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女神の世界とクソゲーマー  作者: やのひと
21/42

21 聖剣

 7日間馬車に揺られる予定がマリンが酔って死にそうになったので結局は途中から歩いたため王都に着いたのは11日後。

 泊まった宿は一晩3000カナと結構高いがサービスが良いとギルドで聞いていたのでそこに決めた。

 部屋は綺麗だしサービスも良いので次の機会があればまたここにしようと思う。

 だがしかし。


「おかわりください」

「はい、少々お待ちをください」


 朝と夜の食事は代金に入っているのがこの宿の不幸。

 昨日の夜はその辺の店で食べたが朝食は食ってから出かけようとなった結果がこれだった。

 それでも丁寧に対応する所に宿のプライドを感じる。


「俺はこれから城に行ってくる。夜には戻ると思う。お前は、まあ好きにすると良い。金は持ってるな?」

「もちろんです! この日のために20万程用意してきました!」

「そうか、程々にな」


 やっぱり食うために来たのかこいつ。

 色々やらかしそうだが大丈夫だろうか。 


「おかわりください」

「はい、少々お待ちください」

「今度はもっと大盛りでお願いします」

「か、畏まりました」


 激しく不安だが一緒にいる事が出来ない以上信じるは無理なので諦めるしかないか。 

 給仕の顔が引きつっていたが見なかった事にしよう。

 



 宿を出て真っ直ぐに王城へ向かうと段々その大きさが分かって来た。

 想像していたのより大きく警備は厳重だ。

 少し緊張していたのだが門番に用件を伝えてギルドで受け取った証明書を渡すと、あっさり所謂玉座の間に通されてすぐに王との謁見である、

 謁見の作法などはジンさんに教えてもらった。

 あの人本当に何でも知ってるな。

 

「よく来たヒロ・ミヤマ。面を上げよ。その方の事は聞いておる。1人でセカイエの迷宮を踏破したとな」

「はい」


 そして王様だが、金髪で威厳たっぷりの髭と貫禄のある姿に話し方など正に王様。

 周りを固めている騎士連中も良い装備をしていて正に王の騎士。

 つまりどちらもよくあるファンタジーの王様と騎士達と言う事だ。


「知っておるかも知れぬが、カキガハラが魔王の軍勢と戦っておるが少々分が悪い。聖女が召喚されたがそれだけで勝てるとは言い難い。故に我が国も勇者を召喚した」


 王様は勇者を召喚とかあっさりと言ってるけどこれ言ったら駄目な奴じゃないだろうか。

 

「陛下。その話は」


 宰相とか多分そういう立場の人が慌ててるのを見ると言ってはいけない類のやつだったらしい。


「良い。勇者は異世界から呼び出されたのだが、その方もこの世界の人間ではあるまい」

「はい、おそらく勇者と同じ世界かと」


 俺が答えると途端に辺りが騒がしくなった。

 ヒソヒソと何やら話しているが非常に感じが悪い。

 俺があっさり答えたのは目の魔道具の存在があるからだ。

 ギルドにある嘘発見器がこんな場所に無いはずがない。

 恐らく気づかれにくくて、ずっと高性能の奴が必ずある。

 だから下手に嘘をついても絶対にばれし、そうなるときっと面倒な事になる。


「一つ問う。嘘偽り無く答えよ」

「はい」


 王様は低い声で俺を威圧するように言ってきた。

 おそらくこれが本題だ。

 このために俺を呼んだのだろうが、実際何を聞かれるのかいまいち分からない。 

 勇者とか聖女がらみだろうと思うがはっきりとしない。

 何だか胃が痛くなってきた気がする。

 俺は元々こういった状況が苦手なんだ。


「その方、聖剣を持っておるか?」


 王様がそれを口にした瞬間、謁見の間が水を打ったかのようにシンと静まり返った。

 全ての視線が俺に集まっているのを感じる。

 しかし聖剣と来たか。


「いえ、持っておりません」


 聖剣とはこの世界に8本ある所謂伝説の武器だ。 

 生憎と俺はそんな主人公な武器は持っていない。


「フム、左様か。もしやと思ったのだがな」


 王様は俺をじっと見つめて深いため息をついた。

 周りもどこか張り詰めた空気になっている。

 何だろうか。

 凄く気になる。

 それに気づいたのか宰相っぽい男が口を開いた。


「お前が踏破したセカイエの迷宮には聖剣があるはずなのだ。見ておらぬか?」

「聖剣ですか? そんなものは・・・あっ」

「見たのか?」


 そんな物は見ていない。

 見てはいないがおそらくはあそこにあった。


「90階層に騎士の像がありまして、左手に盾を持っていましたが右手には何も持っていませんでした。そいつは結局動く事も無くただそこにあっただけですが、本来は右手に剣を持っていたのではないかと」


