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女神の世界とクソゲーマー  作者: やのひと
29/42

29 名前

 俺には嫌いな人のタイプがいくつかある。

 特に人の都合とかを考えないで自分の事を優先してくる奴は嫌いだ。 

 だから今目の前にいる様な奴は嫌いなわけだ。 


「日本人に会えるとは思って無かったよ。俺はゴウって呼んでくれ。お前は?」

「ヒロだ。それで、俺に何か用があるんだろ?」


 ゴウと名乗った男は二十歳そこそこの茶髪でニヤけた面が気に入らないチャラい男だった。

 自称イケメンとか言われる感じだ。

 先日のガーディアンの部屋で死に掛けていた所をたまたま助けた奴なんだが第一印象が気に入らない奴だ。 

 

「とにかく助かったよ。お前結構有名なんだって? 折角同じ世界から来たんだ。一緒に組もうぜ」  

  

 いきなりパーティーのお誘いが来た。  

 ゴウの身につけているのは量産品の剣に薄っぺらい皮の鎧と一目見て安物と分かる盾。  

 身のこなしもそこら辺の一般人と変わらない。

 だがこいつらは結構名が知れている。

 魔法使いとして。


「俺達は女神からチート能力貰ったんだ。おかげでイージーモードだったんだけど、まさか魔法が効かない奴が出るなんて思ってなくてさ」


 はい来ました。

 チートとか言う奴。

 いつかそういう奴と会うだろうとは思っていた。

 それにこいつガーディアンの情報を知らずに挑んだのか。

 ギルドで聞けば普通に教えてくれる情報なのに知らないとかどういう事だ。、

  

「俺達?」

「ああ、お~いこっちだ」


 ゴウが声をかけた方を見るとこれまた茶髪の俺より一つか二つくらい年下の女の子がこっちに歩いて来る。

 武器の類は手にしている少し高そうな杖。

 防具は特に無く普通のローブを身につけているからおそらく魔法使い。

 あの時死にかけていたもう1人の方だ。

 

「どうしたの? あれ? そっちは?」

「こいつはヒロ。セカイエの迷宮を踏破したって奴さ。俺らを助けてくれた奴」

「へえ、やっぱり日本人なわけ?」

「ああ」


 こいつとか奴とか会ったばっかりなのに面と向かって偉そうに言いやがる。

 頭の中で好きに呼んでもいいが直接言うか普通。

 しかもきっちりと礼を言う事も出来ない。

 俺はこういう奴が大っ嫌いだ。


「アタシはショーコ。魔法使いって奴ね」

「ヒロだ。2人だけで迷宮にもぐってるのか?」

 

 2人とも新米探索者にしか見えない。 

 イージーモードなどと言っていたがどういう事だろうか。

 

「ああ、ショーコもチート貰ったんだぜ。俺は他人の技をコピー出来るし、ショーコは魔法に呪文がいらないし魔力が半端じゃない。だから俺はショーコの魔法をまねして2人で魔法撃ちまくってんだ」


 出た。

 出ましたよコピー能力。

 姉さんの小説の中にも良く出て来た能力で、相手のスキルをまねる事が出来る。

 とあるゲームが流行って以降、相手のものを模倣するとかが大量に出だした。

 姉さんもその影響を受けて一時期それを出しまくった。 

 そしてショーコの方は魔力が半端じゃないとはマリンの魔力版だろうか。

 そう考えるととんでもないが、それならあんなガーディアンなど消し炭になる。

 かなりの魔法耐性があるとはいえ、俺が戦った盾を守っていた奴の様に全く効かないわけではない。

 それに呪文が必要ないといったがまさか上級魔法とかもだろうか。

 いや、それなら離れて連打しまくれば何とかなったはずだ。 


「それでお前はどんなチートなんだ? 一つチート持ってるだけで楽勝だよな。けど迷宮を完全に攻略出来るってどんなチートなんだよ? まさかチートをいくつも貰ったのかよ?」 


 チートチートチート。

 ここで俺の何かかが切れた。


「チートチートってうるせえんだよ! 馬鹿の一つ覚えみたいにチートチート言いやがって! 特殊能力は何でもチートか! ああ?! チートって書いとけば人目を引くと思ってタイトルそればっかりじゃねえか! 『異世界でチート無双』とか『チートですけど何か』とか『チートな剣もらいまいた』とかとにかくチートって言えば良いと思ってんのか! いい加減にしろ! おかげで俺はチートって言葉が大っ嫌いになったんだよ! 何がチードだ! ふざけんな!!」

「え? いや・・」 




  

 「人間風情が俺に勝てると思ったのか死ね! 魔断殺!!」

 「ヒデオ危ない!」

  

 ピカッ! ズドーン!

 

 「思ったさ」

 「何?!」


 ザシュッ!


