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女神の世界とクソゲーマー  作者: やのひと
26/42

26 世の中とは


 女神は死んだ人間を限定的ではあるが生き返らせることが出来る。

 もしそんな奇跡と呼べる事が出来るなら魔王などどうとでもなるはずだ。

 だが魔王が健在な事を考えるとどうなるか。

 1つ目はセイナが嘘を言っている。

 これは無いと思っていい。

 何故ならそんな事をする理由が無い。

 2つ目は女神にとって魔王のやる事は問題ではない。

 3つ目は魔王には女神と対抗出来るだけの力がある。

 おそらく2か3のどちらかだと思うがどっちにしろろくな事にならない。


「じゃあ俺からも聞きたい。勇者は魔王を倒すつもりなのか?」


 『勇者でハーレム』の勇者なら魔王と戦うどころかこの国から逃げる。

 『勇者らしいので無双してくる』なら勝手に調子に乗って突っ込んで行って、ご都合主義な展開がないこの世界なら死ぬだけ。

 どちらでもない事を祈る。

 

「そうね、あの子は戦うつもりよ。このまま放っては置けないって」

「この世界なんか関係ないのに?」

「女神に力を与えられて聖剣にまで選ばれた。その上で現状を教えられて助けて欲しいって言われたら見捨てるなんて出来ないのよ」

「力を与えられたって言うのは?」


 やはり何か与えられていたのか。

 だが大会で見た感じでは特に何も感じなかった。


「それは良く分からないわ。ごめんなさい」

「聞かなかった?」

「いいえ、答えてくれなかった」


 セイナは聞いたこっちが悪い気がする程申し訳なさそうに答えた。

 知り合いの人間、しかも聖女に教えないとはよっぽどの何かがある。

 では女神に与える力と言われて思い浮かぶのは何か。

 最初に浮かんだのは国民的RPGで有名な何度死んでも最終チェックポイントから生き返る奴だ。

 しかし姉さんの考える設定でそんな堅実でひねりのないものがあるとは思えない。

 もっと馬鹿の一つ覚えみたいで、なおかつ強力な奴のはず。


「困っている人を見捨てられないか」

「ええ、昔から困っている人がいたら助ける。簡単だけど中々出来ない事を自然にやる子だったわ」


 その性格で勇者ならまるで主人公ではないか。

 なら『混沌の勇者』か。

 しかしそれは無いと思っていたから予想外だ。

 だがあれに出てくる勇者なら能力を教えられないのも納得だ。

   

「ならアンタは勇者が魔王と戦うために力を貸してくれと言われたらどうする?」


 さあ、ここが問題だ。

 セイナは親しいはずなのに勇者とは別行動していた。 

 見つからないようにしていたとは思えないから互いにこの世界に居る事を知っていたはずだ。

 国としても勇者と聖女が一緒に魔王と戦ってくれるのは望むところだから勇者にもそういった話をしてないとおかしい。

 なら何故一緒に居ないのか。


「私に出来る事は穢れを払う事と薬を作る事、あと回復魔法を少しだけ。戦いでは役に立たないわ」

「神聖魔法とか使えないのか? あれなら攻撃魔法もあるしアンタなら使えるはずだろ」


 穢れを払う力は女神の力。

 それががあるなら神聖魔法の適正が絶対にある。


「使えないわ」

「ほう」


 だから今セイナは嘘をついた。


「私だって出来る事があるなら手伝ってあげたい。でも」


 セイナは顔を曇らせて視線を落とした。

 よく見ると肩が小刻みに震えている。

 

「私はもう外に出たくないの。怖いのよ」





 俺達はセイナの家を後にして宿に戻る道を歩いていた。

 マリンは難しい顔をして何か考えてるらしくセイナの家を出てから一言も話さなかったが、立ち止まって意を決したように重い口を開いた。

 

「ヒロ先輩」

「何だ」

「私、勘違いしてました。聖女ってイケメンの男の人に囲まれたクソ女だって思ってました」

「奇遇だな。俺もだ」


 聖女ことセイナに悪気は一切無かった。

 美人で気遣いが出来て人を引き付ける魅力がある。

 俺が見たところ誰からも好かれる故に異性からの特別な好意はハッキリと言われない限り理解出来ない。

 だからあんな事になった。

 日本で刺されたというのもおそらく同じような理由からだろう。


「こう言っては何ですが、残念ながらセイナさんはもう駄目ですね。俺様王子って最低です。死ねばいいのに」


 つまりそう言う事だ。 

 この国は、この世界は2人しか居ない聖女の1人をを失った。

   

