20 闘技大会
沸き起こる大歓声。
そして見回す限りの人、人、人。
ここは王都にある闘技場。
今王都は年に一度の闘技大会が開催されていてお祭り騒ぎである。
その中心に俺とマリンはいた。
大会は二日目に突入していて予選を勝ち抜いた32人が次の今日最後の試合で16人になる。
「赤からはノリン所属の探索者ガイアス!」
一際大きな声援と共に赤コーナーから長身の男が現れた。
左手に大きな盾を持ち、右手に太い槍を持っていて全身を覆う金属の鎧を着けている。
ノリンの街では有名な探索者で迷宮の最前線で戦っていて、去年は二回戦で槍が折れて負けたらしくそれが無ければ勝っていたとか。
「重装備の大盾持ちとかガン盾ですね。それに槍ですか。盾チクはつまんないです」
「堅実と言え」
盾チクとは大きな盾を構えて敵の攻撃を防ぎながら槍でチクチク攻撃する事だ。
当然片手で槍を突くので威力は出ないが相手からの攻撃を体が隠れる程の大きな盾を前面に出して防ぎつつ攻撃するのでまさに攻防一体。
相手からすれば非常に攻めにくい。
「青からは脅威の新人タツヤ!」
青コーナーからタツヤと呼ばれた男が現れると、途端に女性から沢山の黄色い声が上がった。
遠目でも分かる黒い髪と分かりやすい名前。
間違いなく同郷の奴だ。
右手に輝く剣、左手に顔くらいの小さな盾を持っていて、金属の胸当てなど軽めの装備をしている。
半年ほど前に王都に現れて探索者として活動をしていて、何やら王様から支援を受けており恐ろしく強いとか。
しかもイケメン。
「剣が光ってますよ! あれ絶対に伝説の剣とかですよ! きっとビームとか撃ちますよビーム!」
「何で剣からビームが出るんだよ」
今日ここに来た俺達は昨日の試合を見ていないので良く知らないが、なんでもタツヤはこれまで全て一撃で決めたらしい。
どんな戦い方をするのか気になるところだ。
「試合開始!」
事の起こりは10日前。
マリンがスライムを虐殺して女神の笛を手に入れた俺達はギルドに報告に戻った。
いつものようにナイカさんの所へ行くといつものように冷たい感じの声が出迎えてくれた。
「半分買取をお願いします」
「はい。それでこのAランク相当の結晶は何でしょうか。何処で手に入れられたのですか?」
やはりと言うか当然でかいスライムから出た結晶が問題になった。
ここの迷宮では最終とされる50階層辺りでもこの大きさは無いらしい。
「あれは37階層になるのか?」
36階層の下だから37階層だろう。
「でもヒロ先輩。37階層って呼ばれてるのがありますから、36.5階層ですよ」
「ああ、そうか。まあ、その辺です」
「なるほど。中間辺りに隠し部屋ですか。危険ですね」
「え? 今ので分かるの?」
「まあ、大体は。ガーディアンはどの様な?」
「アホみたいにでかいスライムでした。戦いはお勧めしません、入り口は36階層から下に下りる階段の中間あたりの穴の開いた壁です」
あの階層辺りで戦っている探索者にあれの相手はまず無理だ。
一体どうやってあんなものを倒すのか。
強力な魔法でもあればいけるだろうが、あの辺りでそんな物を使える魔法使いなどいないだろう。
つまり正攻法では普通に無理なのを考えると、あるいは聖女限定のイベントボスの類なのか。
「そうですか。ではそのように通達を出しておきましょう」
ギルドはそこにでかいスライムがいて危険だから近寄るなと言うだけで後は探索者の事自己責任に任せる。
ここはそう言う所だ。
「ではこの結晶はギルド間の約定によりこちらのギルドで買い取ります。全部で425万5千カナになります。お確かめください」
「はい、どうも」
約定とは俺が持ち帰った物で割り切れない物が出たときはスリアーノのギルドで売るというものだ。
「それからヒロさんに王城から召喚状が届いています」
「召喚状? 城から呼び出しって事ですよね。それって具体的に誰からですか?」
「ヒロ先輩何か悪い事したんですか?」
「いや、そんなものは無い、はず」
お偉いさんに呼びだされるような悪い事はしていないはずだ。
多分。
それに一言に王城からと言っても色々ある。
政治、お金、人、物、などの絡みで対応が変わる。
「それは分かりかねます。ですが行かれた方がよろしいかと」
この国の最高権力からの呼び出しである以上、非常に面倒だが行かないわけにはいかない。
だが間違いなくろくでもない事だ。
「おそらく勇者か聖女がらみだろう」
夕食の席で召喚について話すとジンさんは嫌そうな顔をした。