 「ぐおお! ばっ馬鹿な! 今のは俺の魔断殺! お前は一体?!」

 「お前の技は見せてもらったからまねしただけさ」

 「まねだと?!」

 「そして俺はそこに自分の力を上乗せできる」

 



「お前はドラゴン見たら火吐けんのか! 見たと同時に技使えるのか! 使っても間に合うわけねえだろ! 時系列どうなってんだよ! 相手の攻撃どうやって防いだんだよ! ぼくのかんがえたさいきょうのしゅじんこうを書こうとして色々破綻してんだよ!」

「え? え? 何? 何なの?」

「あっ見つけた。ってあ~またいつものやつですか」

「え? あれ? アンタ」




 「なっなんですかこれ? ドラゴンですか?! ドラゴンなんてSランクの魔獣ですよ!」

 「そうだ。買い取りを頼む」

 「おい、あいつ」

 「ああ、魔王の四天王を倒したって話だぜ」


 俺も有名になったもんだ。

 金も貯まって来たしそろそろ奴隷でも買うか。

 

 「ヒデオさん、ギルド長がお会いしたいとおっしゃってます」

 「ギルド長が?」






「主人公は凄いんだぞ強いんだぞって言い方がわざとらしすぎるんだよ! そんでギルド長から呼び出しとか毎回毎回みんな同じパターンじゃねえか! いい加減にしろ!」 

「さあ飲んでください!」

「馬鹿みたいに強力な力を与えられたって話はすぐに似たようなパターンになって、ネタに詰まって書くのを辞めるじゃねえか! 姉さんは毎回毎回・・・」


 何かを飲み込んだ感触があって俺は夢から覚めた。

 目の前にはマリンが心配そうに俺を覗き込んでいる。

 周りの視線が痛いがすぐに興味をなくした様に消えていく。

 奇声を上げた俺に関わりたくないらしい。


「あ~嫌な事を思い出した」

「耐性があってもそうなるとかどんだけ酷いんですか」 

「そんだけ酷いって事だ」

 

 そう酷すぎる。

 どうして毎回同じパターンの奴を書くのか。

 そして戦闘を何とかしろと何度言ってもわかってもらえなかった。

  

「えっと、大丈夫なの?」

「ああ、ちょっとした発作の様なもんだ」


 ゴウとショーコはかなり引いていた。

 これで二度目だが我ながらかなりやばいのではなかろうか。

 何か叫んだと思うがきっと姉さんの小説に対する不満だろう。


「なあ、そっちの子も日本人だよな。俺ゴウってんだ。よろしく」

「え? はあ」

「あっ、アンタソープじゃん!」


 ショーコがマリンを見てそう言った。

 ソープってなんだ。

 マリンの顔がショーコを見て強張っている。


「なんだよソープってこの子そんな店で働いてんの?」


 何故だがゴウがしゃべるとイラッと来てぶん殴りたい衝動に駆られる。


「違う違う、この子の名前がさあ」

「うるさい!」


 マリンはショーコの言葉を遮ってテーブルに拳をたたき付けた。

 凄まじい音を立ててテーブルは粉々に弾け飛び、ギルドの全ての視線が再び俺達に集中した。


「そ、そんなに怒んなくてもいいじゃない」


 ショーコは引きつった顔でマリンを見ていて、マリンは物凄い形相でショーコを睨んでいた。

 名前を言おうとしたらマリンが切れた以上それに関する事に間違いない。

 つまり言って欲しくないのだろう。


「なに? そんなに怒ってどうしたの? 名前ってなによ?」


 だが空気の読めない奴が1人。

 それにホッとしたのかショーコは嬉しそうに言った。


「泡姫って書いてマリンって読むの。その子の名前。だからソープ嬢って呼ばれてんの」


 なるほど。

 マリンが言いたくないわけだ。

 所謂DQNネーム。

 キラキラネームと呼ばれる奴だな。

 こう言った名前はまず読んで貰えない。

 次に虐めの標的にされやすい。 

 そして就職の時に書類審査で落とされる可能性が高くなるなど良い事が無い。

 あえて言うなら憶えてもらいやすいくらいか。

 俺もてっきり魔鈴か真凜かと思っていた。

 漢字なんか無い世界だし、ちょっと珍しい程度だと思っていた。


「うるさい・・」


 マリンは俯いて肩を震わせていた。

 よっぽど知られたくなかったらしい。

 気持ちは分かる。

 同じ立場なら俺だって知られたくない。


「あわひめちゃんか。よろしく」


 しかしゴウはにやけた面でそう言いやがった。

 ああ、こいつは駄目だ。

 そう判断して俺はマリンの腕をとった。   


「俺を呼びに来たんだろ? 帰るぞ」

「え?」


 これ以上話す事はない。 

 話せば話すほど腹が立つ。


「おいちょっと待てよ」


 去ろうとした俺の肩をゴウが掴んだ。

 もう、うっとうしいとしか言いようが無い。

 

「悪いけどお前らと組む気はない。そっちで勝手にやってくれ」


 俺はゴウの手を振り払った。

 元々こいつと組む気など起きなかった。

 少し話しただけで分かる頭の悪さ。 

 迷宮にもぐる事は命がかかっているのにそれを理解していないなんて話にならない。

 死に掛けたのにだ。

 ショーコと2人似た物同士で人の気持ちとかを考えない、というか考えられない。

 そんら奴等と一緒に探索なんて冗談じゃない。

 後ろで何やら文句を言っているがもう知った事ではない。

 あいつらは近い将来今度こそ死ぬだろう。


「ヒロ先輩。お願いします。何も言わないでください」


 俺に手を引かれながらマリンは小さな声でそう言った。

 余程自分の名前が嫌いらしい。

 なら俺も言う事はない。


「ああ。それで、用事の方は?」 

「はい、お屋敷にセイナさんが来てます。大事な話があるとか」 


 嫌な予感しかしなかった。



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