「あれ? でも勇者ってセイナさんの知り合いなんですよね? セイナさんがあんな事になったのに何で黙ってるんですかね? 私なら俺様王子の両手足と汚い奴をちぎりますけど」 

「ちぎる? まあいいや。そうだな、勇者にとってセイナはあまり大事じゃないのか、やろうとしたら止められたかは分からんがこうなった以上、勇者にとってもう終わった事なんだろうよ」 

「終わったって、何も終わってませんよ!」


 マリンは女の子として王子が許せないし、何もしない勇者に腹を立てている。

 しかしこれは当人達の問題だ。

 

「今俺達がそれを言った所で何にもならんのはお前だって分かるだろう。勇者が何を思っているのかなんて直接会って聞くしかない」

「でも!」

「聞いてどうなる? 聞いてどうする?」

「それは・・・」

「いいかマリン。俺はな、王都に来てお前が聖女が行方不明になってるって言った時から、王子が聖女を監禁してるって思ってた」

「え? 知ってたんですか!」   

「そうだろうなって予想はしてた」


 『私は聖女じゃありません』をある程度読んでいたのでおのずと想像出来た。

 

「聖女に危害を加えたら神罰が下るとされているので誘拐しようとする馬鹿はいない。次に何処かに誘拐されたらしいが街から出ていない。つまり考えなしの馬鹿で聖女を監禁できる拠点を持っていて聖女の事が欲しい奴。最後に聖女がそんな感じで行方不明になったら俺様王子が国を挙げて捜索するはずなのにそんな事になってない。ほら犯人誰だ?」

「俺様王子ですね」 

「そう言う事だ」

「ならどうして? ヒロ先輩なら」


 どうもマリンは俺を過大評価している気がする。

 俺なら聖女を助けられたと。


「助けられたのにどうして助けなかった? 簡単だ。俺の中では聖女のイメージは最低だったし、何より聖女と知り合いではなかったからだ。それどころか関わらないようにしていた。だから俺は城に忍び込んで何処に居るかも分からない聖女を探して助け出すなんてまねはしなかった。それだけだ」


 当然だが王城はこの国で最も警戒厳重な場所なので、忍び込むにはジンさんのように相当の用意が必要になる。

 もし兵士に見つかれば言い逃れなど出来ないし最悪この国から追われる事になる。

 それだけのリスクを負ってまで聖女を助けに行く理由が俺にはなかった。

 これがマリンやクシャラだったら絶対助けに行った。

 だが俺は顔も知らない、会った事も言葉を交わしたことも無い人間のために危険を冒したくはない。

 例え冷たいと言われようともだ。

 だがもしそんな事を言う奴がいたら、そいつは偽善者か考えなしのアホだ。 

 文句があるなら自分でやればいい。


「そう、ですね。どうしよう無かったんですよね」

「どうにも成らん事もあるさ」

 

 世の中そんなものだ。


「うん、この話はもう終わり! ヒロ先輩、お腹減ったから何か食べて帰りましょう。もうやる事も無いんですから、明日にでもセカイエに帰りましょう」 


 マリンが努めて明るい声を出した。

 納得は出来ないがそれでも無理やり自分を納得させたようだ。

 そんなマリンと比べて俺はそこまでどうとは感じていなかった。

 こっちの世界に来て二年半で嫌なものを見て来てたからか自分がかなり擦れてしまっているのを今更感じた。

  

「この前賞金貰ったお店に行きませんか? 二回はチャレンジ出来ないのが残念ですが、普通においしいかったですよ」

「けどお前出禁になってなかったか?」

「大丈夫ですよ。挑戦しなかったら良いんですから」


 そう言う問題ではない気がするがまあいいや。

 気持ちを切り替えて行こう。

 少し歩いてマリンが賞金を奪った店に着くと人だかりが出来ていた。

 

「も、もう一杯頂きたい!」

「止めときなよお客さん」

「まだ二杯しか食べておらぬ! まだだ! まだいけるでござる!」


 何やら楽しい事になっているようなので店を覗くと、バケツの様な大きさの丼に山と詰まれた様々な野菜や肉を青い顔で必死に食べている男が居た。


「おお、アレですよヒロ先輩。特製ランチです」


 あんな物を六杯も食ったのか。

 俺は一杯でも無理だな。


「年端も行かぬ女子に出来て拙者に出来ぬはずがない!」


 マリンと食う量を競うなんて馬鹿のする事だ。

 それでも二杯食べてるのは凄いと思う。


「いや無理だろ」

「ヒロ先輩、あの人ってたしかツバキさんですよね」

「そうだな。何やってんだあの人」


 病気とか言って棄権した人が死にそうな顔で飯を食っていた。 




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