今日の夕食はこっちではよく食べられている、まるできし麺のような太さのパスタである。
例によってマリンの前だけ文字通りの山になっていたはずがものの数分で半分がなくなっていく。
それに対してクシャラはすでに調理場に二つ目の山を用意しているらしく今それを取りに行っている。
最近これが当たり前になってきているのが恐ろしい。
「聖女はともかく勇者ですか。城で誰かが召喚魔法を?」
勇者と呼ばれる存在は基本的に召喚魔法で異世界から呼び出される。
大体王さま主体になるがたまに違う場合もあり、その時は非常にやっかいだ。
「考えられるのは『勇者でハーレム』か『勇者らしいので無双してくる』のどっちかだ。カキガハラの状況がかなり悪いからそれに備えて召喚を行うと言う話だった。妨害しようにもそれを知った時はもう遅かった。詳しい内容は分からんが、呼ばれたのはかなり若い男で名はタツヤ・スドウ」
「お約束の日本人の勇者ですか。しかしあのシリーズですか」
もうタイトルだけでアレだが、内容はもっとアレだった。
思い出すだけで急に食欲が無くなった。
「えっと一応聞きますがどんな内容なんですか?」
マリンが食事の手を止めて聞いてきたがどう答えたら良いのか迷うところだ。
読むのが一番良いのだがあんな物を読んだらマリンはしばらくは悪夢に魘される事になる。
あらすじはこうだ。
「『勇者でハーレム』はある日いきなり異世界に勇者として呼び出される。勇者としてとんでもない力を与えられたらしいけど自分を利用しようとしている王が気に入らないから逃げる。別の国に逃げて勇者の力を使って探索者として強くなって名を上げる。パーティーを組んで活動して行くけど当然仲間はみんな主人公大好きな女の子達。もちろん女の子の奴隷を買う」
「うわあ・・・」
マリンはそれはもう嫌そうな顔をしたがそれを読んだ俺はもっと嫌だった。
「くらえ! 紅蓮爪牙!」
ザシュ!
「ぐああああ!」
「紅蓮凍翼!」
キン! ガシャン!
「フンッ!」
「なっ! あいつリョウの技を受けて!」
「チッ! 人間ごときがこの俺に傷をつけるなんて許せねえ! ぶっ殺してやる!」
とりあず強そうな名前の必殺技を叫ぶが具体的にどんなものなのかは説明無し。
ぐあああ! で敵は倒れて終わり。
キンッだのガシャンだの戦ってるのにどんなふうに戦っているのか全く分からない。
酷すぎる。
「とにかく、あんまり関わらないようにしろとしか言いようが無い。明日にでも出発しろ。王都への転移門は無いから馬車で行くといい。7日といった所だ」
街同士はギルドに転移門が存在するが、攻め込まれるのを防ぐためか王都にはそれが無いため歩いて行くかこっちの主流である馬車を使うかしかない。
だが馬車は狭いし座ってるだけでも疲れるし、それが7日も続くとか嫌過ぎるが歩き続けるのはもっと疲れる。
「私も行って良いですか?」
「行きたいのか?」
「はい、行ってみたいです」
城には入れないだろうが一緒に王都に行くのは問題ないだろう。
「じゃあ行くか」
「はい!」
マリンは嬉しそうだが、何がそんなに嬉しいのだろうかと思ったがすぐに分かった。
こいつは食うのが好きだから王都の食い物を期待しているのだ。
少し前にギルドに王都から来た探索者とそんな話をしていた。
しかもアウトドア派らしいので外に出かけるが好きなんだろうが、どうやら馬車の辛さを知らんと見える。
「王都ではもうすぐ闘技大会があるからついでに見てくるといい」
「おお、ファンタジーっぽいですね!」
「闘技大会ですか。本当にもう・・・」
闘技大会と聞いて自然にため息が漏れた。
前にも言ったが回復魔法で傷は癒せても失った手足などは再生出来ない。
大会は当然真剣を使って戦うので腕の一本を無くしたり死ぬ可能性も十分にあるので、参加するのは余程の自信があるのか馬鹿のどちらか。
「どうしたんですか?」
マリンが不思議そうに俺を見ているのでどうやら分かってないらしい。
だが俺には何よりも闘技大会には言いたい事がある。
「あのな、姉さんが言ってたんだ。ネタに詰まったらとりあえず武闘大会を開けば良いってな。そうすればしばらくもつし、適当にキャラを出せば後につながるってな。だから姉さんの書いた奴には高確率でそういった武闘大会が出て来ては主人公が出場して、噛ませ犬っぽい奴がお約束の台詞を吐いては叩きのめされる。それで主人公が優勝するか途中で敵が襲ってきてうやむやになって終わる」
「えっと、そうなんですか」
そうなんです。
本当にいい加減にしろ。