さすが聖女様。
ここはありがたく使わせてもらおう。
さて、程なく件の武器屋に到着したわけなのだが、店の前には大きな看板が掛けられていて、そこには聖剣に匹敵する剣を扱っている店、レベル60以上の人入店可と書かれていた。
「あの、てらぽん先輩。この店」
ここにもあったかこう言う店。
しかしこれなら期待出来る。
「言いたい事はよう分かる。でも品はええゆう話は聞いとる。品は。私は入った事ないけど君なら入れるやろ。ここがあかんかったらこの先の左手に武器屋があるからそこに行き。私は先行くから準備出来たら北の外壁に来てな。また後で」
てらぽん先輩はそそくさと逃げるように去って行った。
何だろうか。
良く分からないがとにかく入る事にしよう。
看板こそ大きいが入り口は狭くて暗く、人を拒むような雰囲気だ。
取っ手に手を掛けて引っ張ると、ギィと嫌な音を立ててゆっくりと扉が開いた。
入ってみると店の中は逆に明るくて外から見るより遥かに広い。
そして所狭しと剣が並んでいた。
本当に剣だけだ。
槍や弓等の物は一切無く、ただ様々な剣だけが置かれていた。
俺の他に客はいない。
そして何やら言い匂いがした。
「久しぶりのお客さんね。歓迎するわ。ようこそ私の店へ」
若い女の声が聞こえたので主を探すと入り組んだ店の奥にカウンターがあり、そこには10才くらいの女の子が丼片手に俺を面白そうに見ていた。
茶色く長い髪はボサボサで大きな瞳の片方は光を映していない。
可愛いと言えば可愛いのだが何か得体の知れない物を感じ、見た目通りではない気がした。
「私は店主のカルナシオン。久しぶりのお客さん。貴方はどんな剣を探しているの? 聖剣は売ってないけど、それに匹敵する剣ならあるわ」
そう言いながらカルナシオンと名乗った少女は丼の中身をかき込んでいた。
接客の態度ではない。
「あら、ここは私の店だもの。どうすごそうと私の勝手でしょ?」
俺の言いたい事が分かったらしいがカルナシオンは態度を変えない。
しかし聖剣に匹敵とは大きく出たな。
「まあ言いたい事は沢山あるけど。俺が欲しいのは俺の背と同じくらいの方刃の剣とその7分くらいの同じ剣。それの予備が2本ずつ。魔法刻印で強化がされていて、さらに魔力を通せるのが理想だ」
つまりいつもの装備だが、今は右手用の剣の予備も必要になるだろう。
しかし聞こえたはずのカルナシオンは空になった丼をカウンターに置くと俺を観察するようにじっと見つめていた。
「ん? 無いのか?」
これだけの剣があるならどこかにありそうだが無いのだろうか。
「面白いわね貴方。持っているはずなのに持っていないなんて。そうね、振り返って3歩歩いて右の棚の一番上にあるわ。入り口の辺りに梯子があるから使いなさいな」
「何?」
「そこに貴方の欲しい物があるわ」
いまいち良く分からないが言われた通りに振り返り、3歩歩いて右の棚を見上げると天井付近にそれはあった。
2本で一対の剣。
俺がいつも使っている不思議な剣と見間違う程良く似た剣が、対になってる剣と一緒に壁にかけられていた。
入り口の辺りに無造作に置かれた梯子を持って来て登り、壁からはずすといつも使っている剣よりもずっしりと重かった。
梯子を降りてまじかで見れば見るほどそっくりだった。
「この店の全ての剣に予備は無いわ。貴方の手にした剣は聖剣のような特殊な力は無いけど使い手次第で聖剣に匹敵する斬れ味を発揮するし、聖剣と斬り合う事も出来る」
いつの間にか横にカルナシオンがいた。
ぱっと見はクシャラよりも幼く見えるが、滲み出る雰囲気は俺より年上な気がする。
そして堂々と聖剣に匹敵すると言う姿は頑固職人のジークさんを思わせた。
「あんな物と斬り合える、と」
聖剣の斬れ味は闘技大会で見た。
ただ薙ぎ払うだけで黒鉄の盾を紙のように斬った。
あれと斬り合えるとなるととんでもない代物だ。
いや、俺の不思議な剣なら斬り合えるだろうか。
何にしろやってみたいとは思わないが。
「少しだけだけどね。残念ながら10合も斬り合えばその剣は終わってしまうわ。あれは剣の形をした神の力だもの、ここにあるのは剣なの。純粋にただ斬るために作られた剣」
「やけに詳しいな。聖剣を見た事があるのか?」
「あるわ。使い手は全く駄目だったどね」
「へえ、まあそう言うこともあるか」
最初から剣の達人が聖剣に選ばれるわけでは無いのは勇者を見れば分かる。
「でも貴方ならその剣で聖剣もった相手でも斬れるわ」
「相手がずるをしなきゃな」
鞘から抜いて見ると剣には細かくびっしりと魔法の刻印が刻まれていたが、触っても剣自体に凹凸が全く無い。