 多分そうだ。

 あの像は本来右手に剣を持っていたんだ。

 話が本当なら聖剣と言う主人公の武器を。


「なんと、では誰かが持ち去ったと言う事か。しかしそれは・・・」


 王様は目を瞑り何か考えている。

 それは何だろうか。

 そこで言うのを止めるのは非常に気になるので止めてもらいたいが王様に聞くわけにもいかない。

 だがまたもや宰相っぽい男が俺の答えてほしいと言う視線に気づいてくれた。


「聖剣は持ち主を選ぶ。そしてそれを手にした者はそれが何であるか、どんな力があるのか理解するのだ。そして聖剣はそれぞれが違う、奇跡とも言える力を持つ。故にそれを手にした者はその時から人の及ばぬ存在となる。もしお前の言う通りならお前より先にそこに至った者が選ばれたのだろう」


 どうやら聖剣と言うのはこの剣を抜いた者は王になるとかそんな感じの物らしい。

 実の所、俺の不思議な剣は聖剣ではなかろうかと思った事があったが凄い力とか感じないのでやっぱり違うようだ。

 そしてこの話で思い当たるのはトリーさんの言っていた魔法使いの女の子。

 迷宮を踏破したのは俺が初めてで90階層以降は帰る事が出来ないはずなのに、ジンさんの話では地上に戻って生きていると言った。


「大儀であった。下がるが良い」

「はい」




 

 王城から出ると思いのほか時間が過ぎていたらしく昼になっていた。

 さて、やるべき事はやったので後は闘技大会でも適当に見て帰ろう。

 そんな事を考えながら当ても無く歩いていると良いにおいがしてきた。

 いつの間にかレストラン等が並んでいる通りに来ていたらしい。

 王都だけあって沢山の店が並んでいてどれも活気があり、食べる必要が無くても食べてたくなってくる。

 その中にやけに人が大勢集まっている店があり、そこから知った声が聞こえてきた。

 店の看板に大きく特製ランチ。時間内に食べきれたら5000カナ!と書かれていた。


「ほら次持ってきてくださいよ! まだ時間あるでしょ? 速く速く!」

「はい、お待ちどうさま!」

「俺アレ半分でも食えなかったんだけど、あの子何杯食った?」

「5杯」


 うん、ある意味予想通り。 


「ごちそうさまでした。3万カナありがとう」

「もう来ないでください」


 幸せそうな顔をしたマリンが店主の悲痛な声を背に人をかき分けで出てきた。

 俺に気づくと嬉しそうに駆け寄ってくるが周りは信じられないものを見るようにマリンを見ている。

 つまりこいつ制限時間内に6杯も食ったのかと一瞬驚いたが良く考えれば何時も通りだった。


「もう終わったんですか?」

「ああ、後は闘技大会見て帰るだけだ」

「そうですか。大会は今日で3日目らしいですよ。お腹も膨れたし早速行きましょう!」

「ああ、俺は食欲無くなったけどな」


 闘技場はここからでも見えるので歩いて10分程で着くだろう。

 実際どの程度の実力者が出るのか気になっている。

 もしかしたら、とんでもないのがいるかもしれない。


「そうだ、ヒロ先輩。私、気になる事を聞いたんです」

「なんだ? 大食い大会でもあるのか?」


 こいつなら間違いなく優勝する。

 だがマリンはむっとした顔をした。

 違うらしい。


「違いますよ。ジンさんが言ってた聖女サマ。セイナって子らしいです」

「へえ、セイナって名前は日本人っぽいな」


 一概には言えないが、聖奈か静奈あたりか。

 

「髪と目が黒かったって話だからきっとそうです。でも10日前から行方不明らしいです」

「どういう事だ?」

「はい、その子は地上専門の探索者だったんですけど10日前に突然姿を消したんです。王都から出た様子はないらしくてギルドの方でも探しているんですが見つからないそうです」

「探索者、地上専門、聖女か」

「ヒロ先輩?」


 そのキーワードからいくつか連想出来る事がある。

 王城では勇者の話はあってもこの国の聖女の話は聞かなかった。

 聖女と呼ばれているが召喚された訳ではない。

 それが行方不明となると実はおおよその検討はつくのである。

 それは耐性がある俺でさえも本当に気持ち悪くて吐きそうになった小説を思い出させたからだ。


「いや、何でもない。そっちはどうにもならんから闘技場に行こう」


 だが俺は無視する事にした。

 まさに触らぬ神にとでも言う相手だ。

 態々深入りする必要は無いし関わってはいけない。


「う~ん、そうですね。そうだ、闘技大会には勇者が出てるらしいです。きっと必殺技とか使いますよ!」

「食らったら相手は死ぬけどな」


 必ず殺す技だから必殺技。

 マリンの言う通り、勇者なら勇者専用の魔法や武器があるはず。

 聖女の事は放って置いてそれを見る事にしよう。




「『私は聖女じゃありません』だな」

「何ですかそれ?」

 


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