俺がいつも使っている不思議な剣には一切無いが、ジークさんに作ってもらった左手用の剣にはジンさんの強化の刻印が刻まれているで当然凹凸がある。
これはジンさんが悪いとかではなく普通はそうなる。
だからこの剣が普通ではないと言う事だ。
軽く魔力を走らせると刻印全てがうっすらと光を放ち、剣が強化された。
魔力の通り具合が物凄く良い上に驚くほど手に馴染む。
一旦魔力を止めて強化を解除し金貨を一枚取り出して剣に当てて軽く引いてみた。
すると力を込めていないのに金貨は真っ二つになった。
いつもの剣より少し重いし何で出来ているのか知らないが斬れ味も凄い。
ジークさんには悪いがこっちの方がずっと上だ。
「カルナシオン」
「シオンで良いわよ、お客さん」
「シオン。これいくらだ?」
剣を鞘に戻して俺を楽しそうに見上げているシオンに尋ねた。
値段の想像が出来ないが是非欲しい。
「お代は貴方の持っているお金の半分で良いわ」
「半分?」
「そう、貴方が今持っているお金の半分よ」
値段ではなくて半分と来た。
高いと言えば高いのだろうが俺はこの剣が欲しい。
だから俺は迷わず1000万カナを支払った。
「いい買い物したわね、お客さん」
「そうだな」
俺は言われるままに1000万渡したが、もし俺が100万しか持ってなかったら50万だったのだろうか。
「この店はレベルが60以上でお金を1000万カナ以上持っていないと入れないわ」
またしても俺の考えている事を読んだようにシオンは言ったが、お金に関しては看板に書いていなかったぞ。
だがそれよりもシオンは気になる事を言った。
「レベルなんて言われても分からんだろ」
姉さんの小説じゃあるまいしそんなものは分からないはずだ。
姉さん小説で異世界ものは絶対と言っていい程主人公のステータスが書いてあった。
1話ごとに毎回のようにレベルとか力、スキルなどをズラズラと書かれてもそんなもの見たくないもないので当然スルーしていた。
ただ行を稼いでいるだけで仲間が出来たら仲間のステータスまで書き出して、ただでさえ短い1話の半分以上がステータスとかに成り下がる。
当然話など進むはずも無く、ただ毎回たいして変わりもしないキャラの設定を書いてるだけ。
もはや小説ですらなくなり、最後には投げる。
こうしてゴミが出来上がる。
姉さんのノートパソコンにはそう言ったゴミクズが大量にあった。
いや待て。
「シオン、アンタ何でレベルとか知ってんだ?」
レベルなんて言葉をこの世界の人間が知っているはずが無い。
この見た目少女も同郷なのだろうか。
「それは秘密と言いたいとこだけど、私には分かるのよ。その人の強さが。だからそう言う魔法をこの店にかけたの」
レベルが足りないと入れないと言われると思い出すことがある。
何年か前にとあるアクションRPGで苦労に苦労を重ねてやっとボス部屋までたどり着いたら、お前のようなレベルの低い奴の相手など出来ないと言われて強制的に町に戻された事があった。
しばし呆然としたが街の平和なBGMが流れる中で、怒のあまり握ったコントローラーにビシッとひびが入った。
後で聞いたらレベルが最大ではないと戦えないようになっていた。
仕方なくレベルを最大まで上げてから挑むとボスは弱かった。
アクションRPGでは、ボスとはギリギリどころか少し不利な状況で戦うのが楽しいのに製作者は分かっていないと嘆いたものだ。
また国民的RPGで相手の強さが分かる魔法があった。
レベルやHP、弱点属性まで見れるのだが俺は使った事が無い。
俺が知らないだけでこの世界にはそんな魔法でもあるのだろうか。
「へえ、なら魔王とか配下の連中の強さも分かるのか?」
「見ればね。そう言えばこの街は金のアニマのルーに攻められてたわね。もし戦うのならルーは地属性の魔法を使うから地面に気をつけて戦うと良いわよ」
人事のように言っているが自分だってこの街の住人だろうに。
しかしそれを知っているとはつまりどこかで見たのか。
「見たのか? 何処で?」
「昨日お昼ごはんを食べに行った時に探索者ギルドから出て来たのをね。茶色いローブを着て杖を持った背の高い女だったわ」
「探索者ギルド?」
どうしてそこから出てくるのか。
そして魔王の配下と言われているのでどんな化け物かと思いきや人間の女の姿。
もちろん化けているだけかもしれないが、ギルドの連中は気がつかなかったのか。
そもそもこの街を攻めている奴がすでに街中にいるのはまずいだろ
「私は嘘は言わない。そいつはルーナと呼ばれてたわよ。後は知らない。自分でどうするか決めなさいな。ではお客さん。またのお越しを」
そう言うとシオンは店の奥へと消えていった。
思うところは沢山あるがどうするか。
とりあえずてらぽん先輩と合流してから決めるよう。